綺麗な薔薇には棘がある。

春血暫

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――ああ、ほんまにこの人は。

「愉しそうやね、せんせ」

 僕が言うと、先生は首を傾げる。

「愉しそう? 何を見て?」
「? だって、せんせ嗤てるから」
「え?」
「ええよ。僕はせんせが愉しんでくれたんなら」
「……そうか」

 先生は少し難しそうな顔をし、腕を組んだ。
 少ししてから「あ」と言い、僕に言う。

「聞きたいことあったんや」
「? 何?」
「冷凍庫の下の段。死体、入れてたやろ?」
「ああ、何人目かの僕のお気に入りや」
「あっこから、どうやって心臓をあんな綺麗に抜くん?」

 先生はメモとペンを用意し、僕を見る。

「で、心臓以外はどうしてんねん」
「ああ、そんなこと?」

 そんなつまらないことか。
 まあ、でも先生と話せるのだから良いか。

「普通に、心臓のとこに包丁を刺し、抉り取る感じやで」
「ほう」
「で、それ以外はあっても邪魔やろ? 保存する言うても、場所ないやん」
「まあ、確かに」
「やから、処分したんや」
「処分? 具体的にどうやったんや」
「細かく切ったりなんだり」
「人肉を?」
「うん」

 キモいって言うかな?

 そう思って先生を見ると。
 先生はメモを取る手を止め、顎を触る。

「なるほど、そうゆうことやったんやな」
「何が?」
「死体を解剖してみたんやけど、放っといても死んでたな、てゆうくらい病に侵されとったから」
「ああ、そうなん?」
「まあ、それが具体的にどうか、てのはよぅわからんけどな」
「せんせなのに?」
「そんなに興味ないから、所詮死体やし」

 つまらんやろ、と呟く先生に、僕はまたドキッとする。
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