The Baseball 主砲の一振り 続編1

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オープン戦

賞金を懸けよう

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スポーツニュースのゲストに、名古屋99ersの監督に就任したナダウ・ヤマオカこと宇棚珍太郎が出演した。



ヤマオカ監督はビシッとダークブラウンのスリーピースのスーツを着て、にこやかな表情を浮かべている。


「さて、監督。今年から愛媛ブラックスは名古屋に本拠地を移して、名古屋99ersというチーム名に変わったわけですが、その辺の意気込み等をお聞きしたいのですが?」

キャスターが質問をした。


「そうですね…私は静岡ピストルズというチームの監督を退いてから、かれこれ20年以上経ってますかな。
ご覧の通り、私はすっかり老いぼれて隠居生活をしていたんですが、ブラックスのオーナーから是非とも監督をやって欲しいと言われましてね…
隠居生活って言っても、ただプラプラしてるだけだし、やってもいいかなと思い、監督を引き受けました」



「なる程、そうですか。
でも、監督は宇棚珍太郎という本名があるのに、何故ナダウ・ヤマオカの名前を使うんでしょうか?」


誰もが疑問に思う。


「私はかつて、メジャーのチームでベンチコーチ…日本で言うところのヘッドコーチをしていました。
私はアメリカに渡った際、宇棚珍太郎という名前を捨てたのです。
ナダウ・ヤマオカとして、マイナーリーグのコーチを経て、メジャーに上がったワケです。
宇棚珍太郎は、埼玉ギャランドゥが消滅した時点で消えたのです」


※埼玉ギャランドゥとは、かつて埼玉県に本拠地を構えた球団。


珍太郎はチームの主砲として活躍し、引退後は監督に就任したが、息子でチームの主砲ひろしが著しく劣化したと同時に成績が下降。

堪りかねた珍太郎が、試合後にひろしをバックドロップでKO。

以降珍太郎は姿を消し、ひろしは引退。

ギャランドゥは経営悪化に追い込まれ、消滅した。



「では、ヤマオカ監督。
監督に就任したと同時に、随分と思い切った補強をしましたね?
先ずは千葉ヤンキースからFA宣言した、キャッチャーの外崎選手を獲得して、札幌ウォーリアーズからは左のエースとして成長した那須川選手を、主力選手だった足達選手と若手選手を放出してトレードで獲得。

そして一番驚いたのは、アポロリーグを優勝に導いてMVPに輝いた、琉球マシンガンズの比嘉選手の獲得です。

かつて、静岡ピストルズの監督をしていた頃も、補強には積極的でしたよね?」


ヤマオカはニヤッと笑い、饒舌になった。


「私は監督をやるからには、リーグ優勝、そして日本一を目指して選手をどう起用するか。
その為には、チームのカラーに合った選手と、そうじゃない選手がいます。
今言った3人は、私が目指すチームに於いて、是が非でも欲しいと思った選手なんです。
しかし、一軍には枠がある。
そうなると、申し訳ないが構想から外れてしまう選手がいるわけです。
やはり、やるからには勝たなきゃダメなんです。
勝つ為にはどうすればよいのか?
戦力を補強して整えるのが、監督としての務めだと思ってます」


「なる程、なる程。
今、監督が勝つためにと仰いましたが、ブラックス…現在は名古屋99ersですが、去年優勝した武蔵野スカイウォーカーズと最下位を争っていたチームでした。
スカイウォーカーズが一気に躍進したのに対し、ブラックスは最下位…
今年こそは、という思いもあるでしょうけど?」


ヤマオカは

「ハッハッハッハ」

と高笑いした。


「勿論ですよ。スカイウォーカーズは…私が監督をしていたピストルズの前身ですし、今監督やコーチをしている連中は、当時の主力選手でした」


「かつての教え子というワケですね」


ヤマオカはウーンと腕を組み、首を傾げた。


「教え子かどうかは分かりませんが、彼らが選手で私が監督だったわけですし…
んー、彼らがどう思ってるのか分かりませんがね…
ただ、私は彼らの事を教え子という見方をしてませんけどね」


「でも、かつての選手達が今度はチームを率いて対戦する事になりますよね?
どうですか、その辺の気持ちというか、意気込みは?」


「試合が始まれば、そんな事は一切関係ありません。
チームを率いる長として、どのような戦術を用いて勝つか。
その事だけですよ、向こうも同じだと思いますよ」


「そうですか…
でも、ファンはかつての監督と選手が敵味方に別れて戦うとなれば、期待も大きくなりますよね」


「ハッハッハッハ…それならば、スカイウォーカーズとの対戦はより一層盛り上げる為に、何か一興を講じなければなりませんな」

何やら秘策があるみたいだ。


「ほぅ、一興ですか?
具体的には、どんな事を…」


「そうですなぁ」


しばし考え込む。


「こういうのはどうでしょう?
99ers対スカイウォーカーズの一戦は、賞金を懸けた試合なんて面白いんじゃないですかね」


「賞金…ですか?」


ヤマオカは大きく頷いた。


「我々はプロです。
プロは金を稼がなきゃならない。
だったら、賞金を懸けた試合をすれば、選手達も必死になってプレーするし、ファンもそんな試合を望んでるはずです。
確かにチームによっては、金一封といった物を用意しますが、私が提案するのは、試合の観客動員によって差はあるものの、だいたい1試合でプロ野球球団は1億円から2億円の売り上げをあげる。
その売り上げの一部を賞金に回して、勝ったチームに分配するという案です。
ウチはそのつもりですが、スカイウォーカーズさんがこの案を飲んでくれれば、ドル箱のカードとなって大いに盛り上がると思うんですがね」


賞金マッチ…


ヤマオカは早速、スカイウォーカーズを牽制した。
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