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第四十七話
しおりを挟む毎朝新聞の桂編成部長については、兵庫県警で赤龍戦の事件の経緯ということで改めて参考人招致をすることになった。
五人目の参考人は、ネット販売等の社長である南場景子である。
取調べ室には鈴木刑事が対面している。
「南場さん、これはあくまで参考なのですが、女流名人戦の前夜祭の夜11時くらいですが、どちらに居られましたか。
また昨日の夜9時前後はどうでしたか」
南場の顔色はミラー越しなのか蒼白のように見える。
「私は」
南場はそう言うと黙った。
鈴木刑事は南場が続きを話すのをじっと待っている。
南場は下を見つめていたがやがて顔を上げポツリと呟いた。
「あの前夜祭の日は、地域振興の会合がありましたのっで、なかなか前夜祭の方には参加が出来ず、最後の方に少し女流名人戦のほうに顔を出しました。あの日は気分がすぐれませんでしたので、すぐに山口リゾートホテルのほうにチェックインをしました。
山水園亭は自家発電の電気が故障していると聞きましたので、私は山口リゾートホテルのほうに宿泊したのです。
その後、ホテルから外出して夜の12時くらいにホテルに戻ってきました。
ホテルのフロントに部屋の鍵を預けておりましたので、鍵をもらって部屋に戻り朝まで就寝していました」
鈴木刑事が頷く。
南場は鈴木刑事に眼をあわせず下を向いたまま話を続けた。
「昨夜の夜9時前後は、山水園亭の個室焼肉屋に居たと思います」
控室の美都留がマイクでしゃべると取調室の鈴木刑事がそのまま南場に話しかけた。
「前夜祭の夜に山口リゾートホテルから外出されたという事ですが、どなたと何処に行かれましたか」
再び南場が俯き黙っている。
鈴木刑事が更に話しかけた。
「昨夜の焼き肉屋はどなたと行かれましたか」
「昨夜の焼肉屋は個室でしたので、一人で食事をしていました。
化粧も落としてマスクをして入店し、気兼ねなく一人で食事をして9時前には部屋に戻ったかもしれません。お店に聞いていただければ何時ごろ店を出たか分かると思います」
「わかりました。南場さん、前夜祭の時のリゾートホテルからの外出についてもう少し話していただけませんか」
南場はしばらく沈黙した後、小さな声で答えた。
「前夜祭の夜に、知り合いに相談したいことがありレンタカーを借りて外出しました。
そのあと山口リゾートホテルのほうに夜の零時くらいに戻りました」
「南場さん、知り合いはどなたですか。そしてどちらに行かれましたか」
南場から返事は無い。
美都留がマイクでしゃべる。
鈴木刑事が南場に話しかけた。
「言いづらいということは男性と会っていたという事ですね。
南場さんは独身ですから別に隠すことも無いと思いますが、夜の11時頃には山口リゾートホテルとは別の所で男性と情を深めていた」
「いえ、男女の体の関係はありません」
南場はここだけは毅然と顔を上げてしっかりと鈴木刑事を見つめている。
「塚本さんの殺害現場の高嶺城の山頂に行ったのではないですか」
南場は黙っていたが、やがて諦めたように下を向いて口を開いた。
「いえ、行っていません。高嶺城山頂のふもとにある木戸公園で知り合いと会っていました。
あの夜は本当に車が少なく、私たちが木戸公園の駐車場に居たときに、高嶺山頂に行く車はタクシーが一台とレクサスが一台しか通っていませんでした。どちらの車とも言葉を交わしていません。
信じてもらえないかもしれませんが私と知り合いは山頂には行っていないのです。
今日は失礼します。
私は何もしていません」
南場が席から立とうとしている。
美都留がマイクでしゃべる。
鈴木刑事が南場に話しかけた。
「南場さん、桂美京さんってご存じですか」
南場の顔色が変わり、席を立とうとして立てずに崩れ落ちた。
「いえ、知りません。失礼します」
やがて南場はよろよろと立ち上がると取調室を出て行った。
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