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鬼
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現場に向かう途中、文弘が理緒に「なあ」と声をかける。
「雪城刑事は死体を見るのが初なのかい?」
「そんなことないです。ただ、かなりショッキングなものだっただけです」
「ハードルをそんなに上げて良いのかい?」
「大丈夫」
理緒は頷き、現場である取調室の前に立つ。
「いきますよ」
「お? おう」
文弘が頷くと、理緒はゆっくり扉を開く。
「これが現場です」
「わあお!」
「先生、テンション上げないでください」
一は文弘に突っ込みを入れ、現場を見る。
飛び散った血。
何かで引き千切られたような身体。
出された腸。
「これは……気持ちが悪いですね……」
一が呟くと、文弘が「そうか?」と言う。
「何とも興味深い現場だよ。というか、身体を引き千切るなんて、人間の技じゃねえな!」
「いや、だからテンション上げないでくださいって」
「上がるよ。こんな現場は久しぶりだ」
「はあ……」
「ほんじゃあ、ちょいと失礼~」
文弘は手袋をして、現場に入る。
「本当に頭蓋骨が握り潰されてるなあ。やっぱり、相手は人間じゃない何かなんじゃない?」
「妖怪とか、そういう類いですか? やめてくださいよ。フィクションの世界ではないんですから」
「いるかもしんないよ~。ま、これは違うと思うけど」
残された身体を見ながら、文弘は言う。
「しかし、面白いな。こりゃあ、まるで鬼の仕業だ」
「鬼?」
「鬼は鬼でも食人鬼。それも、かなりグルメ」
おいで、と文弘は一と理緒を手招きする。
「首のところを見てみな。食った跡だ」
「うわ」
「これは怖い」
「頭蓋骨を潰して、そのまま頭を食った、とかかな?」
「人じゃないですね、もう」
「だから、鬼って言ったんだよ。本物の鬼だな」
楽しそうに言う文弘に、理緒は「いや」と言う。
「そういう類いのものはいません」
「ははっ。北ヶ峰は、そういう類いは苦手だもんな」
「苦手というか信じていないだけです」
「はいはい」
文弘は理緒をからかいながら、死体を見る。
「それにしても、どっから侵入したんだろ」
「……停電があったんです。ほんの十分くらい。その間に、侵入したと思うのが自然です」
「停電? それも十分?」
「ええ」
「まあ、かなり普通だな。でも、ここって電気が消えると真っ暗で何も見えないだろ? 特に、取調室なんかさ」
「ええ。それに、電気がついたら、わかりますよ。さすがに」
「でも、気づかなかった。ということは、真っ暗な中での犯行」
「となります」
「多少の光がないと、人はものを見ることができない。が、それが全くない状況で、となると暗闇に慣れているか、やはり人ではないかだな!」
「やめて」
理緒はそう言い、扉に凭れる。
「この他に、一人警察官が行方不明になっている。血を少し残して」
「食われたか、鬼に」
「……優秀な警察官だったのに」
「鬼にとっては、人は食べ物以外何物でもないんだよ」
「…………」
理緒は文弘に何かを言おうとしたが、携帯電話がそれを遮った。
小さく舌打ちをし、理緒は電話に出る。
「北ヶ峰です」
『犯行予告が来た。今から、杜和泉小の児童を一人ずつ殺していくという』
「なっ!?」
理緒は驚き、数秒固まる。
それを見て、文弘は少し強引に理緒の携帯電話を取る。
「はいはーい。チラリと聞こえてきました。犯行予告だなんて、つまらないことをする犯人に興味があります~」
『き、君は!?』
「俺は犯罪学の学者です。北ヶ峰刑事は、俺の元教え子なんですよねぇ~。間野警部補」
『なぜ、私の名前を……』
「警察関係者の名前くらい知っておかないと、仕事があまりできませんからねぇ~。それより、その犯行予告って、どこから出された、とかってわかります?」
『たとえ、犯罪学の学者でも部外者には話せん』
「あっそう。取調室で起きた事件について、わかったことを教えようと思ったのになあ。残念だ」
文弘はそう言って、電話を切ろうとすると間野は『待て』と言う。
『それは、どういうことだ?』
「犯人はまだはっきりとはわかりません。が、それらしい人とかはわかりましたよ。でも、先にそちらが教えてくれません? 犯行予告がどこから来たのか」
『…………』
「良いんですよ。どうせ俺は部外者。北ヶ峰に頼まれて、事件解決に手を貸してるだけですから」
『……黒須三丁目の十二からだ。そこにいるであろう佐伯千歳という者だ』
「黒須って、ここから少し遠いですね。杜和泉小からも遠い……」
『近場だとバレると思っていたのだろう。ま、まだ中学二年生の少年だ。いたずらに違いないが、万が一ということもある』
