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第九話
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兵庫県警での事情聴取は続いている。
三島美都留は大人しく控室で待っているようだ。
金海女流棋士を呼び出した。
吉川は川田直久の写真を見せた。
「見覚えは有りますか」
金海は緊張しているのか指を組んでいた。
「ありません」
次に大内義長の写真を見せた。
金海は少し考えている感じで、
「どこかで見たような気がするのですが想い出せません」
「ありがとうございました。以上です。写真について何か思い出したらご連絡ください」
「林田さんと大盤解説が終わってから話をしましたか」
「賞金や副賞の目録を頂いて大盤解説会場を出るときに、『控室に忘れ物をしたから下に取りに行く。
感想戦はしないけどごめんなさい』
と言われました」
「そうですか。その後、金海さんはどうされましたか」
「私は一人でも対局を振り返りたかったのと対局場の荷物も取りに行きたかったのでそのまま35階の対局室の部屋に入りました。
そうしたら火事の放送が流れてびっくりしました」
「南場社長とはお知り合いですか」
「昨年将棋連盟の企画で、女性リーダについてという題材で対談をさせていただきました。赤龍戦の主催者になっていただき本当にありがたいと思っています」
「そうですか。ところで金海さんは女流棋士であり、理系大学院で航空工学を学んでおられますが将棋とのシナジーはありますか」
左手の薬指にリングを嵌めている金海は少し考えた。
「上のほうから俯瞰したら、辛い時や追い込まれた時にもたいしたことは無いと思えるようになります。
昔はラジコン、今はドローンで空から見下ろすのと、盤面を少し離れた上から眺めることで視野が広がって新しいアイデアに気づくこともありますので、シナジーがあると思っています」
「結婚されているのですね」
「はい、していました。新婚旅行でソウルに行ってきたことが思い出です。その時の空港は生体認証で自動化ゲートがすっと通れて、夫が便利だねと言っていたのが昨日の様です。
昨年交通事故で先に天に行ってしまいました」
金海の顔が曇っている。
「悲しいことを思い出させて申し訳ございません。
今日お見せした写真について情報があったらまた兵庫県警に連絡をしてください」
夕方に近い時間に、引退した加藤宗因棋士を呼び出した。
吉川は川田直久の写真を見せた。
「見覚えは有りますか」
「無いなあ」
次に大内義長の写真を見せた。
加藤は少し考えている感じで、
「確か相当前にどこかで見たような。今と顔つきが違うのでははっきりしたことはわからないが。将棋連盟の関係者に聞いてもらえないか」
「あの日、林田さんと対局後何か話をしましたか」
「林田くんには優勝おめでとうと言ったよ。
金海君にはお疲れ様と声をかけたよ。本当に疲れた表情をしていたから負けてがっくり来ていたのかな。
そう言えば、林田くんが小顔でコケティッシュの割には黒眼鏡が大きくて似合っていなかったので『眼鏡メーカの塚本社長におしゃれな眼鏡を副賞でねだったらどうか』と言ったよ。ハラスメントになるのかな」
加藤は苦笑いをしていた。
「今思い出したよ。大内君は奨励会に居たのではないだろうか。
山口の天才と言われた大内とかいう名の子が居たような気がする。残念ながら棋士にはなれなかったはずだが、自信はないので将棋連盟に聞いてくれ」
加藤の後に赤龍戦の対局当日、加藤と一緒に大盤解説をしていた北山四段を呼びだした。
北山四段は、林田の行方も、川田の写真にも反応が無かった。
また、大内の写真にも心当たりがないと思う、記憶のどこかにあるような気もするがわからないとの回答だった。
最後に吉川は控室に待機していた三島美都留を呼び出した。
「改めて聞くが、この写真とこの写真に見覚えは?」
ツインテールの美少女はじっくり考えた末に吉川に回答した。
「大内は赤龍戦で塚本社長と一緒にいたと思う。
川田は見覚えあるかどうか考えたの。
確か昨年の準決勝のときに見物客に居たような気がするの。でもじっくり見たわけではないから。
将棋の棋士は一瞬で将棋の盤面を覚える特技があるの。
でもあまり自信は無いわ」
美都留は写真を凝視していた。
「他の関係者の状況を教えてほしいわ。
本部長も美人の女流棋士は参考になるから積極活用しなさいと言っていたはずよ」
本当に良い所取りで解釈するなあ。
確かに美少女ではあるが。
「関係者の内、依然大内と連絡が取れない。
携帯に出ないし、自宅にも戻っていない。
それから、守秘義務があるので詳しくは話せないが、川田を知っているような人はいなかった。
あと大内について金海さんと加藤さんが奨励会にいたような記憶があるようなことを言っていたし、南場社長が大内は昔全日本将棋連盟に関係していたと聞いたようだ。
それと大内は別荘を持っているようなので、逃げていないか、林田をかくまっていないか大内義長名義の不動産を調べるつもりだ。
蛇足だけれど、加藤さんも林田女流棋士の眼鏡が似合っていないとコメントしていたよ」
美都留の目が光った。
「ちょっと用事があるから今日は帰るわ。
とりあえず引っ越し先が決まるまで、オーハシポートホテルに格安で間借りしてもらえることになっているの」
