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盗賊さんと昔の思い出
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朝食を食べ終えて、私は少し町をぶらつくことにした。
そばにはぴったりとジルがついてきている。
初めて歩く町で不安だろうとか、なにかに巻き込まれたらとか、いろいろ心配してくれているみたいで、なんだか昔のお父さんみたいだった。
……昔、ね。
心に落ちてきた黒い塊に気付かないふりをして、初めて見る景色を楽しんだ。
なんだかたまに物騒な格好の集団や怖い顔の人とすれ違うけど、みんな私なんかには興味無いみたいでそんなにビクビクすることもない。
「どうです?初めてのこの町は」
「うん。楽しい。たまに怖い人とかもいるけど…」
ジルといるうちに私の口調は砕けたものになっていた。
「なにか欲しいものは?なんでも買って差し上げますよ?」
「いいの?」
「ええ、なんでも」
ニッコリと笑ったジルを見て、それからあたりの店を1通り慌ただしく見ていくと、いかにもアンティークな感じの店が目に入った。
中はやっぱり全体的に「古い」って印象。
その中に、懐中時計。
心做しか、昔持っていたものに似ている気がする。
誰にもらったかなんてもう覚えていないけど、きっとお父さんかお母さんが仲良しだった頃のものなんだろうな。
「……なんでそういうこと考えちゃうかなぁ…」
ぎゅっと拳を握って涙をこらえる。
店先で待っていたジルに声をかけると、私の手の中の懐中時計に目を留めて満足げに絶賛してくれた。
自分の好きなものを褒められるのって、すっごく嬉しい。
「はい、どうぞ!」
お会計を済ませたジルが私に懐中時計を手渡す。
私はそれを受け取って、さっと首にかけた。
「どう?可愛い?」
「そんなに焦らなくても誰も盗りませんよー!はい、とっても似合ってますよぉ」
間延びした声で褒めてくれながら手を叩く。
なんというか、この人の感情はすべてが喜と楽なんじゃないかというくらいに笑った顔しか見ていない。
それはそれで、私みたいにネガティブよりは断然いいんだけど。
苦笑いしながら町を歩いて、近道だという小道に入った。
今思えば、この選択はかなり馬鹿だった。
こんな物騒な盗賊みたいな人が多い町でこんな狭い道に入ったら。
「おい嬢ちゃん。それ、いいもん持ってんね?」
狙われるに決まってますよね?
「嫌です。絶対渡しません」
盗賊が顔を歪める。
「馬鹿な事言ってねぇでとっとと渡せやごらぁ!!!」
口調が荒くなる。ナイフを突きつけられる。
「……あいにく私そんなもの怖くないんです」
ヒステリックになった母親に何度も刺されそうになったから。
「はいそこまで。悪いけど、彼女に触らないでくれますかぁ?」
こんな時まで緊張感のない声で間に入るジル。
「誰がオメェ見てぇなひょろっちいやつのいうこと聞くんだよ!」
ナイフを持っているやつがそう言うと、後ろの数人がゲラゲラと笑った。
あぁ。
なんだこっちも同じじゃない。
「あなた達って馬鹿ね。弱いものいじめしかできないの?」
「はぁ?」
「言わせてもらうけど、本当に強い人は自分より強い人に立ち向かうものなの。強い人に虐げられている人たちを救うためにね」
私はそういう人たちを見てきたから。
だからわかるんだよ。あなた達の間違いを自信を持って指摘できるんだ。
「てめぇ調子に乗ってんじゃねぇぞ女のくせによぉ!!!」
青筋を浮かべて怒りだす盗賊。これは少し怖かった。
そして私に向かって拳が振り下ろされた。
「調子に乗ってるのはどっちだ」
その声とともに盗賊は醜い「音」を上げて崩れ落ちた。
声とは言い難い、音。
見ると、あの声の主はジルらしかった。
さっきまでと、違う。
顔が全然違う。
「その人に触ったらお前らもこうなるけど?さっさとリーダー担いでどっか行ったら?」
私に向ける笑顔とは違う。
それは、まるで嘲笑。
相手を嘲笑う。
──なんでこんなことも出来ないの?
──お前が妹だなんて恥ずかしいよ俺は。
──あんたはあたしより下なんだから、わきまえなさいよ!
みんなの顔。
それと同じ。
やめてよ。やめてよぉ……
「……………………………………………………っそんな目で見ないで…………!!」
叫んでから気付いた。
あ、やっちゃった。
ジルがこっちを見ている。驚いている。
さっきの雰囲気は変わってないけど、その顔に嘲笑はもうない。
盗賊たちはいなくなっていた。
なんだかなにもかもグチャグチャになった気分で、わけが分からなくて。
気付いたら、泣いていた。
地面に顔を伏せて、土下座するみたいな格好で。
ジルはそんな私を抱き寄せてくれた。
「大丈夫ですよ。もう大丈夫」
その声はもういつもの優しいジルの声だった。
それに安心してさらに涙が止まらなくなってしまう。
私は、いつからこんなに泣き虫だったの……?