「なるほど。どうもです」
ピッ、と文弘は電話を切った。
「雪城刑事は死体を見るのが初なのかい?」
「そんなことないです。ただ、かなりショッキングなものだっただけです」
「ハードルをそんなに上げて良いのかい?」
「大丈夫」
理緒は頷き、現場である取調室の前に立つ。
「いきますよ」
「お? おう」
文弘が頷くと、理緒はゆっくり扉を開く。
「これが現場です」
「わあお!」
「先生、テンション上げないでください」
一は文弘に突っ込みを入れ、現場を見る。
飛び散った血。
何かで引き千切られたような身体。
出された腸。
「これは……気持ちが悪いですね……」
一が呟くと、文弘が「そうか?」と言う。
「何とも興味深い現場だよ。というか、身体を引き千切るなんて、人間の技じゃねえな!」
「いや、だからテンション上げないでくださいって」
「上がるよ。こんな現場は久しぶりだ」
「はあ……」
「ほんじゃあ、ちょいと失礼~」
文弘は手袋をして、現場に入る。
「本当に頭蓋骨が握り潰されてるなあ。やっぱり、相手は人間じゃない何かなんじゃない?」
「妖怪とか、そういう類いですか? やめてくださいよ。フィクションの世界ではないんですから」
「いるかもしんないよ~。ま、これは違うと思うけど」
残された身体を見ながら、文弘は言う。
「しかし、面白いな。こりゃあ、まるで鬼の仕業だ」
「鬼?」
「鬼は鬼でも食人鬼。それも、かなりグルメ」
おいで、と文弘は一と理緒を手招きする。
「首のところを見てみな。食った跡だ」
「うわ」
「これは怖い」
「頭蓋骨を潰して、そのまま頭を食った、とかかな?」
「人じゃないですね、もう」
「だから、鬼って言ったんだよ。本物の鬼だな」
楽しそうに言う文弘に、理緒は「いや」と言う。
「そういう類いのものはいません」
「ははっ。北ヶ峰は、そういう類いは苦手だもんな」
「苦手というか信じていないだけです」
「はいはい」
文弘は理緒をからかいながら、死体を見る。
「それにしても、どっから侵入したんだろ」
「……停電があったんです。ほんの十分くらい。その間に、侵入したと思うのが自然です」
「停電? それも十分?」
「ええ」
「まあ、かなり普通だな。でも、ここって電気が消えると真っ暗で何も見えないだろ? 特に、取調室なんかさ」
「ええ。それに、電気がついたら、わかりますよ。さすがに」
「でも、気づかなかった。ということは、真っ暗な中での犯行」
「となります」
「多少の光がないと、人はものを見ることができない。が、それが全くない状況で、となると暗闇に慣れているか、やはり人ではないかだな!」
「やめて」
理緒はそう言い、扉に凭れる。
「この他に、一人警察官が行方不明になっている。血を少し残して」
「食われたか、鬼に」
「……優秀な警察官だったのに」
「鬼にとっては、人は食べ物以外何物でもないんだよ」
「…………」
理緒は文弘に何かを言おうとしたが、携帯電話がそれを遮った。
小さく舌打ちをし、理緒は電話に出る。
「北ヶ峰です」
『犯行予告が来た。今から、杜和泉小の児童を一人ずつ殺していくという』
「なっ!?」
理緒は驚き、数秒固まる。
それを見て、文弘は少し強引に理緒の携帯電話を取る。
「はいはーい。チラリと聞こえてきました。犯行予告だなんて、つまらないことをする犯人に興味があります~」
『き、君は!?』
「俺は犯罪学の学者です。北ヶ峰刑事は、俺の元教え子なんですよねぇ~。間野警部補」
『なぜ、私の名前を……』
「警察関係者の名前くらい知っておかないと、仕事があまりできませんからねぇ~。それより、その犯行予告って、どこから出された、とかってわかります?」
『たとえ、犯罪学の学者でも部外者には話せん』
「あっそう。取調室で起きた事件について、わかったことを教えようと思ったのになあ。残念だ」
文弘はそう言って、電話を切ろうとすると間野は『待て』と言う。
『それは、どういうことだ?』
「犯人はまだはっきりとはわかりません。が、それらしい人とかはわかりましたよ。でも、先にそちらが教えてくれません? 犯行予告がどこから来たのか」
『…………』
「良いんですよ。どうせ俺は部外者。北ヶ峰に頼まれて、事件解決に手を貸してるだけですから」
『……黒須三丁目の十二からだ。そこにいるであろう佐伯千歳という者だ』
「黒須って、ここから少し遠いですね。杜和泉小からも遠い……」
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「なるほど。どうもです」
ピッ、と文弘は電話を切った。
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