41才の中学二年生(改訂版)

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今度はこっちから仕掛けてやる!

銭湯に行けばいいじゃん

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放課後、オレはいつものように部活をサボり、西日のさす教室で一人、優季を待っていた。

優季はソフトボール部に所属、ポジションはサード。

優季に野球を教えたのは、何を隠そうオレだ。

幼稚園の頃、友達と近所の公園で、ゴムボールにグラブとプラステック製のバットを持って、野球をしていたのを、優季が遠くのベンチで座りながら、見ていた。

そして【私も打ちたい】と言い出したのがきっかけだ。


オレはバットの持ち方やスイング、キャッチボールの時は、相手の胸元目掛けて投げる事等を教えた。

小学生になると、オレは少年野球チームに入った。

優季も入りたかったらしいが、女子は入れないという事に加え、優季の母親が猛反対し、チームに入れなかった。

だが近所に住むオレたちは、練習が無い日は優季に素振りやキャッチボール、ノックをした。

そのせいか、優季はメキメキと上達した。

優季がサードのポジションにこだわるのも、オレの影響らしい。

オレはチームではサードを守り、打順は5番だった。

自分で言うのも何だが、チーム内では上手な方であった。

そのオレから教わるから、どうしても守備的な教え方は、サードの動きになってしまう。

やがて高学年になると、身体の成長により、互いに意識し始めた。

この辺りから、優季とは距離を置き始めた。

その時期、オレは試合中に、デコボコのグランドでサードゴロを捕球しようとした際、ボールがイレギュラーし、右目を直撃。

それが原因で視力が低下し、オレは野球を止め、中学に上がった時、野球とは関わりを持たないよう、サッカー部に入部した。

逆に優季は、中学でソフトボール部に入部すると頭角を現し、あっという間にサードのポジションを獲った。




もし、あのまま野球を続けていたら、どうなっていたのだろうか?

大人になっても、そんな夢を見る事が多かった。


教室の時計に目をやると、5時を回っていた。

そろそろ優季が、教室に戻ってくる時間だ。

机の上に足を放り出し、優季が来るのを待っていた。

教室のドアが開いて、優季が入ってきた。
開口一番、
「さっちゃん態度悪すぎ!偉そうに、足なんか放り出して!」

早速、小言を言われた。

「誰もいないから、いいんだよ。それよか、お前に話があって残ってたんだよ」

優季は首筋が汗ばんでいた。

初夏という事もあり、ちょっとの運動で、汗が毛穴から吹き出る程のジメっとした、湿気の多い時期だ。

「なぁに、待ってたのって?」

怪訝そうな顔でバッグの中を整理して、帰り支度をしていた。

「宇棚の事なんだけど。アイツ、何か変じゃないか?何から何まで異様というか、挙動不審っぽくないか?」

オレがもし警官なら、有無を言わさず職務質問をするだろう。

「別に。ちょっと物覚え悪いかなって思うけど、真面目な方よ、誰かと違って」

誰かと違ってねぇ…そりゃ、オレの事じゃん!

「誰かって、オレの事だろうが。まぁいいや。たまには一緒に帰ろうぜ」

バッグを手にし、一緒に教室を出た。

帰り道、オレと優季は色んな話をした。

どこでメガネの話題を出そうか、伺っていた。

「さっちゃん、宇棚くんと何かあるの?」

不意に優季が聞いてきた。

「アイツがメガネ外したところを見てみたいんだよ。あいつ何があっても、絶対にメガネを外さないからな」

あのメガネをどうやったら外せるのか、その事で頭がいっぱいだった。

「それがどうしたの?メガネ外そうが外さないが、さっちゃんに関係あるの?」

そりゃ、ごもっともだ。でも、ホントの事を言えないし…

何て言えば、いいんだろうか?

「いや、アイツどっかで見かけた事あるんだよ。多分メガネを外せば分かると思うんだけど、なかなか外さないから、お前がアイツにメガネ外してみて、って言ってくれないだろうか?」

メガネを外す、大義名分が欲しいだけなんだが。

「私が言うの?直接宇棚くんに言えばいいじゃん」

「オレも、何度かメガネ外してくれって頼んだけど、絶対に外さないんだよ。その点優季だと、アイツはホイホイと外すだろうから」

茶坊主は優季の顔眺めて、ニターっとして気がありそうな感じがするから、頼めばすぐに外してくれるに違いない。

「何で私だと、簡単に外すの?」

「そりゃ、お前…アイツは、お前の事好きだと思ってるぞ」

「ゲーッ、マジ?」

さすがの優季も、一瞬嫌な表情をした。


夕暮れ時、蒸し暑い通学路を歩きながら、どうにかしてメガネを外してくれるよう、優季に頼んだ。

「頼む!一回だけでいいんだ。何なら、ここで土下座してもいいから!」

オレはアスファルトにおでこを擦り付け、土下座した。

「ちょっと!止めてよ!恥ずかしいじゃない!」

優季はオロオロしている。

「頼む優季!メガネ外すように言ってくれ!そしたら、何でも言うこと聞くから!」

土下座のまま、再度頼んだ。

優季は立ち止まって、どうしていいか解らない様子だ。

「さっちゃんさぁ…それなら一緒に銭湯に行こう、とか言ってみれば?さすがにお風呂に入る時ぐらいは、メガネ外すでしよ?」

あっ、そうか!銭湯か!

「何だ、そうか!あぁ、土下座して損した!よし、アイツを銭湯に誘おう!」

その手があった!何で気づかなかったんだ、オレは!

「何よ、損したって?」

優季はポカーンとしている。

「んじゃ、そういうワケだ!またな~っ!」

家まで走って帰った。

こうなりゃ、優季には用は無い!

要は、アイツと銭湯に行けばいいだけの事だ!


…それにしても、身も心も中2になりつつある。
実年齢が41才だという事を忘れていた…
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