狂気醜行

春血暫

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杜和泉児童殺害予告事件

009

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「落ち着いたかい? 佐伯くん」
 優が優しく声をかけると、千歳は小さく頷く。
「ごめんなさい、佐々塚先生……」
「うん?」
「僕……、また先生に迷惑かけた……です。奈穂にも」
「大丈夫。先生も新沢くんも迷惑だなんて思っていないよ」
「ほんと?」
「本当」
 大丈夫、と優は千歳の頭を撫でる。
――しかし、どういうことだろうか。
 優は文弘から聞いた話を思い返す。
 千歳が犯行予告を出した、と。
 それは母校である杜和泉小の児童を殺すという。
――完全なるデタラメだが、そうだという証拠がない。
 六年間千歳を見てきた優や奈穂、クラスメイトなら知っている。
 千歳がどんな少年かを。
 犯行予告などを出すということはしないし、できないのである。
 まず、あまり文字を書けない。
 千歳はアスペルガー症候群の他に学習障害もある。
 文字を書くことができない。
 読めたり、話せたりできても。
 書くことだけができないのである。
 そのことに気づいたのも、優だった。
「佐伯くん」
 優は優しく千歳に声をかける。
 千歳は「何?」と優を見る。
「どうしたんですか?」
「うん。新沢くんから、少し中学校の話を聞いてね……。何かされた?」
「っ」
「先生、怒らないし。佐伯くんの味方だからさ。佐伯くんが困っているなら、助けたいんだけど」
「えっと、あの、クラスの人にね……。文字書けないの変って言われて。僕が、その、アスペルガー症候群っていうのも、変だって。障害者って言われて、殴られた……んだ、です」
「そんな……」
「パパもママもね、今、お仕事が忙しくておうちいないんです」
「…………」
「だから、その、どうすれば良いのかわからなくて……」
「そうだね。佐伯くん」
 優は優しく千歳を抱き締める。
「気づいてあげられなくて、ごめんね」
「先生?」
「俺が気づいてあげれたら、佐伯くんはこんなに辛い思いをしないで済んだのに。ごめんね」
「? 先生は、悪くない……です」
 謝らないで、と千歳も優を抱き締める。
「先生……優しいもん、です」
「優しくなんかないよ。佐伯くん」
 優しくなんかない。
 自分は、優しいには程遠い人間だ。
 それに、こうして抱き締められるのも。
 本当は――
「本当は、悪い人なんだよ。俺は」
 優が呟くと、千歳は首を横に振る。
「でも、僕には優しくて大好きな先生です」
「ありがとう」
 千歳の方が優しい人間だ。
 優はそう思いながら、優しく千歳を撫でた。
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