Baseball Freak 主砲の一振り 7

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オールスターゲーム

先取点

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1回の裏、ネプリーグ選抜チームはトップバッターの白石。

初回からリーグを代表する投打の2人が対決とあって、さいたま S Villageの観客は大盛り上がり。

アポロリーグ1位の防御率を誇る尾崎に対し、ネプリーグリーグ2位の打率とリーグトップの安打数を誇る白石。


尾崎の持ち味は、MAX158 km/hのストレートに加え、スライダー、カッター、ナックルカーブと、落差十分のフォークで1試合平均9.31の奪三振率という、天海昴をも凌ぐ逸材。


片や白石は、三振を1つ喫するまでにかかる打席数を示す「PA/K」は19.23と歴代トップのバッター。

それだけバットコントロールに優れており、三振を奪うのは至難の技とも言える。


まるでほこ×たて対決のような2人だが、三振を獲る気マンマンな尾崎に対して、白石はそんな事どうでもいいという雰囲気を醸し出している。


キャッチャーの矢幡がサインを出すが、尾崎は頻りに首を振る。


(何や、アイツ…注目の対決なのに、ストレートのサインに首を振るとは)


矢幡はゲームを盛り上げるために初球からストレートのサインを出すが、尾崎は頑なに拒む。


オールスターだからって、初っ端から分かりきったストレートを投げたくない。


三振を奪うには、ペナントレースさながらのピッチングをしなければ白石を抑えることは不可能と判断した。


(ストレートがダメなら、これはどうだ?)


違うサインを出した。


今度は頷き、ゆったりとしたモーションから第1球を投げた。


「…」


白石は無表情で見送る。


ボールはスピンがかかり、インコースベルトラインから大きく縦に変化してアウトローギリギリに決まった。


「ストライクワンっ!」

129 km/hのナックルカーブだが、鋭い変化で打っても内野ゴロになる可能性が高い。


「メッチャ変化するなぁ」


打席に立つとその変化がより際立つ。


「いくらアンタでも、今の球をヒットするのは難しいみたいやな」


「あんな球打てるのは矢幡さんぐらいですよ」


「お世辞言っても、何も出んで」


「お世辞じゃないすよ…」


白石も矢幡という選手を尊敬している。

リーダーシップはもとより、野球脳の高さと遠くへ飛ばすパワーは白石の憧れでもあった。


「とにかく、2人ともこのゲームを盛り上げてや。オレの入る隙があらへんからの」


「オレに盛り上げる力はないですって」


「今や球界を代表する白石拓海がそない弱気でどうすんねん!
アンタが今の球界を引っ張っていかな!」


「ハ、ハァ…」


憧れの選手に最大限の賛辞を送られ、恐縮するばかりだ。






それから、白石はフルカウントまで粘り、5球目のフォークに手を出しセンターフライに倒れた。


打ち取った尾崎に軍配が上がったが、ウイニングショットのフォークを捕らえて外野まで運ばれたのが不満だったらしく、険しい表情を浮かべる。


その後は2番仙道をライトフライ、3番結城をショートゴロに仕留めて初回を三者凡退に抑える。


オールスターとあって、両チーム共に目まぐるしい選手交代を行い、夢の対決に相応しい展開となるが、一向に先取点を取れず。



ゲームが動いたのは6回の表、アポロリーグは6番松井に代わって途中出場の山口Knightsの楠木から。


ネプチューンリーグのピッチャーはこの回からマーリンズのエース天海がマウンドに。


得意のバレットと呼ばれる高速ストレートでグイグイと押すピッチングで攻めたが、楠木が1,2の3!とタイミング良くバットを合わせると、打球は振り遅れながらライトへ高々と上がる。


ライトを守る仙道が懸命にバックするも、ボールは頭上を越え、スタンド前列に飛び込んだ。


「ウソやろっ!?あの打球がホームランやと!?」


マウンド上で天海が驚きの表情を浮かべる。


だが1番驚いているのは打った楠木だ。


「ホントに入ったの?」とライトスタンドを何度も確認しながらベースを回った。


ここで待望の先取点がアポロリーグに入った。


「あそこまで飛ばされるのはなぁ~…力が衰えたんとちゃうかなぁ」


球界を代表するエースと呼ばれた天海も今年で33歳。


球速は163 km/hと表示されたが、ボールの回転数は20代の頃と比較してやや下回っている。


若手の台頭もあり、ベテランに差し掛かってきた時期である。

そろそろ速球主体のピッチングからシフトチェンジする年齢なのかもしれない。
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