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第五十六話

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翌朝、勝吉が宗古たちの部屋にやってきた。
「明日伏見に向けて帰る船便を手配できた。
堺の湊から淀川を上って京に行く。
途中で小那姫様を浜松の湊で降ろすことになった。
私も同行する」
宗桂のおっさんが礼を述べている。

宗古は吉川に、「今日もう一回、王子稲荷神社に行ってみましょう」
と誘った。
「そちらも、私が同行させていただく。家康様より、宗古殿が外出する際は守るようにご指示を頂いている」

王子稲荷神社に着くと、二人で拝殿をしたあと宗古は願掛けの石を持ち上げた。
「伴侶との間で子供ができる行為ができますように。
そして世界平和が実現しますように」
宗古は軽々と石を持ちあげていた。
何だ、それは。
吉川も、令和に再転生し令和に事件が解決できるよう願掛けをしてから石を持ち上げたら意外と重かった。

そのあと鳥居をくぐって、宗古はスマホの雷神を呼び出した。
「ここの御利益は、五穀豊穣と火事除けなのね」

空が暗くなり、雷鳴が轟いた。
吉川は拝殿したあと、狐像の近くで宗古を抱き寄せた。
最近どんどん丸みを帯びて柔らかな体つきになってくる。
吉川は自身の下半身の変化を悟られないように、宗古にスマホ画面がどうなっているか尋ねた。
「そうね。輝きだしたわ」
「ほら、レベル9よ。レベルが上がったのよ」
画面には、狐のような動物と9/10と書かれた数値とレベル9という文字が浮かび上がった。
それに宗古のスマホのアプリ画面で、また文字が追加された。
「宗古は王子の鍵を手に入れた」

「何に使うのかな。今押しても何も変化しないわ」

翌日、宗古と宗桂のおっさん、吉川は家康と茶阿局にお礼を言い、勝吉と家康の兵に連れられ、江戸の湊から高速船の関船に乗った。
船の反対側で、小那姫が物悲しそうな姿で甲板にいる。
「さっき茶阿局に何を貰ったのだ」
「餞別よ。早く子宝に恵まれますようにと。太田道灌の玩具のひょうたんを貰ったわ。
私に使ってみる?」
吉川は顔を赤らめて無言だった。
宗桂のおっさんが後ろから覗き込んだ。
「葛の葉が戻ってきたら貸してくれ」

浜松の湊で、小那姫を降ろし、宗古たちはしばらく浜松の湊で乗船したまま休憩を取った。
勝吉は小那姫を浜松城まで送り、家康の書簡を堀尾吉晴に渡すそうだ。

そのあと関船は堺の湊に付き、宗古たち一行は無事伏見に到着した。
勝吉から、「しばらく宗桂殿のご自宅付近で警備を行う。
宗古殿が外出する際は、同行する。」と声をかけられた。

「もうすぐ大晦日です。大晦日の夜に伏見稲荷神社に行く予定です」
「わかった。
必ず同行し、不届きものがいたらこの勝吉が守って見せる。
それから月の小面は私が責任を持って預かるが必要な時には渡す」
宗桂のおっさんは勝吉にまた礼を言っていた。

とうとう令和に再転生できるのか。
戦国時代の伏見から令和の王子へ再転生できれば、新しい王が生まれるはず。
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