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彼女が出来た

自分…絶叫系無理っす…

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後楽園遊園地に着いた。

「ヒーローショーやってたら、握手しに行っていい?」

「何でよっ、小野っち好きなの?」

「いや、特には…」

「アハハハっ!何乗ろうか?小野っち何がいい?」

いきなりジェットコースターは勘弁してくれよ!

「とりあえず見て回って、良さそうなものから乗ろうよ」

僕らは手を繋いだまま、中を回った。

あー、手を繋いで遊園地でデート…

オレ生きてて良かったなぁ。


外はこんなに暑いけど、今は幸せだから気にならない!

「ねぇ…アタシ、あのパラシュートのヤツ乗りたい」

パラシュート?

あぁ、確か地上数十メートルから落下するヤツか?

前にも言ったが、僕は絶叫系が苦手だ。


ジェットコースターはスピードあるし、パラシュートは垂直に落下する…

イヤだなぁ…さっきまでの幸せな気分は失せた。

とにかく苦手なのだ。


「いや…いいけど、ああいうの乗るんだったら、スカートじゃない方がいいんじゃないか?」

あんな落下する乗り物だと、スカートがブワッとめくれるんじゃないだろうか?

「あっ、そうだった!あれ?でも、スカートで乗ってる人多いよ?乗ろうよ小野っち」

イヤだ…乗りたくない…

でも恐くて乗れないなんて言ったら、ダサっ!って思われるだろうな…

「う、うん。じゃ乗ろうか…」

手に汗が滲む。

手を繋いでいると、汗が波多野の手に付いてしまう。

暑いっていうのもあるが、パラシュートに乗る恐怖感で、汗の量がハンパない。


並んで待ってる間が恐怖感を煽る。

そして僕らの番となった。


あぁ…ヤバいよ。

二人一組で乗り込む。

ゴンドラは動いた…

立ち乗りのゴンドラはグングン上昇して、後楽園の周りを一望できる。



だがそんな余裕はない…

心臓がバクバクいって、口から飛び出しそうな勢いだ。

ゴンドラが最上部まで上昇すると、一気に下降した…

「すごーいっ!これ楽しいっ!」

僕は全身に力を入れ、歯を食い縛り、下降の重力を必死で耐えた。

下降する時間は僅か数十秒だが、長く感じる。

心臓がバクバクで、上から見下ろす風景なんてよく解らないし、早く終わって欲しい


しかも、終わるまで目を閉じていた…情けない。

「あぁ、楽しかった!」

波多野は満足気で、次に乗るアトラクションを見て回った。

僕は全身に力を入れていたせいか、終わった途端、抜け殻の様にフラフラだ。


(もうイヤ…のんびりした乗り物だけ乗りたい…)


そんな僕の思いを無視するかのごとく、船が前後に激しく揺れるアトラクションを見て

「あれ、楽しそう!次、あれ乗らない?」

(アレ…さっきのパラシュートよりスピードあるんじゃないか?)

まだ心臓はバクバクしてる。

「どうしたの?」

「いや、何か喉乾いたなぁって」

「じゃ、あれ乗ったらどっかで休憩しようよ!」

イヤだとも言えず、アトラクションの列に並んだ。

(一体、何の罰ゲームなんだ?もう遊園地デートはいいや…オレの身体がもたない!)

自分で運転してスピードを出すのは好きだ。

しかし自分以外の操縦で、加速して重力が掛かり、風をモロに受けたりするのは今でも無理だ。

とは言え、カッコつけな15才の僕は、無理だから乗れないなんて恥ずかしくて言えない。

「何かイヤな予感がするなぁ…」

「えっ何で?楽しいじゃん。アタシこういうの大好き!」

僕らは船の形をした乗り物に入ると、係員が肩から落下防止装置バーを下ろし、肩と腹部をガッチリロックした。

アトラクションを楽しむには、この様な安全装置バーで身体をカバーするのが当たり前なのだが、安全装置を装着すると余計に恐怖感が増す。

ゴンドラは最初ゆっくりと上下に動く。

「これ、ワクワクするね」

(お前、それしか言わないのかっ!オレはもうダメだ…)

徐々に激しい振り子のようにスピードが増す。

「…」

安全装置をガシッと掴み、激しい上下の揺れを必死に歯を食いしばって堪えた。

(早く終われ!もう帰りたい…)

視線を下に落とし、全身を硬直しながら終わるのを待った。

外の様子に目をやる余裕なんて、全く無い!

この時間が長く感じる!

全身に力を入れ過ぎたせいか、汗が身体中から吹き出る。

(ようやく終わった…)

降りた瞬間、物凄い脱力感に襲われた。

もう、イヤ…絶叫系の乗り物なんて、嫌がらせとしか思えないっ!
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