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退学届け

つまんないから辞めま~す

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かなり眠いが、今日は何がなんでも学校に行かねば。

昨夜考えた末に書いた、退学届けを提出するつもりだ。

何か言われても、シカトすればいい。

空はちょうど良い秋晴れで、門出を祝ってくれるかのような、気持ちいい天気だった。

いつものように電車に乗り込む。

(あぁ、この電車に乗るのも最後だな…)

なんて事を感傷的に浸りながら、窓の景色を眺めていた。

…半年か、オレにしてはかなり長続きした方だな。

でも、もうさすがに限界だ。

あんな学校はさっさと辞めて新しい生活をスタートさせるんだ!

いつもなら満員の山手線も、これが最後だと思えばこの混み具合もいい思い出になるだろう、なんて事を考えていたらあっという間に駅に着いた。

この細く狭い風俗街を通るのもこれで最後だ…

次に来るときは、お客さんとしてここを歩こう!


僅か半年だったが、それなりに楽しい思い出だった。

明日からは、こんなゴミゴミした繁華街を通らなくていいんだ。

僕の心は晴れやかだった。

信号を渡り、校舎が見えてきた。


これが最後の通学だ、そして退学届けを叩きつけてさっさと帰ろう!

だが校門を目の前にして、疑問が頭をよぎった。

(あれ?待てよ…退学届けって、どこに渡せばいいんだろ?)

先生に直接渡せばいいんだろうか?

いや、それだとかなり面倒だ!

何で辞めるんだ?もう少し話し合おう、とか言って簡単に受け取ってくれないだろう…

では誰に渡せばいいんだ?

そういう事は全く考えてなかった…

とにかく退学届けを書くことしか頭の中に無かったから、誰に渡せばいいのかサッパリ分からん。

困ったな…いっそ教室まで行って、机の上に退学届けの封書を置いて帰ろうか、いや、待てよ…

っ!そうか、目の前に受付の事務員がいるじゃないか!

成る程、その人に渡せばいいんだな。

僕は入り口の階段を上り、正面にある受付の窓を開けると事務のオバサンに声を掛けた。

「あのー、すいません。えっと、退学届けってここに出せばいいんすかね?」

こちらを向いた事務のオバサンは

【えっ?】という表情をして固まっている。

「あの~、これ退学届け…あ、オレ普通科一年A組の小野貴久と言います。
まぁ、中にその内容が書いてあるんで、後で先生にでも渡してください」

「え、えぇ?退学届けって…ちょっと、それは…うーん…辞めるって事、この学校を?」

オバサンはかなり慌てた。

「あ…ここじゃ無いんですか、退学届け出すのは?」

さっさと退学届けを出して帰るつもりだった。

「いや、そうじゃなくて…ちょっと、待ってね…退学するって事は、何処か他の学校に移るとかそういう予定なの?」

はぁ?…何言ってんだこのオバサンは?

「いや、移るも何も…そこに書いてある通り、今日で退学します」

説明なんていらないだろう。

「えっと、何があったの?辞めるなんて言わないでもうちょっと頑張ってみたらどうかしら?
まだ1年生でしょ?せっかく親御さんが高い入学金払ってここに入ったんだから、卒業まで頑張ってみない?」

オバサンは諭すように言うが、そんなもんハナっから聞いちゃいない。

「あの、別に金がどうこうじゃなく、この学校で何も学ぶ事は無いから辞めるんです。他に理由はありません」

そう、辞めるのに理由なんかいらない。

自分に合わないから辞める!

他に移ろうがどうしようが僕の勝手だ。

「とにかく退学届けここに出しますから、後はヨロシクお願いします」

僕は校門を出た。

これから登校してくる連中とすれ違いに駅へと向かった。

(よしっ!これでようやく辞めることが出来たぞ!
こんなダサい学ランを着なくて済むんだ)

学ランを脱ぎ、繁華街を通った。

    
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