41才の中学二年生(改訂版)

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第2章

説得

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片野は教室を出て行ったきり、帰ってこなかった。

「片野さんは何処へ行ったの?」

「アイツ、帰ったんじゃないの」

多分そう思う。

「えーっ!帰ったって…それじゃ連れ戻さなきゃダメでしょ?」

佐伯は慌てて教室を出た。




アイツもしかして、芝居やりたいんじゃないだろうか。


子役のイメージが強いから、成長したらどんな役者になるのか、本人も悩んでるのだろう。


「智、片野はダメだよ。アイツ抜きでやろう」

「ん~、それだとフツーの劇になるしなぁ…」

「いいじゃん!だってアイツ、協力する気ゼロだぜ」


そうなんだよな、アイツにとっちゃ、文化祭の劇なんてお遊びみたいなもんだし。



「さぁ、困ったわね~」


また、出てきやがった。


もう、驚かないよ。


「お前、アイツの代わりに主役やるか?」

梅に芝居が出来るとは思わないけど、コイツが主役ならインパクト強いし、面白い劇になるとは思うんだが。



「あら、私が主役?いいわよ。皆、私の魅力にウットリするかもね~」


「お前も茶坊主みたいに、転校生として姿を現すのかよ」


いや、コイツが中2という設定は無理があるだろう。


「それいいかもね!私も転校生になって、皆の前に出ようかなぁ」


その前に、金髪に染めた髪とネイルをなんとかしろ!




担任のいなくなった教室では、龍也と泰彦が前で文化祭の出し物について説明している。


「昨日オレたちで話し合ったんだけど、ウチのクラスは劇にしようかと思うんだ」

『劇かよ…』

『どんな劇にするの?』


ザワザワザワザワ…


「それを今から皆で考えよう。どんな劇がいいと思う?」


シーン…


無しかよ…


「何かないのかよ?例えばアクションとか、ラブコメとか、アットホームとかさぁ」

『アクションったってなぁ…』

『ラブコメ面白そうかも!』

『いや、ホラーなんてどうだ?』


「シリアスなドラマなんてどうかな?」

オレはまだ、片野を諦めてない。



「山本、お前シリアスなドラマって言うけど、どんな内容にするんだよ?」


そりゃ、決まってるだろ!


「タイトルは家なき子。親を亡くし、天涯孤独の少女が大人の世界でもがきながらも、必死で生きていくストーリーなんてどうだろ?」


「パクりじゃないの!」


いいんだよ、先にやった方がオリジナルになるんだし。


何なら、梅は主人公の母親役でキャスティングしてやろうか?


「コラ!何で、私が母親役なのよ!」


まぁそれはさておき、その芝居をするにしても、アイツがいなきゃ成り立たないワケで。


「面白そうな内容だけど、誰を主人公にするんだよ?」


勿論、片野だよ。


「主人公は片野だ」


「だから、アイツは無理に決まってるだろ!」


そう決めつけるなよ、龍也!


「よし、1週間くれ!その間にオレはアイツを説得する!」


「1週間なんかでアイツを説得出来るのかよ?」


オレには自信がある。

「出来る!もし出来なきゃ、オレは責任をとって、ボウズになる!」


ザワザワザワザワ…

『ボウズ?』

『ホントかよ?』

『絶対ボウズにしろよ!』


「よし、じゃあ山本!お前に任せた!その代わり1週間だけだぞ、いいな?」

1週間あれば十分だぜ、龍也!

「智、ホントに大丈夫なのかよ?」

「何だよ、チャッピー。マジで大丈夫だよ」


大丈夫なんだよ、オレには秘策があるんだ!


「あぁ~あ、これで1週間後にはボウズか…」


「何っ?おい、梅!オレがもし説得出来たら、元の世界に戻せよな」


いい加減、戻りたい!

「だから、梅は止めてって言ってるでしょ!サヤカと呼んで!」


何でサヤカなんだよ…何故、その名前にこだわる?



オレの案で、文化祭の出し物は一旦保留になった。








その日、片野は教室に戻らなかった。

どうやら、家にも帰ってないらしい。

先生達が片野を探しに回ったが、何処にもいない。



放課後、オレはデザイアーを連れて片野の家に行った。


何故、デザイアーなのか。

それは、デザイアーと片野は幼稚園の頃からの幼なじみだからだ。


教室ではあまり会話をしない2人だが、片野はデザイアーだけには心を開く。


子役として多忙を極めていた頃、デザイアーは片野に勉強を教えていたらしい。


子役なんてやってたから、学校ではほとんど友達がいなかった。

だが、デザイアーだけはそんな片野を見て、色々と手助けをしてあげてたという。


デザイアーに片野を説得してもらおうと思い、連れてきたってワケだ。


「悠はまだ、家に帰って来てないと思う…」

「んじゃ、何処に行ってるんだよ?」

デザイアーは、片野のいる場所を知ってるのだろうか…


「…もしかしたら、スタジオにいるかも…」

「スタジオ?」

スタジオって、何処?


「…ここから、電車に乗って3つ先の駅にあるスタジオじゃないかな…前に撮影したって言ってたし」


スタジオなんか行って、何してるんだ一体?


「デザイアーがそう言うなら、そのスタジオに行ってみようぜ」


ホントにスタジオにいるんだろうか?



とにかく行ってみよう。
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