41才の中学二年生(改訂版)

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第2章

アイドルになりきってら…

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オレの出番は終わった…

セリフはちゃんと言えただろうか?

演技は大丈夫だっただろうか?


そればかり気になっていた。


袖に引っ込んで、後は皆の芝居を見るだけ。


「山本くん、お疲れ様。大分緊張してたね」

「オレ、大丈夫だったかな…」


「ドンマイ!」


え…ドンマイって…

あっ、そうだ!それよか、デザイアーの事だよ!


「片野!さっきの話だけど、デザイアーの本来の姿って、どういう事なんだ?」


片野は袖から舞台を見ながら話をした。


「小学校の2年生になった頃だったと思うけど、あの子今はああやって真っ黒な髪にしてるけど、地毛は茶色いのよ。それで、担任の先生に【何で茶色くしてるの、黒く染めなさい!】って言われて、何度もこれは地毛だって、お母さんも一緒になって説明したんだけど、聞き入れてくれなくて…
それで、他の子達からも【茶色に染めてる】ってイジメられるようになって…それまでは、明るくていつもニコニコしていたのが、徐々に暗くなって、髪も同じように暗く染めて、いつしか話し方もあんな風になっていって…」


知らなかった…元々ああいう感じなのかと思っていたのだが、違ってたのか。

何だか、可愛そうだ。


コミュ障になったのではなく、ならざるを得なかったなんて、あまりにも悲しすぎるじゃないか!


「だからね、恵の本来の姿を知ってもらうには、ああやって主役にするのがいいと思ったの」


確かに今のデザイアーを見て、あれが本来の姿と言われれば、そうなのかなと思ってしまう。


しかし、あんな一面があったとは。




そして、舞台は再度暗転して、ステージ風にチェンジした。


【♪~】


これ、デザイアーじゃないか?

デザイアーと言っても、曲の事だ。

デザイアーがデザイアーを歌うのかよ!


『あっ、デザイアー!』

『髪も衣装もそのまんまデザイアーだ!』

『何か…中森明菜に似てないか?』

『似てるかも』


おかっぱ頭に和服をアレンジした衣装。


あのデザイアーが、中森明菜のデザイアーを歌っている。

しかも、ソックリだ。




「おい、まるでモノマネしてるみたいだな」


謙司が言うように、モノマネグランプリでも見てるようだ。

「いや、モノマネというか、本人が乗り移ったみたいじゃね?」

うん、チャッピーの言うように、本人が乗り移ったかのようだ。



「驚くのはまだ早いわ。これからが見ものなの」


まだ、何かあるって言うのか?


デザイアーを歌い終えると、デザイアーは(ちょっとややこしい)着ていた衣装をバッと取った。


「えーっ!あの格好は!」


あれは泰彦が好きな、森高千里の衣装だ!

ブルーを基調にして赤のラインの入ったマーチングバンド風の衣装にミニスカ。

しかも、本家に負けじ劣らずの脚線美!


「恵、あんなにスタイル良いのか…」

優季が思わずため息をつくほどで、水泳で鍛えられた身体はモデルのように均整のとれたプロポーションだった。


すると次の瞬間、デザイアーは口元に笑みを浮かべ、トレードマークのおかっぱ頭に手をやった。


「えっ?」


「マジで…?」


「ウソっ!!」


「あれは一体…」


「えっ、どういう事?」


何と、デザイアーのおかっぱ頭はヅラだった。


デザイアーはおかっぱ頭のヅラを取ると、背中まである、茶髪のロングヘアをなびかせていた。


「あれがホントの姿なのかっ!」


「森高よりもいいかも…」

泰彦の目が変わった。


「そう、あれが本当の恵なの」


片野はそれを見越していたのか…


森高になりきって、デザイアーはステージを所狭しと動き回り、歌った。


ホントにアイドルみたいだ…

デザイアーの一挙手一投足に視線が注がれる。


「オレの役は完全に消えたな…」


龍也は唖然としている。

もう、全校生徒はデザイアーのインパクトしか目に焼き付いてないだろう。







デザイアーは声援を受け、楽しそうに歌った。



「ありがとうございましたっ!」

歌を終え、デザイアーは客席に向かって頭を下げた。


『いいぞ、森高!』

『キレイ~っ!』

『オレ、ファンになるぞ!』


やんややんやの大喝采だ。



かくして、オレたちの劇は幕を閉じた。



勿論、一番良かった催し物はオレたちの劇だった。




「やったぜ~っ!オレたちが一番だ!」


「バンザーイ!」


「いや~、サイコーだね!」


「あれっ、龍也泣いてるの?」


ウソっ!


「バ、バカ!ンなワケねぇだろ!」

目が真っ赤だぞw


でも、それだけ頑張ってきた証拠だ。


「よし、終わったら打ち上げやろうぜ!」

「いいねぇ、打ち上げ!」

「でも、またデザイアーが暴れないかな?」


「じゃあ、甘酒も奈良漬けも禁止という事でw」





良かった、良かった。これでようやく終わった…



「あの…ちょっといいかしら」


ん?


担任の佐伯が手を上げてる。


「先生、どうしたの?」


佐伯もチョイ役で出てたのを忘れてた。


「先生の芝居は…どうだったかな?」


えーっ?先生の演技かよ?





「どうって…片野、どうだった?」


片野も答えづらそうだ。


何せ、佐伯はちょっとしたセリフでも、しどろもどろになって、大変だった。



「あの…先生の演技は…ごめんなさい、先生を選んだ私が悪かったです、はい!」


『ギャハハハハハハ!』



どういう意味だったかは、ご想像にお任せします。



さて終わったし、早く帰ろうぜ!
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