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1984年、中3

もう、行きたくない

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つまらねえ…くだらねえ…めんどくせえ…

口を開けば、こんな事ばかり言ってた。

中学を卒業してまだ数週間しか経ってないのに、もう随分前に感じる。

中学の頃は早く卒業して、薔薇色の高校生活になると思っていたのに、いざ蓋を開けてみると、中学の頃が一番楽しかったと後悔する。

あの時もう少し勉強していれば、もう少し真面目に授業を受けていれば、とタラレバな事ばかりを考えていた。

僕は席に座ると、ひたすら寝て過ごした。

入学した3日目に、担任の教師がこんな事を言った。

「ウチの学校は、就職する人と大学に進学する人の割合は半々で、今年卒業した生徒で、学年トップのヤツが行った大学はN大学」

愕然とした…

学年トップのヤツが入った大学が、N大学だって?

申し訳ないが、当時のN大学は三流にも値しないレベルだった。

六大学や国立大に進学なんて夢のまた夢。

この時点で、ヤル気を無くした連中も何人か居た。

しかもこのクラスは、併願で入学したのは、僕を含めて3人しかいなかった。

後は単願で入学したヤツラで、偏差値にかなりの差があった。

入学した時点で、僕を含めた併願入学のヤツは既にトップクラスの学力だった。

中3の1学期みたいな状況で、何もしないで既にトップクラスの学力を持っていた。


バカバカしい!こんなヤツラに学力合わせなきゃならないのかよっ!

ってな感じで、クラスのヤツらを見下ろしていた。

あの時みたいに。

他の高校に編入する意欲すら失せた。

ただでさえヤル気が無いのに、これ以上ヤル気を削いでどうするんだ?と。

僕は入学して1週間も経たないうちに、授業を抜け出し、駅前のゲーセンで暇をもて余した。

最後まで授業を受ける気なんて無い。

昼に食堂で飯を食ったら、後は帰るだけだ。

5時限目だ6時限目だなんて、受けてられっか!

僕は校舎を出て、駅に向かった。

S学院の最寄り駅は、都内で有数の繁華街。

通学で通る、猥雑で危険な雰囲気が漂う細い路地を歩き、ゲーセンに入る。

小銭を入れ、咥えタバコでシューティングゲームや格闘ゲームをやる。

(空しいな…オレには何の楽しみも無い。あんな学校、辞めて働こうかな)

いつも胸の中のモヤモヤが取れずに、スッキリとしない日々を送っていた。


こんな生活を続けていたせいか、クラスの誰とも会話をしてない。

同じ中学からS学院に行ったのは、僕を含め3人で、普通科に入学したのは僕だけ。


当然の如く、クラスでは話をする相手もおらず、僕は寝てるかウォークマンで音楽を聴くか、マンガを読んでるぐらい。

自分から話し掛けるなんて事はしなかった。

僕は上から目線で、連中に接していたから…

学力ではオレの方が上だ!

オレはお前らに合わせてやってるんだ、と言わんばかりに。

よくあんな態度をとってケンカにならなかったなと思う程、僕は傲慢な生徒だった。

多分ヤツラはヤツラで、僕を相手にしなかったのかもしれない。

僕にとってはその方が良かった。

1人の方が気ままで好き勝手に出来た。

だがこんな事ばかり続けていた為、ウチに連絡がきて、僕が授業を抜け出しているのがバレてしまった。

「貴久、何で学校サボったりするの!先生から連絡きて、何日も続けて授業抜け出してるって言うじゃない?何があったの一体?」

オフクロは、僕がイジメに遭ってると思ったらしい。

「行きたくねえよ、あんな学校」

「何で?何かイヤな事でもあったの?」

「つまんねえんだよ、あの学校!辞めてぇんだよオレは」

「アンタ、入学するのにいくらかかってると思ってるの!バカな事言わないで、明日からちゃんと真面目に授業受けなさい!」

「オレさぁ、他の高校行きたいんだよ」

「えっ?何言い出すのアンタは!あの学校の何が嫌だって言うの?」

「全部だよ!何から何まで、全部イヤなんだよ!」

「じゃ、どうしたいの!」

「編入試験受けて都立校に入り直す」

「…」

「あの学校じゃ、いくら頑張ってもろくな大学に入れないんだよ!だったら、今からでも少しはいい学校に入っておけば、まともな大学に入れるかも知れないじゃん!」

こんなのは口から出任せに過ぎない。


「だって見ただろ、入学式の帰りに上級生が道端でタバコ吸ってるのを!あんな学校に居たら、オレまで腐っちまうよ!」

「…そんなに言うのなら、お父さんが帰った時に相談してみなさい!」

そう言うと、夕飯の支度を始めた。

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