Baseball Freak 主砲の一振り 7

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梅雨入り 6月後半

Another Genius

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結城を打ち取った東山は、5番梶、6番マクラーレンに対し、フォークは投げずにカーブで凡打に打ち取り、三者凡退で2回の裏を終了。


その後、両チーム共に目立った動きは無く、回は中盤から終盤へ。


ブレーブス先発山本は、被安打2 無四球 8奪三振。

対する東山は被安打1  2四球 2奪三振で両者とも無得点に抑える好投。


7回の攻防が終了し、8回の表Glanzの攻撃は2番クロフォードから。


マウンド上の山本は100球を超えたが、まだまだ球威は十分。


得意のファントムスプリットのキレは初回と変わらず、Glanz打線を沈黙させる。


このままじゃダメだと思ったのか、クロフォードは何としても塁に出る為、3球目にセーフティバントを敢行。


打球は上手く勢いを殺し、一塁線に転がった。


虚をつかれた結城は一瞬出遅れ、クロフォードは俊足を飛ばし一塁へ。


カバーに入った山本が一塁ベースを踏むが、クロフォードの足が速くセーフ。


これでノーアウト一塁となり、続くバッターは3番白石。



ここまで2三振と振るわないが、鬼束、羽田と肩を並べる程の右バッターであり、彼もまた天才と称される選手だ。


2つの三振を奪った山本は、この打席も三振で退け、白石から初の3三振を奪う目標を掲げた。


第1打席はカーブ、第2打席はストレートで見逃しの三振で抑えたが、まだファントムスプリットは1球も投げてない。


この打席はファントムスプリットで3つ目の三振を狙う。


「私わかります(^ ^)」


「ハイハイ、今度は何すか?」


いつも無視しようと思うのだが、何故か毎回返事をしてしまう。


「白石選手の狙いはファントムスプリットですち!」


「いくら白石でも打てっこねぇだろ!」


ファントムスプリットはおよそ50cm程沈む為に、バットに当てる事さえ難しい。


しかも、150前後の速さで落ちるので、視界から消える為にファントムスプリットと呼ばれる。


それを狙っているとは、天才白石でも不可能に近い。


「私わかります(^^)」


「お前も天才だから分かるんだろ。で、何が分かるんだよ?」


「白石選手は、唐澤選手や結城選手と違うタイプの天才ですち!」


同じ天才でもタイプが異なるという。


「あの二人は球種が浮かぶ天才で、櫻井監督と同じタイプですち」


「ヒロトと同じタイプってのは分かるが…じゃあ、白石はどういうタイプなんだ?」



「白石選手は球種が浮かぶ事は無いですが、来た球を打つというシンプルなタイプですち!」


要は、どの球種でも上手く対応出来るバッティングだと言う。


「来た球を打つってのは、バッターなら誰でも出来るんじゃないのか?」


「普通のバッターならば、球種やコースをある程度予測して打ちますち!
でも、来た球を打つだけとなったら、殆どのバッターは今より打率ははるかに下がってしまいますち!」


どんなバッターでも多少は配球を読んで打つが、白石は配球など読まず、来た球を手元で捕えるスタイルだ。


これで高打率をキープ出来るのだから、天才と言われる所以だ。


「ボールを予測して軌道で捕える天才と、来た球を点で捕える天才。
この二つに分類されますち!」


日に日にひろしの解説が良くなってきている。


やはりこの男も天才なのか。




(初球から投げてやる)


山本自らサインを出した。



キャッチャーの武内は、今日2三振を喫している白石という事もあって、山本のサインに従った。


打席の白石を見る限り、打ちそうな雰囲気は伝わらない。


多分、山本には相性が悪いんだろう、そう感じた。


そして山本が初球を投げた。


148 km/hのファントムスプリットがインコース低めに大きく沈んだ。


しかし、ここで白石が反応する。


鋭く落ちたボールに対し、片膝を付きながら真芯で捕え、アッパースイングで弾き返した。


「打ち返したっ!」


「バカな、あの体勢で打つのかよ!」


「信じらんない!」


結城、唐澤、櫻井の三人が同時に驚き、思わず声を上げた。


打球はグーンとレフトへ上がり、ポール際まで伸びる。


「こりゃ、入ったろ!」


「んだな(^^)」


そのまま勢いを失わず、ポール際のスタンドに入った。



「こんな事ってあるのかよ?次元が違いすぎる…」


セカンドを守る鬼束が打球の行方を見ながら驚いた表情をしている。


ついに均衡が破れた。


白石の第12号ツーランでGlanzが2点を先制した。


無表情でベースを回る白石を、結城や鬼束が唖然とした表情で見つめる。



「とてもじゃないが、ボクにはあんなマネは出来ない」

と結城が呟けば、


「あんな崩れた体勢でスタンドに運ぶとは…」

と唐澤も呆気に取られる。


「…あの打ち方は宇棚ひろしそのものだ…」


ベンチの櫻井ですら絶句する。


以前、ひろしは自分のバッティングに例え、白石と徳川のバッティングについて説明した。


徳川は左打席で広角に打ち分けるタイプで、ひろしの左打席のバッティングそのものと評し、白石は右打席でレフト方向へ打ち返すプルヒッタータイプで、ひろしの右打席でのバッティングそのものと評した。


しかも、来た球を素直に打ち返すスタイルはひろしのバッティングと同じで、点で捕えるところも全く同じである。


結城や唐澤の様なタイプは、白石の様に点で捕えるバッティングは出来ない。


そこをひろしが指摘した。



このホームランが決勝点となり、Glanzは8回の裏に梅澤、最終回には守護神ジェイクを投入し、完封リレーでGlanzが勝利した。



東山はこれで5勝目をマーク。
ジェイクはリーグトップの13セーブを記録した。
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