18 / 60
第十八話
しおりを挟む病室を出て退院した美都留は、すっかり元気にはしゃいで吉川のレクサスNXの助手席に乗り込んだ。
「さすが、山口の武家の御曹司。
レクサスのプラグインハイブリッド車よね。静かな運転音だし、内装もゴージャスよね。
これは、運転しながら電話もできるのね。
さてテレビをみようかな。音楽は何があるの」
助手席に乗った美都留は、レクサスNX車内で色々なボタンを押している。
「兵庫県警に言ったら、その後は山口県ね。
高嶺城よ。一度行かないといけないと思っていたのだけど。」
美都留がスマホで何やら見ている。
「もうすぐ山口県の山水園亭で日本女流名人戦があるわ。
どうしよう。
私は対局しないし解説係でも無いのだけれど」
「兵庫県警に行くよ。
山口は捜査に関係ないだろう」
不服そうに美都留は助手席でレクサスのボタンを触っていた。
「関係あるの。夢で見たから」
再び、淡路島から明石海峡大橋を渡る。
すっかり元気そうに見える美都留は瀬戸内の海を見て、はしゃいでいる。
「ドライブデートね。これは楽しいわ。
車も良いし、景色もいいし。
県警よりこのまま西へ行きましょうよ」
夢ってなんだ。仕事、仕事。
吉川はナビに兵庫県警をセットして、阪神高速を東に車を走らせた。
昨日の夜というか今朝未明で夢を見ている美都留、『私の中にもっと強く』と言っていたよな。
私も横に居るという夢を。
私の中にもっと強くとは?
吉川の頭の中に妄想が芽生えかけたが、深呼吸をして意識を運転に集中させ兵庫県警本部に向った。
県警に着いた吉川と美都留は本部長の部屋に行くように言われて部屋に入った。
「吉川、許嫁に何事も無さそうでよかったな。美都留さん、そこの椅子にかけてくれ。
山口に行った際はよろしく頼む」
「いや、許嫁では。
痛い」
美都留に足先を踏まれて、叫びそうになった。
「はい。遠慮せず、座らせて頂きます。
承知しました。山口でお待ちしています」
吉川だけ立ったままで本部長に問いかけた。
「早速ですが、オーハシホテルと別荘の遺体について、将棋に関することがありましたら、プロの専門家が横に居ますのでご指示のとおり連れて参りました。
また、鑑識の結果でいくつか確認したいことが。
私の横に居る県警の広告塔がそう申しております」
「そうだ。本部長。オーハシポートホテルの駐車場に写ったスーツケースと淡路島津名の別荘にあったスーツケースですが一致しましたか。
大内の別荘のアウトランダーとホテルの駐車場のアウトランダーの写真は一致しましたか。
また、スーツケースの内側に林田初段の何か痕跡が残っていませんでしたか」
「さすが。名探偵。
二つとも一致したよ。それにスーツケースの内側の上に林田の髪のトリートメントの成分が付着していたよ」
「そういうことですね」
「ああ。そういうことだ。対局の後、林田は大内のスーツケースに入って、オーハシポートホテルから大内のアウトランダーで脱出した。
大内と林田は淡路島の別荘に行った」
得意げに笑顔のツインテールの美少女を前にして、本部長は更に衝撃的なことを言った。
「将棋の赤龍戦で林田の優勝した賞金五千万円はネットバンキングでその日のうちに複数の銀行に振り込んで口座を分けたようだ。林田から大内の口座にも振り込まれている。
途中で複数の銀行のATMから現金を降ろしている写真も見つかった。
一つの銀行のATMだと50万円しか下ろせないが、複数の銀行に分けてその日の夜と翌日の早朝にATMを使っている形跡があった。
翌日の朝、淡路島で、複数の銀行の支店に大内が窓口から現金を下ろしている。
林田と大内の名義の複数の銀行から、ATMと窓口から2日間で賞金5千万円のほとんどが下ろされていた。
淡路島の別荘にはどこ探してもほとんど現金が残されていなかった」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
