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第三十六話 ダブルスイートのバスルーム

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吉川はレクサスをダブルスイートのリゾートホテルの駐車場に止めて、ロビーから入ると、フロントで美都留とフロントマンが何か話している。
吉川を見つけると、「宿泊客は一日3点迄、ホテルのクリーニング代が無料なのよ。
このワンピースも出していいでしょう。
あとこのホテルの隣のコンビニに寄ってから部屋に行くわ」

部屋で待っていると美都留が到着したので、吉川はキーを美都留に渡した。
「私は部屋の外で待っているから着替えが終わったら開けてくれ」
吉川はリゾートホテルのダブルスイートの部屋から出て行こうとしたら、後ろから、手を握られて部屋に引っ張り込まれた。
「何言っているのよ。二人でないとできないでしょう。
そこのベッドでいいから座っていてよ」

美都留は部屋の鍵とロックをかけ、にんまりと吉川に笑顔を見せた。
美都留は部屋の中を眺めると、コーヒーポットやお茶があるコーナーに行き、
「あった。コーヒー、日本茶、紅茶、ココアと全部そろっているのね。
ランドリーバッグも下の引き出しにあったわ」
美都留はココアの袋を取って大きなバッグにしまい込んだ後、山水園亭で着ていた紫のワンピースを吉川の前で脱いでランドリーバッグに入れた。
顔を赤らめている吉川の前を平然と美都留は、ワンピースを入れたランドリーバッグを吉川に押し付けた。
「大丈夫。ほら、ワンピースの下にキャミソールを着ているから。
これお願いね。無料だから」
ピンクのキャミソールの下をひらりと回転させて、美都留は汚れたワンピースを入れたランドリーバッグを吉川に差し出し、大きなカバンを持ってバスルームに向った。

二人でないとできない?
どういうことだ。
それに大丈夫じゃないぞ。
キャミソールも煽情的で肩が大きく出ていたじゃないか。
いや、しっかりと見ているという事か。

バスルームからシャワーの音が止まった後に、何かの音がして、美都留の声がした。
「さあ、これでよし。準備万端」

いや、まずいだろ。
刑事が出張中に十九歳の美少女とホテルの中で、二人でないとできないことをするなんて。

バスルームから更に声がした。
「吉川さん、私のスマホを取って」

吉川は目をつぶってバスルームのドアを開け、美都留のスマホを差し出した。
「違うの。向こうのソファで、アプリを立ち上げて丸いオンのボタンを押してみて。できるだけバスルームから離れて。ドアの近くで。
あと私のスマホのロックは、数字4桁で、1569だから」

吉川は言われた通り、よくわからないまま、美都留のスマホを操作し、アプリのONボタンをクリックした。

しばらくするとバスルームから奇声が上がった。
「大成功。やっぱり。そうだと思ったわ。
今度は部屋の外に出て、下の階に降りてもう一回やってみて」

吉川は分からないまま、部屋を出て、エレベータの下の階で同じ操作をした。
美都留のスマホが鳴ったので出てみると、もう実験は終わりだから、部屋に戻って良いとの事だった。

再び吉川は部屋の戻ると、白いホテル備え付けのバスロープ姿の美都留が出迎えた。バスロープの帯が無いのが艶めかしく危なっかしい。
「バスルームにいっしょに来て」

冷静な感覚で不純なことを考えないようにして吉川がバスルームに行くと、小さな炎が見えた。
「危ないぞ。火を消さないと火災警報のベルがなるぞ」
「浴室だけはホテルでも火災報知器が付いていない所が大半よ」
吉川がよく見ると、中の洗面台のコンセントに小さなプラグが嵌っていてその先からリード線が続いている。リード線の先には茶色の粉末と液体が入ったガラスの灰皿があり、中からろうそくのような小さな炎が上がっている。

「実験大成功ね。
スマホがあれば、川田は誰でも殺すことができたはず。
はい。証明終わり」
「どういう事なのだ」
「殺害現場の34階に行かなくても、35階にいても殺人が可能だっていうことよ。
バスルームに寝かせて意識を失わせた川田を予めバスタブに沈めて、引火する液体をバスタブに入れておくのよ。
今スマホで外から電源をオンオフするのが流行っているし、私も南場さんの会社のネットショッピングを見たら、スマホでオンオフできるIoTコンセントというものがニ千円くらいでいくつも売っていたわ。
さっきネットで購入したIoTコンセントをコンビニで受け取ったよ。
IoTコンセントを、ホテルで火災報知器のない唯一の空間であるバスルームに据え付けるの。
そうすれば、ホテルの別の部屋や空間からスマホでオンオフの操作できて火をつけることができるし、しばらく火が燃えていても火災報知器は発動しない。
火や煙がバスルームの外に溢れてからでないと火災報知器は発動しないわ。
IoTコンセントとスマホの距離はWi-Fiに依存しないからスマホの電波が届くところなら操作できるわ。
川田は34階で焼き殺されたけれど、35階に居た人がスマホさえ持っていれば、大内以外でも着火の操作はできたはずよ」
美都留のバスローブには帯が無いため、白い胸元の谷間は大きく開いている。
吉川はなるべく胸元を見ないようにつぶやいた。
「そうなのか。大内が犯人でなくてもいいのか」

「そうよ。IoTコンセントから例えばファイバーグラス素材か銅線のリボンのように細長いものをつけたら、リボンの先が200℃くらいになるわよ。
オーハシポートホテルの浴室で焼死体が見つかったとき、香ばしいビターな匂いがしたよね。
それは多分ココアの粉末の匂いよ。
ココアは発火点が190℃と低いから、揮発性のアルコールや油等の引火温度が低い液体を浴槽で気を失わせた人間を燃やすのに役に立つ粉末なのよ。
意識を失った川田にたっぷりと引火する液体とココアをぶっ掛けてスマホの遠隔操作で着火させたら、リモートで人間の丸焼きが一丁上がりだわ」
「引火したら、熱くて目が覚めないか」
「覚めても動けないようにテープで体を縛っておけばいいのよ。
SMの嗜好がある人みたいに」
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