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第四十六話
しおりを挟む四人目の参考人は、毎朝新聞社の桂編成部長である。
取調べ室には鈴木刑事が対面している。
「桂さん、これはあくまで参考なのですが、女流名人戦の前夜祭の夜11時くらいですが、どちらに居られましたか。
また昨日の夜9時前後はどうでしたか」
「取り調べですか。私はマスコミの一助を担っていて、塚本さんについて参考に知っていることを教えてほしいと言われたので協力しようと思ったのですよ。
それをまるで犯人かのようにアリバイを聞かれても、任意での調べなら応じる必要はないですよね。
それに昨日については塚本さんと関係は無いはず。
何かあったのですか。
あったのなら新聞社にも教えてもらわないと。」
鈴木刑事が宥めても桂編成部長は答えなかった。
「とにかく私は塚本さんを殺していませんよ。
事情を話すつもりはないですが前夜祭の夜11時頃なら、確実に私は犯人ではありません。
それより昨夜は何があったのですか」
鈴木刑事は困ったように取調室の横のミラーに首を振り向けた。
美都留が控室のマイクでしゃべっている。
「山口県警の刑事さん、別に昨夜の私のことを言っても構いませんよ。
それから、山水園亭かリゾートホテル付近の防犯カメラ映像を集めたら、桂さんが外出したかどうかはわかりますし、何か言えないことをやっていたなら防犯カメラで暴いちゃいましょうよ」
鈴木刑事のイヤフォンにその声が届いたようだ。
「確かに任意での質問ですのでおっしゃるとおりです。
ただ塚本さんの無念を思いますと、少しでも何かご存じで事件の解決になるような場所で何かを目撃されたのであれば教えていただきたいのですが、いかがですか。
それから、殺された塚本さんが後頭部に石のようなものを当てられた打撲痕があるのですが、昨夜山水園亭で危うく石のようなもので怪我をされた方が居られましたので参考にお聞きしています」
「誰ですか。その怪我した人は」
「女流棋士の三島さんです」
「そうなのですか。彼女は大丈夫ですか」
桂編成部長は心底驚いたような表情を見せた。
「幸い、命に別状はないようです」
桂部長は考え込んでいた。
「昨夜なら、山水園亭内の個室焼肉屋で食べていたから、時間はいつ食べ終わって店を出たかおぼえていないな。
どうせ店のレシート見れば領収書を書いてもらったからわかってしまうから昨夜については言ってもいいか。
地元の支局のメンバーと夜遅くまで飲み食いしていたから。
いずれにしても昨夜も私では無いよ。
逮捕状でも持ってきたら、証人ありの鉄壁なアリバイを用意しておくよ。
私を調べても無駄だよ」
美都留が控室のマイクに向けてまたしゃべった。
「赤龍戦の対局の時に、川田に会いましたかと聞いてみてください」
鈴木刑事が桂編成部長にその通り質問をした。
桂編成部長は真っ青になり、立ち上がった。
「失礼な。犯人呼ばわりされる筋合いは無い。失礼する」
そう言い捨てて、桂編成部長は取調室から出ようとした。
美都留がまたマイクでしゃべっている。
鈴木刑事が更に桂編成部長に話しかけた。
「まだ生きていたはずですよね。
息もしていたから大丈夫だと思ったのですよね」
桂編成部長が戦慄いて膝から崩れ落ちた。
「親が子供を守って何が悪い。
害虫に一言文句を言う権利はあるだろう。
川田は自業自得なのだよ。
そう。いくらあいつが失礼でも私は殺してはいない。
あいつは勝手にへらへらとして、自分からよろけて、ベッドの頭の柵に自分の頭を打っただけだ」
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