6 / 14
第5話
しおりを挟む
‡
ドサッと、ベッドに押されて、俺は優馬を見上げる。
「何……」
「好き」
「いや、優馬……。なんだよ、」
「……黙って」
優馬は、俺の上に乗り、シャツをズボンから出す。
「じっとしてて、」
「いや、」
「昔は、してたじゃん。今は、もう、人が違うから嫌?」
「じゃなくて、客が――」
「いいじゃん」
さわっ、と優馬は俺の腹を撫でる。
ゾクッと、身体は反応して「うっ」と声が出る。
優馬はニコッと笑い「なに?」と言う。
「愁哉、触られるの――好きなの?」
「うる……さいっ」
「ふーん」
「………っ」
別に、触られるのが特別、好きなわけではない。
優馬が、いるから。
だから、だと思う。
――でも、これはなんか違う。
普通に、人間のように。
あの頃のように、愛し合いたかった。
「いや……だ」
「嫌? なんで?」
「こんなの――嫌だっ」
俺は、優馬を思いっきり手でどけて、出入り口の方に行った。
優馬は、ビックリしたのか。
追いかけてこなかった。
走って、部屋から出ると。
玄関の方で、見覚えのある青年がふらふらと歩いていた。
――もしかして、さっきの呼び鈴。
彼が、鳴らしたのではないか?
いや、でも。なんで、入っているの?
俺は、普段通りな感じで玄関の方に行くと。
青年は、俺を見て「あ!」と言う。
「やっぱ、社長だ!!」
▲
「いや、もう社長じゃねえよ」
と、百鬼さんは笑う。
「で、お久しぶりだね。神呪さん」
「もう、神呪じゃないけどね。今は、神原だよ」
「かんばる?」
「そう、神様の原っぱで。神原」
「ふーん、いいね。下の名前は?」
「文乃っていうよ。文章の文に、乃木将軍の乃」
「乃木将軍って……」
百鬼さんは苦笑し「でも」と言う。
「女の子みたいで、可愛いな」
と百鬼さんは言って俺から目をそらした。
まあ、確かに。
俺も、あまり好きではないが。
それなりに理由があるらしいから。
よしとしている。
「百鬼さん?」
と、俺が声をかけると、彼は少しビクッとして俺を見る。
「なに?」
「いや、なんか苦しそうだから」
「あ、いや。まあ、ちょっとね」
「? 左坤くんと何かあったの?」
「今は、左部だよ。まあ、何て言うか……」
「んー、とりあえず。ここだとあれですし、どこか飯でも食いに行きますか」
「あ、ああ。うん、そうだね」
「? どうかしたんです?」
少し、心配になって顔を覗くと。
今にでも泣き出してしまいそうな顔を百鬼さんはしていた。
「え」
と、小さく呟いて。
俺は、百鬼さんの手をとって、外に出た。
‡
100年くらい前の話をしよう。
俺は、とある出版社の社長だった。
怪異が、社長なんて。とは思うけれど。
そこは、あまり気にすることなかれ。
まあ、出版社とは名ばかりのただの遊び場だったんだけどね。
働きたくても、働けない。でも、働かないといけない人たちが集まるところとして、用意した場所。
社会復帰の場所とでも言えば、かっこいいかもしれない。
でも、やっぱり遊び場の方が合っている気がする。
あの頃は、今俺のそばにいる神原さん(まあ、そのときは神呪さんだったんだけど)がいて、優馬がいて。他にも、社員はいて。
とても楽しかった。
これが、続くと良いな、と思っていたけど。
人間は、早く死ぬもので。
とても短くて、儚くて。
あっという間に、みんな歳をとって死んでしまった。
