愛縁奇祈

春血暫

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深雪の空

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「はあ」

 と、俺は息を吐き出す。

 このまま何事もなく、と思ってはいるが、そうはいかない気がする。

――一応、引馬さんに聞いてみようか。

 と、思っていると携帯が鳴った。
 画面を見ると、引馬さんの名前があった。

「はい、神呪です」

『あ、良かった。電話出てくれて』

「? どうかしました?」

『いや、特に。あ、近くに梔さんいる?』

「くそ紀治なら、寝ましたけど」

『そっか。ちょうど良かったかな。梔さんのことで電話したからね』

「あー、俺も電話しようと思ってたんですよ」

『そうなんだ。何かあったのかな』

「んー。なんだか、ここ最近不安定な感じでさ、紀治。何かあって、また人格とか増えたら困るなあ、て」

『そっか……』

 引馬さんは少し黙ってから『あのさ』と言う。

『神呪さんは、これからどうしたい?』

「え? 何をですか?」

『梔さんを、かな』

「ん? いや、どうもこうも」

『うん、人格統一させるか、させないか』

「……それは、俺がどうこうする話じゃないでしょ。紀治が決めないといけないんじゃないの」

『彼のことだ。君の意見を聞こうとするよ。ちなみに、俺はどちらでも良いと思う。それに、こういうことは俺よりも当事者の方が理解しているんだよ』

「……あの、急に言われても無理なんで、後でで良いですか」

『良いよ。焦って、失敗するよりも良いしね。ただ、ひとつ良いかな』

「はい?」

『明日、梔さんと話をする予定なんだけど、彼、覚えているかな。忘れている場合は、言っておいてくれる?』

「えー、面倒ですけど。まあ、言っときますね」

『ありがと、じゃあ』

 と、引馬さんは電話を切った。
 俺も電話を切った。

――面倒なことだな、本当。

 個人的な意見を言うならば、このままで良いと思うんだ。
 別に誰も困っていないし。

 だけど、紀治のことを考えると。
 あいつのことを、きちんと考えると。

 俺の意見は、良いとは言えない。

――結局、決めるのは紀治だし。

 と、思いながら俺はため息を吐く。

「あー、俺も寝ようかな」

 紀治の寝込みでも襲おうかな。

 なんてな。
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