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彼女が出来た

アタシも彼氏いないし

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「何頼もうか?メシ食ってないからな…モーニングにすっかな」

「あ、そうだ!小野っち、アタシ今日お弁当持ってきたから食べる?」

波多野はバッグを開けて、バンダナに包んであった小さい弁当箱を取り出した。

女の子らしく、可愛いプリントがしてあった。

「随分小さい弁当箱だな。こんなんで足りるのかよ?」

「だって痩せないとさ」

女は何時の時代でも、ダイエットは必要不可欠なのだろうか。

そんなに痩せたって、しょうがないと思うんだけど。

「あ、すいません。アタシ烏龍茶と…小野っち何頼む?」

「えーと、じゃあアイスコーヒーで」

「かしまりました」

店員はオーダーを受けて奥の厨房へ入った。

「その、うーろん茶ってのは何だ?」

まだ烏龍茶というのが珍しい時代だった。

聞いたことはあるけど、どんなお茶なんだろうか?

特に興味は無かったけど。

「烏龍茶って中国のお茶で、カロリーが0だからたまに飲んだりしてるの」

波多野は決して太ってるワケじゃなく、普通の体型だと思う。

確かに中学の時は少しポッチャリ体型かな、と思ったが、高校に行ったら少し痩せていた。

その辺が少し大人っぽく見えたのかな…

痩せてるって感じでは無いが、無理して痩せるなんて、身体に良くないと思うんだが。

でも体型は気になるんだろう。

僕は当時170センチ、56キロでやや痩せてる体型だった。

「あぁ、でもこんなとこで弁当食ったらダメなんじゃないかな?持ち込みとかいけないんじゃなかったっけ?」

「わかんないように食べたらいいんじゃないの?オレ今腹減ってるし」

波多野は小さな弁当箱を開けた。

こりゃ余計腹減りそうな弁当だな!

これじゃ食った気しねぇぞ。

中はサラダと小さい卵焼きに、ご飯が少ししか入っていない。

「これ食って、足りるの?」

ホントに量の少ない弁当だった。
アンタ、減量中のボクサーかっ!

ってぐらい、小さくてカロリーの低い弁当だ。

「足りるよ!そんなにいっぱい食べないもん」

「で、これ誰が作ったの?」

「これ全部アタシが作ったんだよ。
いつもはお母さんが作ってくれるんだけど、夏休みだからアタシが朝起きて作ったのよ」

成る程、言われてみれば卵焼きの形が少し変だ。

料理なんてする機会も無いんだろな。

「じゃあわからないように、いただきます…っていうか波多野、トマトキライじゃなかったのかよ?」

サラダにはプチトマトがいくつか入っていた。

「そうそう!アタシさぁ、中学の時まともにトマト食べた事ないのよね~」

「だって、トマトが出る度にオレにくれてたじゃん」

波多野とは中学3年間クラスが一緒で、給食のメニューにトマトが出ると必ず僕にくれた。

「でさぁ、アタシ高校に入ってお弁当にトマト入ってた時があって。
今までは小野っちが食べてくれたけど、これからはそんな事出来ないじゃない?
だからトマト食べるようになったけど、トマトって美容にもいいんだってね。
今はトマト食べる事多くなったよ」

屈託のない笑顔を浮かべていた。

「お待たせしました、烏龍茶とアイスコーヒーです」

店員は冷たい飲み物を置いた。

「ごゆっくりどうぞ」

店員はコップに水を注いで回る。

「これか烏龍茶ってのは。
見た感じ紅茶に似てるな」

「小野っち飲んでみる?」

烏龍茶を僕の前に置いた。

テーブルにあったストローを烏龍茶に差し、飲んでみた。

「うげぇ~、何だこれ苦っ!」

初めて飲んだ烏龍茶は、苦くて渋くて美味しくない!

今もウーロン茶なんて飲む機会無いけど、この時の味を知ってるせいか、飲んだ事はない。

「そう?慣れたら美味しいわよ」

波多野はストローで烏龍茶を飲んでいた。

「いやー、オレは苦くてムリだ」

口の中が烏龍茶の渋みで充満してる。

口直しに弁当を食べた。

「あ、この卵焼き少し甘いな。波多野、卵焼きに砂糖入れるの?」

ウチで食べる卵焼きとは違い、砂糖が少し入って甘い。

不味くはないのだが、美味いとも言えない
何か味が薄すぎた。

味がどうのこうのと言える立場じゃないんだけど。

腹が減っていたという事もあって、あっという間に平らげた。

「これだけじゃ足りねえよ。他に何か頼めばよかったな」

「そんなにお腹空いてたの?だったら他に頼めばいいじゃない」

んー、どうしようか?

いいや、この弁当だけにしよう。


「ご馳走さまでした。ケッコー美味かったでした」

お礼を言って空の弁当箱を返した。

「いいえ、どういたしまして」

波多野は弁当箱をバッグに閉まった。

「あ、そうだ小野っち。優子とはどうなったの?」

いきなり杉下の話を振ってきた。

…ていう事は知らないのか、アイツに彼氏が出来た事を。

目の前のヤツに告白して断られて、挙げ句に自分の事を好きだって女からは、彼氏が出来たなんて、お笑いじゃないか。

「アイツ、彼氏が出来たらしいよ」

「ウソー!優子彼氏が出来たの?」

目をパチパチさせながら、驚いた様に声を上げた。

「うん。この前連絡があって、彼氏と一緒に海に行かないか?って言われた」

「で、小野っち一緒に行くの?」

「行くわけないだろっ!アイツの彼氏と一緒に海行って、何が楽しいっつーんだよ」

何で二人の間に入って行かなきゃならないんだ。

「だって優子、絶対小野っちの事好きだったんだよ」

「何言ってんだ、お前がそんな事言うから、オレはてっきり告白されるのかってアホみたいに期待してたんだぞ!
そしたらなんて事は無い、彼氏出来たからその報告!なんてぼざきやがって、あの女!」

「うゎ~小野っち可愛そう…」

「バカヤロー!オメーが、余計な事言うからだよ!」

「えーっ、アタシのせい?」

「少しでも期待したオレがあまりにもマヌケだった」

ホントにマヌケだった…今思い出しても情けない。

「そっかぁ、優子彼氏出来たんだ」

「で、お前は彼氏出来たのか?」

波多野は笑う。

「いるワケないでしょっ!アタシだって彼氏居たらいいなぁって思ってるけど、なかなか居ないわよ」

(いないのか…どうする?
波多野は杉下に遠慮してオレに告白を…
いや、また同じ事になったらイヤだ。
自殺モンだ!それだけは止めておこう)
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