愛縁奇祈

春血暫

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〇〇師にご用心!!

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 社長は、何か言いかけてやめた。

 いや、言えなくなったんだと思う。

 だって、また苦しみだしたから。

 発作のようなものが、また。

――くそ、まだ解決方法わかんねえ。

「蛇……、縁……」

 何かあるはず。

 何かあるはずなんだ。

 と、俺が考えていると、左坤くんが「愁哉!」と叫び、社長に抱きつく。

「ねえ、愁哉! どうしたの!? どこが痛いの!? 教えてよ、ねえってば!!」

「え……?」

 左坤くんの言葉に、俺は少しかたまる。

 あれ、見落としている点があるじゃないか。

「左坤くん、社長から離れ――」

 と、俺が言いかけたとき「すみませんっ」と柳楽くんの声がした。

「やっとか、柳楽くん」

 俺は小さく笑うと、柳楽くんは扉を開けて入る。

「えっと、今、どういう状況?」

「見りゃわかると思う」

「ええ、わかりました。てか、兄ちゃん……」

 柳楽くんは、社長をまっすぐ見て言う。

「兄ちゃん、ごめん。あのとき、無理にでも、引っ張っていけば良かった」

「あの……とき……?」

 俺が考えていると、柳楽くんはニコッと笑う。

「僕も兄ちゃんも、みんなよりかなり年上なんですよ。何百年も、下手したら千年とかかな。ずっと、生きてきました」

「……まさか」

 昔から、家で話をされていた。
 千年近く前。
 俺の家は、その頃から呪術師を家業にしていた。
 今もそうだけど、神呪家で最強と言われている神呪文音が、一人の少女と二人の神様を助けて、命を絶ったと云う。

 俺は、その文音の生まれ変わり、といわれているけど。
 そんなの絶対嘘だし、あり得ないと思った。

 だけど。

 だけど――

「神呪さん、そのまさかだったりするんです。詳しい話は、少し後。今は、兄ちゃんを助けないといけない」

「ああ、わかった。何か手伝えることはある?」

「ええ、ここで兄ちゃんを待っていてください」

「んなこと、ずっと前からしている」

「ありがとうございます」

 と、柳楽くんは笑って、社長に「兄ちゃん」と笑いかける。

「帰ろう、兄ちゃん」

 短い言葉だが、きっと、そこにはたくさんの気持ちが込められているのだろう。
 俺は、左坤くんを無理矢理引き剥がし、柳楽くんと社長を見る。

 左坤くんは「愁哉が!」と泣いているけど。
 俺はそれを無視して、二人を見た。

 柳楽くんは、ニコッと笑い「あのね」と社長の腕を引く。

優馬ゆま姉ちゃんも、文音姉ちゃんも、みんな待っているから」

「ゆ……ま……?」

 社長は、柳楽くんを見る。
 目からは血の涙が流れていた。

「私は、また君たちを――」

 と、社長は言いかけて、バタッと倒れた。
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