――見送るって、とてもつらいわ。
と、小さく呟いて。
ふと、見ると。
神呪さん――いや、神原さんが俺の手を引いていた。
「あれ……?」
「何かあったかは、わかんないし。言いたくなかったら、言わなくて結構だけど」
「ん」
「話くらい、いつでも聞くよ」
「………」
生まれ変わっても、変わらないところはある。
彼は、元々優しくて気遣いができて。
好き嫌いが激しくて。
好きなものには、とことん尽くす。
そんな男だ。
もう、神呪さんはいないのに。
まだ、ここにいるような気がする。
「神呪さん――」
最期まで、俺の心配して。
――あんたが死なねえなら――
――何度だって生まれ変わって――
――会いに行ってやるよ――
そう笑って、逝った。
君が、まだ――
「うっ……、ひっ……」
なんか、わかんないけど。
涙が止まんない。
俺が、嗚咽していると。
神原さんは、心配そうに「え? どうした」と俺を見る。
「ほんと、すぐ泣くよね。女かよ、あんたは」
「うわああああああんっ」
「ったく、もう」
神原さんは、ため息を吐いて。
俺を抱きしめる。
「こういうのは、君の恋人の役目だと思うんだけど?」
「うわああああああああんっ」
「泣き止みなよ、スッキリしたら」
「うっぐ……っ」
俺は、うんと頷いた。
▲
何分か経って、百鬼さんは落ち着いたようで。
「ごめん」
と、目の周りを赤くして言った。
俺は「いや」と言って少し笑う。
「無問題だ」
「……君、昔よりだいぶいい男になったね」
「そう?」
「そうだよ」
「……そう」
百鬼さんは、やっぱり。
俺の上司なんだなあ、と思う。
なんというか、前の俺がどう思っていたかは、あまりわからないけど。
だけど、何となく頭が上がらない。
「ね、神原さん」
「はい?」
「泣いたら、お腹空いたわ」
「……えっと?」
「何か奢ってくれたら、嬉しいぞ」
「……いい笑顔しやがって」
俺は、ため息を吐いて近くのファストフードに入った。
†
拒絶された。
こんなに愛しているのに。
「どうして?」
好きだと伝えた。
伝えたのに。
どうして、答えてくれないんだろう。
「僕を愛してくれない愁哉なんて――」
全然要らない。
ドサッと、ベッドに押されて、俺は優馬を見上げる。
「何……」
「好き」
「いや、優馬……。なんだよ、」
「……黙って」
優馬は、俺の上に乗り、シャツをズボンから出す。
「じっとしてて、」
「いや、」
「昔は、してたじゃん。今は、もう、人が違うから嫌?」
「じゃなくて、客が――」
「いいじゃん」
さわっ、と優馬は俺の腹を撫でる。
ゾクッと、身体は反応して「うっ」と声が出る。
優馬はニコッと笑い「なに?」と言う。
「愁哉、触られるの――好きなの?」
「うる……さいっ」
「ふーん」
「………っ」
別に、触られるのが特別、好きなわけではない。
優馬が、いるから。
だから、だと思う。
――でも、これはなんか違う。
普通に、人間のように。
あの頃のように、愛し合いたかった。
「いや……だ」
「嫌? なんで?」
「こんなの――嫌だっ」
俺は、優馬を思いっきり手でどけて、出入り口の方に行った。
優馬は、ビックリしたのか。
追いかけてこなかった。
走って、部屋から出ると。
玄関の方で、見覚えのある青年がふらふらと歩いていた。
――もしかして、さっきの呼び鈴。
彼が、鳴らしたのではないか?
いや、でも。なんで、入っているの?
