愛縁奇祈

春血暫

文字の大きさ
上 下
29 / 96
愛縁奇祈

29

しおりを挟む
 ふと、見てみると。
 外は、赤くなっていた。

 人同士が罵り合っている。
 人同士が殺し合っている。

「くだらない」

 と呟いて、私は見ていた。

 自分は悪ではないと言い張りあうのは、もうやめてくれ、と思った。

 あの子を殺した時点で、もう、この町の人は悪なのだ。

「あれ……」

 あの子?

 自分で話して、不思議に思う。

 私は、誰を思っていたのだろう。

 その誰かは、なぜ、殺されたのだろう。

「……どうでも良いか」

 と言って、私はこの町から出る。

 すると、きっと。
 何も罪のない人の怨魂が私の中に入ってくる。

「うっ」

 なんとも言えない苦しみが私を支配する。
 その苦しみは、憎しみに変わる。

「い……タい』

 ああ、苦しい。

 けど。

 けど、それが愉しいと感じてしまう。

 だって。

 それは、私に理由を与えてくれるから。

 まあ、理由がなくても、良いと思うけど。

 だけど、それではつまらないと思う。

「だって、私は……」

 私は  だから。
しおりを挟む

処理中です...