昨日の君に未来の僕を

春血暫

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第6話

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 初めてに近い感じで、ファストフード店に入った。

 綺麗な内装で、でも、とても落ち着きのあるいい店だと思った。

「人間は、いいものを作るなあ」

 と、呟くと神原さんは、クスッと笑う。

「あんただって、人間だろ?」

「あ、まあ。いや、人間と言っていいのか? 俺は、永く生きるものだぞ?」

「うん、人間て言っていいと思うよ」

「どうして?」

 化け物だといってくれても結構なのだが。

 不思議に思って、じぃっと神原さんを見ていると。
 神原さんは、少し恥ずかしそうに「見るな」と言う。

「あんた、じぃって見るのやめてよね」

「え? なんで?」

わっぜか 、げんねです」

「え、何語」

 どうした、どうした。

「神原さん?」

「いや、もう。なんてかさ、」

「?」

「早よ食べて、帰ろうか」

「うん」

 俺は、小さく頷いてレジの方に向かった。



 女性的で、でも、男性的な。
 そんな百鬼さんと、一緒にいると。
 不思議と、恋人になった気分になる。

 前世の俺は、百鬼さんのことをどう思っていたのだろう。

 普通に、上司として慕っていたのか。
 それとも、別の何かが。

「なわけあるか」

 アホらしい、と俺は笑って百鬼さんを見る。

 彼は、美味しそうにチキンバーガーを食べる。
 両手で大事そうに持って、はむはむと食べる。

 髪が邪魔なのか、少し不機嫌そうに髪を後ろに結んでいるのを、
 ふと、見て。

「あのさ」

 と、声をかける。

「どうして、髪切らないんすか?」

「噛みきる?」

「違う。散髪ですよ」

「ああ、んっとね。みんなが、わかるように切らないでおいてんの」

「え?」

「まあ、前世の記憶があるのを前提にしちゃっているけど。でもさ、もし、みんな覚えていてさ、それで……」

「? 百鬼さん?」

「ううん、なんでもない」

 百鬼さんは、ニコッと笑って俺を見る。

「何も変わらない、俺がいたら。安心するでしょう?」

「え…、百鬼さ――」

「はい、おしまい」

「えっ」

「もう、食べちゃったし。そろそろ帰らないと、優馬が……」

 そう言った、百鬼さんは、とても怯えていた。
 だから。

 思わず、手をとって。

「何か、あったんだろ?」

 と、訊いてしまったんだ。
 訊くつもりなんて――なかったのに。

 百鬼さんは、瞠目して「あ、」と言う。

「人って、変わってしまうんだね」



 たまには、僕も買い出しをしよう。
 いつも、愁哉にやらせるなんて良くないからね。

 そう思って、部屋を出た。

 外に出るのは、久しぶりで。
 空気が悪くて、咳き込んでいると。
 ファストフード店で見覚えのある人を見た。

 というか、愁哉だった。

「あれ?」

 隣にいるのは、誰?
 どうして、親しげに僕の愁哉といるの?
 僕の愁哉に触るの?

 やめてよ。
 やめて、やめて、やめてっ!!!

「なんで――」

 僕は、そう呟いて、その場を去った。

 僕がいるのに、他の男といるなんて。
 そんなの、絶対許せないから。

 許せないんだから。
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