俺は、普段通りな感じで玄関の方に行くと。
青年は、俺を見て「あ!」と言う。
「やっぱ、社長だ!!」
▲
「いや、もう社長じゃねえよ」
と、百鬼さんは笑う。
「で、お久しぶりだね。神呪さん」
「もう、神呪じゃないけどね。今は、神原だよ」
「かんばる?」
「そう、神様の原っぱで。神原」
「ふーん、いいね。下の名前は?」
「文乃っていうよ。文章の文に、乃木将軍の乃」
「乃木将軍って……」
百鬼さんは苦笑し「でも」と言う。
「女の子みたいで、可愛いな」
と百鬼さんは言って俺から目をそらした。
まあ、確かに。
俺も、あまり好きではないが。
それなりに理由があるらしいから。
よしとしている。
「百鬼さん?」
と、俺が声をかけると、彼は少しビクッとして俺を見る。
「なに?」
「いや、なんか苦しそうだから」
「あ、いや。まあ、ちょっとね」
「? 左坤くんと何かあったの?」
「今は、左部だよ。まあ、何て言うか……」
「んー、とりあえず。ここだとあれですし、どこか飯でも食いに行きますか」
「あ、ああ。うん、そうだね」
「? どうかしたんです?」
少し、心配になって顔を覗くと。
今にでも泣き出してしまいそうな顔を百鬼さんはしていた。
「え」
と、小さく呟いて。
俺は、百鬼さんの手をとって、外に出た。
‡
100年くらい前の話をしよう。
俺は、とある出版社の社長だった。
怪異が、社長なんて。とは思うけれど。
そこは、あまり気にすることなかれ。
まあ、出版社とは名ばかりのただの遊び場だったんだけどね。
働きたくても、働けない。でも、働かないといけない人たちが集まるところとして、用意した場所。
社会復帰の場所とでも言えば、かっこいいかもしれない。
でも、やっぱり遊び場の方が合っている気がする。
あの頃は、今俺のそばにいる神原さん(まあ、そのときは神呪さんだったんだけど)がいて、優馬がいて。他にも、社員はいて。
とても楽しかった。
これが、続くと良いな、と思っていたけど。
人間は、早く死ぬもので。
とても短くて、儚くて。
あっという間に、みんな歳をとって死んでしまった。
――見送るって、とてもつらいわ。
と、小さく呟いて。
ふと、見ると。
神呪さん――いや、神原さんが俺の手を引いていた。
「あれ……?」
「何かあったかは、わかんないし。言いたくなかったら、言わなくて結構だけど」
「ん」
「話くらい、いつでも聞くよ」
「………」
生まれ変わっても、変わらないところはある。
彼は、元々優しくて気遣いができて。
好き嫌いが激しくて。
好きなものには、とことん尽くす。
そんな男だ。
もう、神呪さんはいないのに。
まだ、ここにいるような気がする。
「神呪さん――」
最期まで、俺の心配して。
――あんたが死なねえなら――
――何度だって生まれ変わって――
――会いに行ってやるよ――
そう笑って、逝った。
君が、まだ――
「うっ……、ひっ……」
なんか、わかんないけど。
涙が止まんない。
俺が、嗚咽していると。
神原さんは、心配そうに「え? どうした」と俺を見る。
「ほんと、すぐ泣くよね。女かよ、あんたは」
「うわああああああんっ」
「ったく、もう」
神原さんは、ため息を吐いて。
俺を抱きしめる。
「こういうのは、君の恋人の役目だと思うんだけど?」
「うわああああああああんっ」
「泣き止みなよ、スッキリしたら」
「うっぐ……っ」
俺は、うんと頷いた。
▲
何分か経って、百鬼さんは落ち着いたようで。
「ごめん」
と、目の周りを赤くして言った。
俺は「いや」と言って少し笑う。
「無問題だ」
「……君、昔よりだいぶいい男になったね」
「そう?」
「そうだよ」
「……そう」
百鬼さんは、やっぱり。
俺の上司なんだなあ、と思う。
なんというか、前の俺がどう思っていたかは、あまりわからないけど。
だけど、何となく頭が上がらない。
「ね、神原さん」
「はい?」
「泣いたら、お腹空いたわ」
「……えっと?」
「何か奢ってくれたら、嬉しいぞ」
「……いい笑顔しやがって」
俺は、ため息を吐いて近くのファストフードに入った。
†
拒絶された。
こんなに愛しているのに。
「どうして?」
好きだと伝えた。
伝えたのに。
どうして、答えてくれないんだろう。
「僕を愛してくれない愁哉なんて――」
全然要らない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる