愛縁奇祈

春血暫

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深雪の空

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 どういうことか、説明してもらおう。
 なんで、起きたら文人が俺の上で寝てるんだよ。
 しかも、気持ち良さそうに。

――ムカつくな、おい。

 イライラを込めて、俺は文人を殴って起こす。

「お前、何してるの?」

「ああ? あ、おはよお。紀治」

「その寝起きで舌っ足らずになるの、なんとかならないの?」

「にゃらにゃい」

「ンンン」

 こういうところが、嫁って感じなんだよなあ、こいつ。

「てか、重いし、早くどけ。くそ文人」

「ん、あと五億年寝かせて」

「オッケイ、永眠させてやらぁ」

「それは困る~」

 文人は寝惚け眼をこすりながら返事をしてどいた。

――ったく、本当に人の気持ちを知らずに。

 これがほとんど毎朝起きるのは、理性が死にそうだ。
 狙っているのだろうか。
 だとしたら、ムカつくな。

「なあ、文人。俺、そういえば引馬さんに呼ばれていたような気がするんだけど」

「何? 夢の話?」

「現実だわ。バカ」

「ああ、引馬さんね。引馬さん。うん、引馬さん」

「うん、一回眠気を追い払ってこい」

「そーするー」

 文人は眠そうに返事をして、洗面台の方に向かった。

「はあ」

 なんだ、あの可愛い生物は。
 どういうことだ。
 なんなのかな。あれ。
 一発殴りたいな、もう。

 と、思いながら朝食の支度をしていると「おはようパートツー」という台詞と共に文人が飛び蹴りをしてきた。が、俺はそれを避けた。
 後ろからだったけど、避けれた。

「危ないだろ、文人。火を使うところだったし」

「それなのに、避けるってなんだよ。受けろや、カス」

「避けるだろ、カス」

「ったく、俺じゃなかったら、怪我してたよ」

 やれやれ、というように文人は食卓に座る。

「朝食は何かな、紀治くん」

「普通だよ、目玉焼きとか、かな。文人くん」

「目玉焼きって、本当に目玉焼かないのか」

「俺を見ながら言うなよ、怖いだろ」

「まだ何も、お前の目を焼いてやろうなんて言っていないだろうが。シロアリに、脊椎食われろ」

「まだ、て言う予定はあるのかよ。あと、シロアリに脊椎食われたくないし、脊椎以外も食われたくないよ。お前が食われろ」

「は? シロアリは、俺に食われるんだし。俺を食うなんて無理だからな。俺をなめてんのか、紀治さんよぉ~」

「シロアリを食うってどう言うことだよ」

 やりそうで怖いんだよ、お前は。

 と、会話をしていると、朝食はあっという間にできた。

「さて、食べるかな」

「ん、いただきます」

「ん、召し上がれ」

 と言って、無言で朝食を食べた。

 食べ終わって、俺はカレンダーを見る。
 今日のところに、引馬さんに会う、と書いてある。
 なんのことかは、覚えていないが。
 ここにあるということは、何かあるのだろう。

「んじゃ、俺、引馬さんと会ってくるね」

「ん。英煉・堕・天人・亜黎紅燦奴櫓子・玖璃司・殿・亜流萬崇・十字・李亜蓮斗には用事で行けない、て言っておくわ」

「ああ、よろしく」

「芝川には何も言わないでおこう。あいつ、からかうと楽しいし」

「それな」

 と言って、俺は先に家を出た。
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