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第7話
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▲
百鬼さんは、泣きながら俺に言った。
――どうすればいいか、わからない――
――会いたかったのに――
――こんなの、間違っている――
その言葉を、全部黙って聞いているとき。
ふと、窓の方に見覚えのある人を見た。
てか、左坤くん(今は、左部)だった。
――ヤバイとこ見られた?
「な、百鬼さん」
「ひっ……、ごめっ」
「いや、良いんだけど。たぶん、左坤くんがいた」
「え?」
「そろそろ、帰ろう――かっ!?」
帰ろうか、といおうとしたら思いきり引っ張られた。
見ると、百鬼さんは涙目で「嫌」と言う。
「嫌だっ」
「え……」
「ごめんっ、でも、怖いんだ……」
ポロポロと涙を流しながら、彼は言った。
そう言われると、こちらもどうしようもなくなる。
無理に、帰すわけにもいかない。
はあ、と大きく息を吐いて、俺は彼に言う。
「仕方がない、少し付き合いますよ」
†
夕方を過ぎて、愁哉は帰ってきた。
目元を赤くして。
「おかえりっ」
僕が明るくそう言うと、愁哉は少しビクッとして笑う。
「ただいま、ごめんね」
「いいよ。帰ってきてくれたから」
「うん」
「元気無さそうだね、愁哉」
うつむき加減な愁哉を覗いて、僕は言う。
「どうしたの? 何か、された? あの男に」
「え」
愁哉は、顔を上げる。
「優馬?」
「見たよ。昼間ね、男と仲良くしてたの」
嫌だなあ、ほんと。
だって、僕がいるのにさ。
僕がいるのに、だよ?
「僕のこと嫌い?」
「そんなこと――っ!!」
「無いよね。だって、僕たちは」
僕たちは、ずっと一緒だもん。
「一緒だもんね、愁哉」
ふふ、と笑って愁哉の手を引く。
「行こう、疲れたんでしょ?」
「え、」
「疲れたときは、寝るのが良いんだよ」
ね、愁哉。
僕はね、絶対に離さないから。
‡
バタンッと扉が閉まる音。
カチャリ、と鍵が閉まる音。
ドサッ、と押し倒される音。
「ねえ、愁哉」
優馬は、俺の身体に乗って言う。
「人間って、どんな味か知ってる?」
「何、急に……」
「焼いたら、焼いたで美味しいし、すっごく興奮するけどね」
だけど、と優馬は俺の耳元で囁く。
「生の方が、とっても良いんだよ」
そう聞こえた瞬間。
ブチッと音と、痛みが来た。
訳がわからず、瞠目していると。
優馬は、嬉しそうな声で言う。
「やっぱり、愁哉はいいね。すっごく、興奮する」
「優馬っ!?」
「怯えた表情も、大好き」
そう言って、優馬は俺から降りる。
「あのね、愁哉」
優馬は、俺のズボンのベルトを外しながら笑う。
「僕、自分でいうのもなんだけど。かなり、頭がいいと思うの」
「なんっ……、だよっ」
てか、やめろ。
お前、どうかしてるぞ?
と、あの頃だったら言えた。
今は、全然――。
「優馬っ」
「へへへ、そうやって僕の名前を呼んでくれるの、大好き。あ、でね。思ったんだけどさ、人間の三大欲求を一気に済ますことができるんだよ」
「は?」
あ、てか。お前、ズボンやらパンツやら下ろすなっ!!
「何いって――」
「美味しいものを食べて、セックスして、寝たらさ。すっごくよくない?」
ね、愁哉もしようよ。
優馬は、妖しく笑う。
「ずっとこのまま、二人でさ――」
▲
百鬼さんを送ったあと。
そういえば、自分は住み込みで働く、ということを思い出して、
左部家に向かった。
やはり、戸締まりはきちんとしていて、
そこは、きっちりしている百鬼さんらしくて、少し笑った。
まあ、ピッキングして入るんだけどね。
小さくため息を吐いて、家の中を歩き回ると。
ある部屋から、誰かの声が聞こえた。
それは、百鬼さんと。
左坤くん――いや、坊っちゃん、かな?
これからは、仕える主人なのだから。
まあ、二人の声が聞こえたから。
少し、気になって聞いてみた。
いや、聞かない方がよかった。
「えっと……」
二人は、絶賛セックス中だった。
けど、なんか。
ものすごく嫌な雰囲気しかしないんだけど。
そう思いながら、部屋をあとにして歩き回る。
すると、二人のいる部屋の隣から、変な臭いがした。
悪臭というか。まあ、生ゴミみたいな。
近くには、ゴミ箱があり。
捨て忘れか? と、思い。
代わりに捨ててこようと、ゴミ箱の中を覗いたら。
「ひっ」
な、何これ!!
人間の四肢が、バラバラになって入っていた。
四肢だけが。
胴体はどこにもない。
「なに……」
怖くなり、その場から去ろうとしたとき。
「あれ?」
という声が後ろから聞こえた。
振り向くと、そこには坊っちゃんがいて。
坊っちゃんは、ニコッと笑う。
「なんで、人ん家に勝手に入っているんですか?」
百鬼さんは、泣きながら俺に言った。
――どうすればいいか、わからない――
――会いたかったのに――
――こんなの、間違っている――
その言葉を、全部黙って聞いているとき。
ふと、窓の方に見覚えのある人を見た。
てか、左坤くん(今は、左部)だった。
――ヤバイとこ見られた?
