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彼女が出来た

何~、痴漢だと?

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夏休みも10日程過ぎて、暦は8月に変わった。

僕は毎朝8時前に起き、8時半には電車に乗りバイト先に向かっている。

学校に行く反対方向の電車に乗るのだが、ラッシュアワー時で、いつも満員で揉みくちゃにされながら、乗り換えの駅までこの状態だ。

電車通学がいいなんて思ってた僕は、こんな事を毎日続けながら会社や学校に通ってる人は偉いもんだ…

と妙に感心していたりして…

「あれ小野っち、どこ行くの?」

ホームで声を掛けてきたのは波多野だった。

(ゲッ!こんな時に波多野に会うのかよ…)

僕は波多野に告白してフラれて以来、連絡はしてない。

そりゃそうだ。

フラれた相手に連絡するなんて、マヌケな事はしたくない。

しかもこんなラッシュアワー時に、よりによって波多野に会うのかよ…

「オレ夏休み期間はバイトしてっから」

素っ気なく答えた。

まぁ、恥ずかしいってのもあるんだけどね。

「バイト?そうなんだ。アタシは学校に行かなきゃ」

「だって、学校行くのにバスで通ってんじゃん?」

ちょっと見ない間に随分と大人っぽくなったような…気のせいかな?

「うん…そうなんだけど、最近バスより電車の方が早いってのが解ったから」

「はぁ…」

しばらくして電車が来た。
今日も満員か…座れないなこれは。

ドアが開き電車に乗り込む。

既に満員の状態なのに、僕らが乗り込むから、更にギューギュー詰めだ!

「うわっ、動けねぇ!」

「アタシも身動きとれない…」

僕らは身体を密着させ、不自然な体勢のまま電車は動き出した。

ドラマとかでよく見る満員電車のシーンてあるでしょ?

あんな感じで、直立不動で立ってられない!

かなり不自然な体勢で、しかも四方から押し潰されるような状態だから、まともに動けやしない…

「小野っち…あんま押さないで…苦しい…」

「オレ身動きとれん…しかも変な体勢だし…」

ただでさえ茹だるような暑さなのに、満員電車の中は密着している分、余計に暑い。


こんな時に限って、車内のクーラーは微弱に設定してあったりする。

満員電車内のストレスってかなり凄いからね。

「小野っち、変なとこ当たってるょ…」

イヤイヤ、どこに何が当たってるかなんて分からないし全く動けない…

これは不可抗力だから勘弁してくれ!

…って、待てよ…

僕は波多野は人を間に挟んだ場所にいるから、触れる距離じゃないぞ?

「おい、オレ触ってねぇぞ…」

小声というより、ギューギューに押し潰された苦しい声で、波多野の方に顔を向けた。

「違う…誰か、アタシのお尻触ってる…」

顔を赤らめ呟く。

(何っ、痴漢?いや待てよ、この状況だから触れてしまうのは仕方ないだろ)

その瞬間、電車がガタンと揺れて中の乗客達もガクンと動く。

おっと、揺れる!ってな感じで。

僕はその揺れの隙に、瞬時に波多野の背後へ回った。

「小野っち…助けてょ…誰か触ってるょ…」

泣きそうな声で助けを求めた。

誰だ、波多野のケツ触ってんのは?

オレにも触らせろ!いや…けしからん!

首を下にして見たが、波多野に触ってるのが、誰の手なんだか解りゃしねぇ!

何せ、これだけギューギュー詰めだと見分けがつかないし、身体を動かすのさえ困難だ。

「おい…一旦次の駅で降りるぞ…」


波多野の肩越しから耳打ちし、次の駅に着いた。

「あ、すいません降ります!ほら降りるぞ!」

目的地には程遠い駅だが、これ以上あの中にはいられない。

「あぁ~苦しかったぁっ!酸欠になるかと思った!」

波多野も疲れきった表情を浮かべ、俯いたままだ。

「あぁ…何なんだ、このアホみたいな混み様は…」

いつもはそこまで混んでないのに、ダイヤの乱れか何かなのか?

次の電車を待っても間に合うのだが、波多野の顔を見て

(こりゃ、学校の最寄り駅まで送るしかないかな)

と思った。

「学校間に合うのか?」

「うん…」

「じゃ、次の電車に乗って行こう」

「でも小野っち、バイト大丈夫なの?」

あんな満員の中でケツ触られたんじゃ、仕方ないよな…

オレが触りたいくらいだ!

空を見上げた。

眩しく、そして突き刺すような紫外線だ。

UVカットのグラサンが必要だな…

「なんか、もう行くまでに疲れた!これじゃ仕事になんねえや…あの中くそ暑いしさ…だから学校まで送ってくよ」

「じゃあ…アタシも今日は行くの止そうかな」

「だって、行かなきゃなんないだろ?」

「いや、別に大した用事じゃないから…ただ図書室で、何人かと集まって宿題する約束だったから」

「なら、少し遅れたって大丈夫じゃん!行ってこいよ」

もうすぐ次の電車が到着する。

「ううん、何かアタシも疲れた…明日にする」

このままUターンするのか…仕方ない。

日陰の無いホームで強い日差しを浴び、汗を拭いながら反対側のホームへ向かおうとした。

その前にバイト先には連絡しないと。

しかし、駅構内には公衆電話が無い…
一旦降りるか、ここで…

「オレ、ちょっとバイト先に電話してくる」

改札を出て反対側の通りに電話ボックスがあった。

道路を渡って、電話ボックスの中に入る。

「あ、もしもし小野です。

ハイ、お早うございます。

あの今日ちょっと学校に行かなきゃならなくなったので…

ハイ、すいません。

代わりに次の休みの日に変えてもらう事って大丈夫ですか?

ええ、はい。

すいません、大丈夫ですか?

じゃあその日はバイトに行きますので…はい、それじゃ失礼します」

暑ぃな、電話ボックスの中は!
ほんの少し入っただけで、背中から汗が滝のように流れだした。

「小野っちありがとうね…」

僕にハンカチを渡した。

「見てくれよ、この汗!ぁ、ありがと。これ洗って返すゎ」

波多野からハンカチを受け取り、額の汗を拭った。

「でもいいのか、ホントに行かなくて?」

「うん、アタシも暑い!ねぇ、どっか涼しいとこに入ろうよ!」

波多野も微かに額から汗を滲ませている。

なるべく日陰を歩きながら、駅から少し離れた場所でファミレスを見つけた。

「あぁ、あそこに入ろう!」


「うん!」


入った瞬間、何とも言えない涼しさが身体中を包む。

あぁ~、涼しい!この瞬間が堪らなく好きなんだよなぁ!




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