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第五十七話 伏見

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勝吉がもう一人を連れて宗桂たちの家にやってきた。
「申し訳ない。家康様から伝令がきて、緊急事態なので私はこの地を離れないといけなくなった。
代わりの者を置いて警備にあたらせるので心配ない。
このものが私の代わりで正吉だ。
遠慮なく警備要請をしてくれ」
「わかりました。
今までの警護感謝いたします」
宗桂のおっさんが礼を言った。
その後ろで宗古が、
「何かあったのですか。緊急事態とは」
「ここだけの話だが、浜松城に戻った小那姫様が井戸に飛び込まれた。
『伏見にはもう来なくて良いとの連絡があり希望がなくなった、父には迷惑をかけ続けて申し訳ない。月を道連れにしてこの世を旅立てないのが心残り。』という書置きがあったそうだ。
一方で、江戸城に不穏な動きがあり、家康殿が狙われているという間諜からの情報もあり、一層江戸城の警護を強めることになった」

「それは」
宗古は絶句した。
勝吉様、本当にありがとうございました。
江戸に行くことがあるかどうかわかりせんが、もしそうなったらお邪魔します。
正吉様、私たちはこの大晦日の夜、伏見稲荷大社に行きます。子の刻のはじめくらいに家を出発しようと思います。よろしくお願いします」

大晦日の朝がやってきた。
宗桂のおっさんが、泣いている。
「今晩、いよいよ旅立ちだな。
葛の葉のためにも日本のためにも。
きっとまた会えると思う。
二人に正装を用意したから着て行ってくれ」
「お父さん、きっとまたどこかで会えるから。
なんたって宗古は二世名人になるのだから」
「昨夜夢を見た。
葛の葉が子供を連れて、わしのもとに帰ってくる夢を」

夜になった。
正吉が迎えに来た。
宗桂のおっさんから見送られ、宗古は女として、吉川は男として正装をしてもらった。
「また、会えるから」
宗古は、何度も宗桂のおっさんに声をかけていた。

厳重な警備のもとで、一礼をして、京の伏見稲荷大社の大鳥居をくぐった。
いよいよ令和へ再転生に挑戦か。
私はこの女子高生天才女流棋士を守っていく。
そして令和でも添い遂げられるだろうか。
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