「な、百鬼さん」
「ひっ……、ごめっ」
「いや、良いんだけど。たぶん、左坤くんがいた」
「え?」
「そろそろ、帰ろう――かっ!?」
帰ろうか、といおうとしたら思いきり引っ張られた。
見ると、百鬼さんは涙目で「嫌」と言う。
「嫌だっ」
「え……」
「ごめんっ、でも、怖いんだ……」
ポロポロと涙を流しながら、彼は言った。
そう言われると、こちらもどうしようもなくなる。
無理に、帰すわけにもいかない。
はあ、と大きく息を吐いて、俺は彼に言う。
「仕方がない、少し付き合いますよ」
†
夕方を過ぎて、愁哉は帰ってきた。
目元を赤くして。
「おかえりっ」
僕が明るくそう言うと、愁哉は少しビクッとして笑う。
「ただいま、ごめんね」
「いいよ。帰ってきてくれたから」
「うん」
「元気無さそうだね、愁哉」
うつむき加減な愁哉を覗いて、僕は言う。
「どうしたの? 何か、された? あの男に」
「え」
愁哉は、顔を上げる。
「優馬?」
「見たよ。昼間ね、男と仲良くしてたの」
嫌だなあ、ほんと。
だって、僕がいるのにさ。
僕がいるのに、だよ?
「僕のこと嫌い?」
「そんなこと――っ!!」
「無いよね。だって、僕たちは」
僕たちは、ずっと一緒だもん。
「一緒だもんね、愁哉」
ふふ、と笑って愁哉の手を引く。
「行こう、疲れたんでしょ?」
「え、」
「疲れたときは、寝るのが良いんだよ」
ね、愁哉。
僕はね、絶対に離さないから。
‡
バタンッと扉が閉まる音。
カチャリ、と鍵が閉まる音。
ドサッ、と押し倒される音。
「ねえ、愁哉」
優馬は、俺の身体に乗って言う。
「人間って、どんな味か知ってる?」
「何、急に……」
「焼いたら、焼いたで美味しいし、すっごく興奮するけどね」
だけど、と優馬は俺の耳元で囁く。
「生の方が、とっても良いんだよ」
そう聞こえた瞬間。
ブチッと音と、痛みが来た。
訳がわからず、瞠目していると。
優馬は、嬉しそうな声で言う。
「やっぱり、愁哉はいいね。すっごく、興奮する」
「優馬っ!?」
「怯えた表情も、大好き」
そう言って、優馬は俺から降りる。
「あのね、愁哉」
優馬は、俺のズボンのベルトを外しながら笑う。
「僕、自分でいうのもなんだけど。かなり、頭がいいと思うの」
「なんっ……、だよっ」
てか、やめろ。
お前、どうかしてるぞ?
と、あの頃だったら言えた。
今は、全然――。
「優馬っ」
「へへへ、そうやって僕の名前を呼んでくれるの、大好き。あ、でね。思ったんだけどさ、人間の三大欲求を一気に済ますことができるんだよ」
「は?」
あ、てか。お前、ズボンやらパンツやら下ろすなっ!!
「何いって――」
「美味しいものを食べて、セックスして、寝たらさ。すっごくよくない?」
ね、愁哉もしようよ。
優馬は、妖しく笑う。
「ずっとこのまま、二人でさ――」
▲
百鬼さんを送ったあと。
そういえば、自分は住み込みで働く、ということを思い出して、
左部家に向かった。
やはり、戸締まりはきちんとしていて、
そこは、きっちりしている百鬼さんらしくて、少し笑った。
まあ、ピッキングして入るんだけどね。
小さくため息を吐いて、家の中を歩き回ると。
ある部屋から、誰かの声が聞こえた。
それは、百鬼さんと。
左坤くん――いや、坊っちゃん、かな?
これからは、仕える主人なのだから。
まあ、二人の声が聞こえたから。
少し、気になって聞いてみた。
いや、聞かない方がよかった。
「えっと……」
二人は、絶賛セックス中だった。
けど、なんか。
ものすごく嫌な雰囲気しかしないんだけど。
そう思いながら、部屋をあとにして歩き回る。
すると、二人のいる部屋の隣から、変な臭いがした。
悪臭というか。まあ、生ゴミみたいな。
近くには、ゴミ箱があり。
捨て忘れか? と、思い。
代わりに捨ててこようと、ゴミ箱の中を覗いたら。
「ひっ」
な、何これ!!
人間の四肢が、バラバラになって入っていた。
四肢だけが。
胴体はどこにもない。
「なに……」
怖くなり、その場から去ろうとしたとき。
「あれ?」
という声が後ろから聞こえた。
振り向くと、そこには坊っちゃんがいて。
坊っちゃんは、ニコッと笑う。
「なんで、人ん家に勝手に入っているんですか?」
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