綺麗な薔薇には棘がある。

春血暫

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 苦しむ声、嘔吐する音。
 吐瀉物が、便器に当たる音。

 それだけで、どのような状況か、想像できる。

――にしても、これは……。

 向きも何もかもが綺麗で、とても気持ち悪い。
 が、どこか美しくもあった。

「腐らんように、冷凍保存してたんやな」

 それも美しく並べて。

――几帳面、か。

 冷凍庫の扉を閉め、メモを取る。

 ふと見ると、下にも扉があった。

「下も心臓?」

 少しドキドキしながら扉を開けると。
 中には人がいた。

 二十代前半くらいの成人男性。
 細身で身長は百七十前半。
 そんな男性が折り畳まれ、冷凍庫に入れられていた。

――これは……?

 てっきり、現場で心臓だけ抜いて、としていると思っていたが。
 一旦、家に持ち帰ってから、ということか?

「ハハハ……。なるほどな」

 だから、多くの人を殺害しても、特に捕まらなかったのか。
 死体が現場にないのだから。
 家に来てみないと判らない。
 けど、家に来たら最後、というようなものなのかもしれない。

「この死体を解剖すれば、なんかわかる気ぃするわ」

 今、手元にあるのは、簡単な解剖のセットのみ。
 これだけでも、ある程度はできる。

 本当は、ちゃんとした場所でやるべきなんだが。
 まあ、構わんか――
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