41才の中学二年生(改訂版)

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1990年だと?

1,2,3ダーッ!…あれ?

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オレの頭の中では【UWF】のメインテーマ曲が流れていた。


UWFとは、当時プロレス界に一大ムーブメントを起こしたプロレス団体。


従来のプロレスとは一線を画し、ショー的要素を一切排除した、格闘技志向のプロレスとして人気を博した。


エースの前田日明を筆頭に、藤原喜明、高田延彦、船木誠勝らの活躍により、全日本プロレスや新日本プロレスを上回る程の人気団体で、チケットはあっという間にソールドアウト。


キック、サブミッション(関節技)、スープレックス(投げ技)を駆使し、勝敗はギブアップ、またはKOのみというスタイルで短い期間であったが、日本のプロレス史に残る、総合格闘技の元祖的な集団だった(プロレスファンじゃない人、ごめんなさい)


まぁ、そんなワケでオレと龍也は【敗者坊主頭デスマッチ】をする事になったんだが。


この挑発にキレた龍也は椅子を手にし、威嚇のつもりか、窓側にブン投げた。


【ガッシャーン】


所詮はハッタリだ 。

だが、ガラスは粉々になり、床に破片が散った。


『キャーッ!』


『おい、マジだぞ!ヤベーよ』


悲鳴を上げる女子や、ビビって何も出来ずにただ狼狽える男子もいた。

だが、オレは余裕綽々だ。
あれは単なる威嚇。
マジでやるなら、オレに椅子を投げただろう。

ハッタリだけで、コイツにそんな度胸はない。



「どうした、番長!椅子振り回して何がしたいんだ?えぇ?」


それがどうした?と挑発してみた。

「殺す!」

怒りマックスの龍也は精一杯凄んだつもりだが、何せオレは41才の中2だ。経験値の違いってヤツ?そんなハッタリは通用しない。

脅しだろうが、威嚇だろうが、オレには通用しない。

龍也はオレの胸ぐらを掴み、必死の形相でガンを飛ばしている



んー?…しかし、迫力の無い顔だ。


当時はスゲー、力強かった感じがしたけど…

そうか…所詮は中坊、この程度の力なのか…


何でこんなヤツに、皆ビビっていたんだろう?

今思えば、何て事無い。


皆は、オレがボコボコにされるのだと思っている。

周りは仲裁に入りたいのだが、巻き添えを食らいたくないのか、オレと龍也のやり取りを怯えた目で見ているだけだ。


あぁ、こりゃ楽ショーだ。
オレは秒殺する自信があった。

余裕の表情で龍也を見た。

体型や力は中2の頃に戻っているが、オレはコイツよりも経験値が遥かに上だ。

ドラクエに例えるならば、レベル5ぐらいの龍也が、レベルマックスのオレに挑むようなもんで、結果は分かっていた。


「おいおい…ひ弱だな、番長!テメー、ケンカ強く無いだろ、ん?」


オレは手首を取り、お辞儀をするような形でグイっと曲げた。合気道や護身術とかで使う技だ。

「…痛っ!」

手首が曲げられ、苦悶の表情を浮かべた。
オレはその手を離さないまま、更に挑発を繰り返していた。

「なぁ、番長。こっから折った方がいいか?それとも投げた方がいい?あ、そうだ!打撃でボコボコにする方がいいかな?なぁ、どっちがいい?」


赤子の手を捻るが如くとは、まさにこの事だ。


「テメー、ぶっ殺す!」

龍也は手首を極められ、片膝を付いた格好で、反撃等出来ない。


「はいはい。解った、解った」


オレは素早く、ローキックを龍也の膝の内側に叩き込んだ。龍也は両膝を付き、正座をするような格好で崩れ落ちた。

すかさず背後に回り、両腕を龍也の首に巻き付け、頸動脈を締め上げた。

プロレス技でいう、スリーパーホールドの体勢だ。



龍也は暴れて逃れようとしたが、オレは頸動脈をガッチリと締めてるので、徐々に脳へ血流が行かなくなる。やがて抵抗する力が弱くなり、ダラーンとして、全身の力が抜けた状態になった。

あっという間に龍也は落ちた。


「おい、チャッピー!オレの勝ちだろ?」


龍也は気を失い、床に倒れた。


見張りをしていたチャッピーは言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。

チャッピーだけじゃなく、この光景を目の当たりにしたクラスの連中も、一瞬シーンとなった。


そして大の字に倒れてる龍也を見て、ザワザワと騒ぎ始めた。


『えっ何?どうなったの?』


『金澤くん動かないよ、ヤバくない?』


『…まさか死んだんじゃないだろうか』



「死んでないよ。一時的に意識を失ってるだけだ、すぐに元に戻るから安心しろ」


龍也が一方的にボコボコにして、勝つだろうと思っていた皆の予想は外れた。

でも、今のオレは41才の中学2年生だ。
格闘技経験は無くとも、プロレスごっこをしていたせいか、龍也相手にプロレス技を出して勝ってしまったというワケだ。


「チャッピー!」

チャッピーを呼んだ。


「は、はい…」

大将の龍也があっという間に気を失い、コイツは狼狽えた。

「今からバリカン持ってこい!コイツ坊主にすっから」

何せ、この試合は敗者坊主頭デスマッチだ。
敗けた龍也は今から坊主頭になるんだ!

「ええっ、マジで!バリカンなんて無いじゃん…」



『うそっ、ホントに坊主にするの?』


『マジかよ?智?』


『もう、いいでしょ。これで終わったんだから』


『っていうか、龍也弱っ!』


「バ、バリカンなんて無いよ…」


金魚のフンみたいなチビは、オロオロするばかりだ。


「じゃあ、ハサミ持ってこい!コイツの髪切ってやる!」


中2の分際で、茶髪に染めて、ホストっぽいの頭をした龍也の前髪とてっぺんだけ短く切って、落武者みたいな頭にしてやろうw


『止めてよ、もう終わったでしょ?』


『そうだよ、智。もういいだろ?』

「智、もうすぐチャイムが鳴って先生来るから、もういいだろ」


泰彦は龍也に蹴られた腹を押さえている。

だって、仲裁に入った泰彦が蹴られたんだ、その分もお返ししないとな…


「何言ってんだよ、お前さっきコイツに蹴られたろ?コイツに仕返ししてやりゃあいいじゃないか」


「そうだけど…もういいだろ、とにかく早く元通りにしよう!」


泰彦の号令で皆は机を元の状態に戻し、席に着いた。


「おい、チャッピー!コイツのおでこに【肉】と大きく書け!それで勘弁してやるから、な?」


チャッピーにマジックを渡くと、恐る恐る龍也のおでこに肉と書いた。

「チャッピー、ちょっとこい」


チャッピーの肩に手を回した。


実のところ、龍也よりもコイツの方が嫌われていた。

何故なら、コイツは龍也がいるからという理由で、やりたい放題にやってきた。


「な、何だよ、何すんだよ?」

チャッピーは怯えていた。
コイツも少し痛い目に遭った方がいいからな。


「オメーも龍也と同じ目に遭え、コノヤロー!」


オレはチャッピーを抱え上げて、机の上に叩きつけた。


「ギャーッ、痛ぇ、背中が痛ぇ!」


フン、このバカが。


「よし、オレの勝ちだ!いくぞ~っ、1,2,3ダーっ!」


…あれ?皆ノッてこない。


背中を打ち付け、のたうち回るチャッピー。
大の字に倒れてる龍也。
そして1人虚しく勝ち名乗りを上げるオレ…


そろそろ先生が来る頃だ。
席に着かなきゃ…って、オレの席どこにあるんだよ?

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