また、オーハシポートホテルにこの目の前の美少女が良からぬことを吹き込んでいないのか心配である。
あのホテルにも山口の実家は出資しているはずだし。まあ安全ではあるが。
三島美都留は大人しく控室で待っているようだ。
金海女流棋士を呼び出した。
吉川は川田直久の写真を見せた。
「見覚えは有りますか」
金海は緊張しているのか指を組んでいた。
「ありません」
次に大内義長の写真を見せた。
金海は少し考えている感じで、
「どこかで見たような気がするのですが想い出せません」
「ありがとうございました。以上です。写真について何か思い出したらご連絡ください」
「林田さんと大盤解説が終わってから話をしましたか」
「賞金や副賞の目録を頂いて大盤解説会場を出るときに、『控室に忘れ物をしたから下に取りに行く。
感想戦はしないけどごめんなさい』
と言われました」
「そうですか。その後、金海さんはどうされましたか」
「私は一人でも対局を振り返りたかったのと対局場の荷物も取りに行きたかったのでそのまま35階の対局室の部屋に入りました。
そうしたら火事の放送が流れてびっくりしました」
「南場社長とはお知り合いですか」
「昨年将棋連盟の企画で、女性リーダについてという題材で対談をさせていただきました。赤龍戦の主催者になっていただき本当にありがたいと思っています」
「そうですか。ところで金海さんは女流棋士であり、理系大学院で航空工学を学んでおられますが将棋とのシナジーはありますか」
左手の薬指にリングを嵌めている金海は少し考えた。
「上のほうから俯瞰したら、辛い時や追い込まれた時にもたいしたことは無いと思えるようになります。
昔はラジコン、今はドローンで空から見下ろすのと、盤面を少し離れた上から眺めることで視野が広がって新しいアイデアに気づくこともありますので、シナジーがあると思っています」
「結婚されているのですね」
「はい、していました。新婚旅行でソウルに行ってきたことが思い出です。その時の空港は生体認証で自動化ゲートがすっと通れて、夫が便利だねと言っていたのが昨日の様です。
昨年交通事故で先に天に行ってしまいました」
金海の顔が曇っている。
「悲しいことを思い出させて申し訳ございません。
今日お見せした写真について情報があったらまた兵庫県警に連絡をしてください」
夕方に近い時間に、引退した加藤宗因棋士を呼び出した。
吉川は川田直久の写真を見せた。
「見覚えは有りますか」
「無いなあ」
次に大内義長の写真を見せた。
加藤は少し考えている感じで、
「確か相当前にどこかで見たような。今と顔つきが違うのでははっきりしたことはわからないが。将棋連盟の関係者に聞いてもらえないか」
「あの日、林田さんと対局後何か話をしましたか」
「林田くんには優勝おめでとうと言ったよ。
金海君にはお疲れ様と声をかけたよ。本当に疲れた表情をしていたから負けてがっくり来ていたのかな。
そう言えば、林田くんが小顔でコケティッシュの割には黒眼鏡が大きくて似合っていなかったので『眼鏡メーカの塚本社長におしゃれな眼鏡を副賞でねだったらどうか』と言ったよ。ハラスメントになるのかな」
加藤は苦笑いをしていた。
「今思い出したよ。大内君は奨励会に居たのではないだろうか。
山口の天才と言われた大内とかいう名の子が居たような気がする。残念ながら棋士にはなれなかったはずだが、自信はないので将棋連盟に聞いてくれ」
加藤の後に赤龍戦の対局当日、加藤と一緒に大盤解説をしていた北山四段を呼びだした。
北山四段は、林田の行方も、川田の写真にも反応が無かった。
また、大内の写真にも心当たりがないと思う、記憶のどこかにあるような気もするがわからないとの回答だった。
最後に吉川は控室に待機していた三島美都留を呼び出した。
「改めて聞くが、この写真とこの写真に見覚えは?」
ツインテールの美少女はじっくり考えた末に吉川に回答した。
「大内は赤龍戦で塚本社長と一緒にいたと思う。
川田は見覚えあるかどうか考えたの。
確か昨年の準決勝のときに見物客に居たような気がするの。でもじっくり見たわけではないから。
将棋の棋士は一瞬で将棋の盤面を覚える特技があるの。
でもあまり自信は無いわ」
美都留は写真を凝視していた。
「他の関係者の状況を教えてほしいわ。
本部長も美人の女流棋士は参考になるから積極活用しなさいと言っていたはずよ」
本当に良い所取りで解釈するなあ。
確かに美少女ではあるが。
「関係者の内、依然大内と連絡が取れない。
携帯に出ないし、自宅にも戻っていない。
それから、守秘義務があるので詳しくは話せないが、川田を知っているような人はいなかった。
あと大内について金海さんと加藤さんが奨励会にいたような記憶があるようなことを言っていたし、南場社長が大内は昔全日本将棋連盟に関係していたと聞いたようだ。
それと大内は別荘を持っているようなので、逃げていないか、林田をかくまっていないか大内義長名義の不動産を調べるつもりだ。
蛇足だけれど、加藤さんも林田女流棋士の眼鏡が似合っていないとコメントしていたよ」
美都留の目が光った。
「ちょっと用事があるから今日は帰るわ。
とりあえず引っ越し先が決まるまで、オーハシポートホテルに格安で間借りしてもらえることになっているの」
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