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第二十一話 赤龍戦優勝のトリック

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美都留は推理を本部長と吉川に話し始めた。
「眼鏡が入手できれば完璧だけれど多分私の考える通りだと思うわ。林田さんが赤龍戦で指した手の棋譜と将棋のAIソフト将神火匠の指し手を比べてみたの。
今ノートPCで確認のため作業したら、林田初段が赤龍戦で指した手は局面ごとにAIソフトで検証したら一致率がほぼ100%だったわ。
決勝だけではなくトーナメント全体の棋譜でほぼ100%だった。
金海五段のほうは、決勝戦でAIソフトの一致率は高かったけれどトーナメント全体で7割くらいの一致率よ」

林田さんのマンションでも林田さんが将棋を勉強している感じは全くなかったわ。
似合わない眼鏡を掛けていたし、吉川さんが調べた限りでは林田さんは高校卒業後将棋に関係するお仕事もしてないよね」
美都留はノートPCの画面から顔を上げ、吉川の目を見た。
「だから結論は、ソフト指しね」

「ソフト指しか」
「そう、赤龍戦はソフト指し。
将棋のルールでは対局中に助言を受けると反則で負けよ。
コンピュータ将棋ソフトの手を入手してそのとおり指すソフト指しは最も悪質な反則」
「どうやってソフト指しができた」

「林田さんの眼鏡は眼鏡の形はしているものの骨伝導か何かで外から音声を受け取るイヤフォンよ。
多分大内が別の部屋で将棋AIソフト将神火匠の指し手をWi-Fiで林田さんの眼鏡に伝えていたはず。
骨伝導だから林田さん以外の人は大内の声は聞こえない。
塚本社長は眼鏡メーカの社長だから、知り合いの大内は最新式の高性能骨伝導眼鏡を手に入れられたはずよ。
残念だわ。
せっかく林田初段の強さの秘訣を探ろうと思っていたのに」
吉川も本部長に向って言った。
「ここまで不正なやり方をして、優勝賞金五千万円を手に入れて、あっさり別荘で自殺や心中するとは考えられない。
本部長、2件の死体について殺人事件の捜査本部を設置してください」

本部長が残念そうに美都留を見ている。
「赤龍戦がソフト指しだとすると詐欺ということになるが、被疑者がすでに死亡しているから、刑事事件としては不起訴になるな。
ただ林田と大内は別荘での殺人事件の被害者として捜査を続けることになる。殺人事件を解決するために眼鏡や物証など詐欺容疑の捜査は続けるが」

美都留が本部長に進言した。
「それより、オーハシポートホテルで死んだ川田と別荘で死んだ林田と大内の過去を改めて洗う必要があると思うわ」
吉川は先日オーハシポートホテルでの焼死体のときに参考人の本籍をタブレットPCで見てみた。
「オーハシポートホテルの焼死体である川田直久の本籍は山口県下関市。
淡路島の別荘の中毒死した大内と林田の本籍はというと、山口県山口市。
三人とも山口県なのか」
本部長が立ち上がった。
「今日、殺人事件の捜査本部を立ち上げる。
そして捜査の状況から、山口県警に協力を仰がないと。
私は兵庫と山口県警の一人二役だな。
吉川、今日中に3人の過去、接点を洗い出してくれ」
本部長は満悦至極の様子だった。

美都留も立ち上がった。
「山口に行くわ」
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