脳裏にはまださっきの記憶が残っている。
ごめんなさい。
お母さん、お兄ちゃん、佑利子。
………ダメな子でごめんなさい……。
そばにはぴったりとジルがついてきている。
初めて歩く町で不安だろうとか、なにかに巻き込まれたらとか、いろいろ心配してくれているみたいで、なんだか昔のお父さんみたいだった。
……昔、ね。
心に落ちてきた黒い塊に気付かないふりをして、初めて見る景色を楽しんだ。
なんだかたまに物騒な格好の集団や怖い顔の人とすれ違うけど、みんな私なんかには興味無いみたいでそんなにビクビクすることもない。
「どうです?初めてのこの町は」
「うん。楽しい。たまに怖い人とかもいるけど…」
ジルといるうちに私の口調は砕けたものになっていた。
「なにか欲しいものは?なんでも買って差し上げますよ?」
「いいの?」
「ええ、なんでも」
ニッコリと笑ったジルを見て、それからあたりの店を1通り慌ただしく見ていくと、いかにもアンティークな感じの店が目に入った。
中はやっぱり全体的に「古い」って印象。
その中に、懐中時計。
心做しか、昔持っていたものに似ている気がする。
誰にもらったかなんてもう覚えていないけど、きっとお父さんかお母さんが仲良しだった頃のものなんだろうな。
「……なんでそういうこと考えちゃうかなぁ…」
ぎゅっと拳を握って涙をこらえる。
店先で待っていたジルに声をかけると、私の手の中の懐中時計に目を留めて満足げに絶賛してくれた。
自分の好きなものを褒められるのって、すっごく嬉しい。
「はい、どうぞ!」
お会計を済ませたジルが私に懐中時計を手渡す。
私はそれを受け取って、さっと首にかけた。
「どう?可愛い?」
「そんなに焦らなくても誰も盗りませんよー!はい、とっても似合ってますよぉ」
間延びした声で褒めてくれながら手を叩く。
なんというか、この人の感情はすべてが喜と楽なんじゃないかというくらいに笑った顔しか見ていない。
それはそれで、私みたいにネガティブよりは断然いいんだけど。
苦笑いしながら町を歩いて、近道だという小道に入った。
今思えば、この選択はかなり馬鹿だった。
こんな物騒な盗賊みたいな人が多い町でこんな狭い道に入ったら。
「おい嬢ちゃん。それ、いいもん持ってんね?」
狙われるに決まってますよね?
「嫌です。絶対渡しません」
盗賊が顔を歪める。
「馬鹿な事言ってねぇでとっとと渡せやごらぁ!!!」
口調が荒くなる。ナイフを突きつけられる。
「……あいにく私そんなもの怖くないんです」
ヒステリックになった母親に何度も刺されそうになったから。
「はいそこまで。悪いけど、彼女に触らないでくれますかぁ?」
こんな時まで緊張感のない声で間に入るジル。
「誰がオメェ見てぇなひょろっちいやつのいうこと聞くんだよ!」
ナイフを持っているやつがそう言うと、後ろの数人がゲラゲラと笑った。
あぁ。
なんだこっちも同じじゃない。
「あなた達って馬鹿ね。弱いものいじめしかできないの?」
「はぁ?」
「言わせてもらうけど、本当に強い人は自分より強い人に立ち向かうものなの。強い人に虐げられている人たちを救うためにね」
私はそういう人たちを見てきたから。
だからわかるんだよ。あなた達の間違いを自信を持って指摘できるんだ。
「てめぇ調子に乗ってんじゃねぇぞ女のくせによぉ!!!」
青筋を浮かべて怒りだす盗賊。これは少し怖かった。
そして私に向かって拳が振り下ろされた。
「調子に乗ってるのはどっちだ」
その声とともに盗賊は醜い「音」を上げて崩れ落ちた。
声とは言い難い、音。
見ると、あの声の主はジルらしかった。
さっきまでと、違う。
顔が全然違う。
「その人に触ったらお前らもこうなるけど?さっさとリーダー担いでどっか行ったら?」
私に向ける笑顔とは違う。
それは、まるで嘲笑。
相手を嘲笑う。
──なんでこんなことも出来ないの?
──お前が妹だなんて恥ずかしいよ俺は。
──あんたはあたしより下なんだから、わきまえなさいよ!
みんなの顔。
それと同じ。
やめてよ。やめてよぉ……
「……………………………………………………っそんな目で見ないで…………!!」
叫んでから気付いた。
あ、やっちゃった。
ジルがこっちを見ている。驚いている。
さっきの雰囲気は変わってないけど、その顔に嘲笑はもうない。
盗賊たちはいなくなっていた。
なんだかなにもかもグチャグチャになった気分で、わけが分からなくて。
気付いたら、泣いていた。
地面に顔を伏せて、土下座するみたいな格好で。
ジルはそんな私を抱き寄せてくれた。
「大丈夫ですよ。もう大丈夫」
その声はもういつもの優しいジルの声だった。
それに安心してさらに涙が止まらなくなってしまう。
私は、いつからこんなに泣き虫だったの……?
脳裏にはまださっきの記憶が残っている。
ごめんなさい。
お母さん、お兄ちゃん、佑利子。
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