愛縁奇祈

春血暫

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〇〇師にご用心!!

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 呪い返し。

 やったことなんて、なかったから、わからなかったけど。

 きっと、向こうで、神呪さんがなんとかしてくれたのだろう。

 俺は、目の前で燃えて、人の形を保てなくなった刀祢――いや、刀禰美亞を見ながらそう思った。

 最後まで、自分は神様だと思い込んでいた人間。
 思い込みも、ここまで来たら、怪異である。

 最後、粉々になったのを見届けて、俺は目を閉じる。

 もしかしたら、突然力が戻って、暴走してしまうかも、と思っていたけど。
 そんなことは、特にないみたいだ。

「あー、疲れた」

 こんなに疲労したのは、いつぶりだっけ。

 ここで、しばらく休みたいなあ。

「けど、そうはいかないか」

 優馬が待っている。

 神呪さんも待っているだろう。
 引馬さんも。英忠も。
 会社の方とかでは、きっと、くちなしさんも、利一りいちも、尺度さかとさんも待っている。

「みんなのところに帰らないとな」

 俺は、小さく笑って、深呼吸をして、目を閉じた。

 ふ、と目を覚ますと。
 心配そうに俺を見る英忠がいた。
 そのそばには、ほっとした表情をする神呪さん。
 優馬の介抱をする引馬さんがいた。

 見た感じだと、優馬は飲酒したみたい。
 なんでわかったかというと、ガチで嘔吐しているから。

 とても当たり前な、よくある光景に俺は笑ってしまった。

 なんだ、俺のわがままだと思っていたことなんて。
 実際は、そんなおかしなことでもなんでもない。
 普通のことではないか。

「兄ちゃん、大丈夫?」

「うん。心配かけたね」

 まだ、あまり動けないけど。
 それでも、大丈夫。

「神呪さん、ありがとう」

 と、神呪さんを見ながら笑うと、彼は恥ずかしそうにして「あっそ」と言う。

「無事で何よりだよ、本当に」

「うん」

「てか、あそこのテキーラさんなんとかしてくれる?」

「テキーラ飲んだの!?」

 意味わからん。
 誰だ、飲ませたの。

 って、犯人は絶対神呪さんなんだけど。

――たく、もう。

 と、俺は小さく息を吐いて、みんなを見る。

「ただいま」

「おかえり」

「おけーりなせー」

「おか――おろろろろろろろ」

「おかえりなさい」

 英忠、神呪さん、優馬、引馬さんは俺を見て言ってくれた。

 それだけで、こんなにも嬉しくて仕方がないなんて。
 俺は、初めて知った。
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