愛縁奇祈

春血暫

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〇〇師にご用心!!

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 オールバックの優馬が、俺に近寄る。

 目が、俺の知っている優馬ではないことに、かなり驚いているが。
 それを、あまり知られないようにした。

 が。

「怯えてんの? ははは、可愛いな」

「か、可愛い!?」

 なんだ……。
 いったい何が起きているんだろうか。

 なんだか、怖い……。
 いや、神の力を持つこの俺に怖いものなどない。

「きゅ、急にキャラ変しよって! 少し、驚いただけだ」

「キャラ変? 何言ってんだ、てめえ」

 優馬は俺をにらむ。

「俺様は、最初から俺様だけど? てか、さっきから、俺様が許可してねえのに話してんじゃねえよ。うるせえな」

「あ、いや、あ?」

 まじ、どういうことだ?

 と、考えていると、優馬はイライラしているような表情で、俺の口と鼻を左手で抑える。

「わかった? 俺の許可なしで話すな。わかったら、一回だけ頷いてみな」

 そう言われて、俺は小さく頷く。
 すると、パッと優馬は手を離して、笑う。

「良し。良い子だ」

「っ、」

 と、俺は優馬をにらみつける。
 優馬は冷たい目をして、俺を見る。

「ん? なんだよ、その目。お前、さ。わかってねえの?」

「?」

「お前は、俺様の下僕なの。下僕が、ご主人様に、そんな反抗的な目をして、良いと思ってんの?」

「っ」

 くそ。
 なんだよ、いったい……!

 早く、なんとかしねえと。

 そう思っているけど、うまく体が動かない。

 恐怖からなのか。
 それとも――

 いや、それはないはず。

 俺の呪術は完璧なはずだから。

――名切が、死んでいなかったなんてありえない。

 と思っていると、さっき殺したはずの神野が「ざまあ」と笑う。

「ダメだ、我慢できない」

「……は?」

「てめえごときが、完璧にやれるはずがねえよ」

 よいしょ、と神野は立ち上がると。
 優馬が「あれ?」と言う。

「下僕二号じゃねえか!!」

「え、あっ!? 今じゃない!! テキーラさんは!!」

 神野は悲鳴のような感じで言った。
 すると、優馬はイラッとしたような顔をする。

「ご主人様に向かって、その態度ってのはお仕置きされてえのか?」

「あ、いや、そんなことはない!! ありません!!」

 神野はそう叫び、引馬を見る。

「引馬さん、なんとかして!! あなたなら、なんとかできる!! 酒を抜いてくれ!!」

「え? 酒を抜くって言われても、何もできないよ?」

「もうなんでもいいよ!! 殴って出すのでも!!」

「いや、俺さ。人を殴ったことなんてないから」

 困ったような顔で、引馬は言った。

 もう、このすきに――と思ったけど、うまくいかなくて、少しイラッと来た。

 くそ、なんで……。

 と思っていると、神野は小さく息を吐き出して、俺を見る。

「呪術をかけるには、相手の真名を知らなければならない」

「……は?」

「基本中の基本だよ、くそ野郎」

「あ? だから、こいつは名切――」

「とは、違うんじゃないのかな」

 神野は、ニコッと笑って、懐からナイフを出す。

「んで、俺の名前も神野ではなかったりする」

「は? ま、まさか……俺を、そんなナイフで殺すとでも?」

「そんなって言っていいのかな。さっきあんたが、俺に使ったのと同じだったりするけど」

「え?」

「『さっき使ったやつで死んだはずなのに』と、思っているかもしれないが。残念ながら、俺はこんな子ども騙しの毒では死なない」

「子ども騙し?」

 それは、俺が作った呪術――あれ、さっき、こいつの名前は神野ではない、て言っていなかったか……?

「ま、まあ、でも、お前も俺の真名なんて知らねえから、」

「知っていたりするよ。くそ野郎」

 神野は言う。

刀禰とね美亞みつぎ。かけた罪、その身で償え」

「てめえ、なんで!?」

「どんな相手にも、真名を名乗るなんて間抜けだね」

 じゃ、と神野はナイフで俺を刺した。

 その瞬間。

 たくさんの憎悪が、俺の中に入ってきた。

――くそ。

 俺は、こんなところで死ぬようなやつじゃねえ。
 だって、神の力を手に入れ――

 と、思ったとき。
 名切の声がした。

――残念でしたね――

――けど、思い込みでここまで来たのはすごいです――

 思い込み?
 そんな、バカな。

 だって、現に俺は!!

「俺は……、この世を…………支配する」

 なのに。

 どうして……。

――さーてね――

 と、声がしたと思ったとき。
 目の前が暗くなり、名切が現れた。

 濡れ羽色の髪を、ポニーテイルにした。
 普通の人のような姿で。

 あの頃のような白髪の娘ではない。

「やあ、刀禰さん」

「……くそ」

「何百年も、いや、下手したら千年か。よくも、この俺の力を思い込みで奪ったな。いい加減、俺の青春を返してもらおうか」

「ま、待ってくれ! 俺が悪かった!! だから、その――」

「残念」

 名切は、スパッと俺の右腕を切り落とす。

「俺はな、もう、優しくなんかないんだよ」

「っ!!」

「次は、どこが良いかい? 目玉? 首? 上半身と下半身を真っ二つにしようか」

「ま、待ってくれって!!! 本当に、もう、何もしないから!!」

 なんとかして、ここから出ようと、必死になると。

「刀禰美亞!!!!」

 と、名切が俺の真名を怒鳴るように言う。

「これで、終わりにしよう」

「え――」

 何を、と聞こうとした瞬間。
 俺は、上半身と下半身を真っ二つにされた。

 二つに、裂けた。

――ああ、どんどん力がなくなっていく気がする。

 もう、殆どない。

「わ……た………………………しは」

 こんなところで………。

「死ぬわけには――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああにああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
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