快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

sky-high

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顔を変えた過去

所詮人間は醜い欲望の塊

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【やっぱり、オレの読み通りだったか。ナツ、これで分かったろ、オレが狙われてるのが】

「ええ。恐ろしい事を考えていたのね、あの人…」

【心配すんな!オレはもう顔が変わった。後はオレの顔になったヤツが、犠牲になるだけだ】

「…ちょっと待って!じゃあ誰かが、身代わりに殺されるって事?」

【そうだ】

「…何で?その身代わりになる人は、何の罪もないのに?」

【…いや、ソイツもかなりの悪だ。何せ、オレの秘書だった女を殺したからな】

「…えっ?」

秘書とは、鴨志田の事だ。

鴨志田は交通事故でこの世を去った。

だが、鴨志田の乗った車は、少しずつブレーキオイルが漏れるよう細工しており、止まる事が出来ず、大型トラックと正面衝突して車は大破、鴨志田は即死だった。

この車に細工したのは、小島だ。

小島は車に詳しく、親が整備工場を経営していたせいか、幼い頃から車に携わり、整備士並みの技術を持っていた。

そんな小島に達也は、ギャンブルで身を持ち崩したのを逆手にとり、話を持ちかけた。
成功報酬は1000万。
ギャンブルに狂い、借金で首が回らなくなった小島にとって、その金は喉から手が出る程の金額だった。

罪の意識はあったものの、金の誘惑に負け、達也の言う通りに、細工を施した。

約束通り、小島は達也から1000万を手にし、借金返済に企てたが、それでも十分金が残っていた。

ギャンブル狂になった小島は、更にギャンブルにのめり込み、達也から受け取った金額全てを使い込み、また借金をした。

利息が膨れ上がり、夜逃げ同然で達也の下を訪ね、金を貸して欲しい、何でもやるから、とにかく金が必要だと頼ってきた。

ギャンブルに狂ったヤツを追い返す事が出来たのだが、達也は小島に捨て駒になってもらうべく、彼をしばらくの間匿った。

そして、お互いに顔を変えようと提案したのである。

当初は、それは出来ないと拒んだが、日に日に利息が増え、達也の住んでる場所も、いずれ突き止められるのは時間の問題だと、達也の言葉巧みに操られ、顔を変える決心をした。


帰国して、すぐにでも金を手にし、ギャンブルをやりたくてウズウズしていた。

結局小島も、金という魔力の前では醜く、汚いヤツに成り下がってしまった。


【まぁ、そんな経緯があって、オレはその秘書の仇を討つ為に、こうして顔を変えたんだよ】

「…そんな酷い事をしたのね、その相手は」

勿論、正直に話す筈がない。
だが、小島も犯罪に関わっているのは事実だ。

【これで全てが分かった。オレを消そうと計画してるヤツら、全員返り討ちにしてやる】

「…警察に動いてもらうとか出来ないの?こんな事の為に、人の命が無くなるなんて…」

【ナツ、コイツらは警察が敵うような相手じゃない。それが出来れば、最初っから警察に頼んでるさ…心配すんな、オレは死なない】

「…でも他の人の命が…いくら犯罪を犯してるとはいえ、目には目をって考えは良くない…」

【いいかナツ。そんな事が出来れば、ハナッから犯罪なんて起こらない。何で犯罪が起きるか?それは人間ってのは、この世で一番醜い生き物だからさ。綺麗事並べても、大金を目の前にした時、ものすごいいい女が手招きをしてる時、何がなんでも手に入れたい物が目の前にあった時、人間ってのは、皮一枚捲れば、ただの欲望の塊に過ぎないんだよ、分かるか?】

「それはそうだけど…」

【聖人君子なんて、この世にはいないんだ。誰もが俗物…オレもお前も、皆そうなんだ。だからこそ、犯罪が起きる。テメーの欲の為には、手段を選ばねえ薄汚ないヤツらが、オレを消そうとしてるんだ…ならば、こっちもそれなりの覚悟をしなけりゃならない】
    
達也の言う事は、自分の事をすり替えてるだけに過ぎない。
だが、人間は欲望というのがある限り、犯罪は減らない。

欲望をモチベーションにして、正しい方向へと努力して手に掴む者もいれば、例えどんなに汚い手を使ってでも、掴み取る者もいる。

達也は正に後者で、欲望の為なら、身内すら手にかける程の非情さを持つ。

「…とにかく、もうすぐで帰国するわよね?着いたら真っ先に、私の所に来て欲しいの」

【そのつもりだ。そしてしばらくの間、誰も知らない場所でゆっくりと暮らそう】

「うん、待ってるからね」


そして、帰国の日となった。
社内では、亮輔が警察に見せた鴨志田のメールの内容で、達也を重要参考人として出頭命令を下されていた。

ナツはこの情報をキャッチし、空港に着いた達也にいち早く伝えた。

(クソッ、亮輔のヤロー!とんでもねえ物持ってやがったのか!)

達也は小島に、これから用事があるから、ここで別れようと告げ、ナツの住んでいるアパートへ向かった。

何も知らずに、小島は金が自由に使える、これからはギャンブル三昧だと、ワクワクしながら会社へ向かった。

だが、小島は達也の計画によって嵌められ、警察で事情聴取され、弁護士によって釈放されたが、駅のホームで列車に轢かれ、無惨な最期を遂げた。

「ナツ、これで分かったろ?もしオレが顔を変えなかったら、オレが列車に轢かれて身体がバラバラになってたとこだ」

「…怖い。私、どうすればいいの?」

「まず手始めに、この件で大金を得たインチキ弁護士を殺る!」

「…えっ?マジで言ってるの?」

「あの鬼畜がいる限り、オレは遠くに逃げても、いずれ捕まる」

「…だって、その為に顔を変えたんでしょ?」

「ナツ、あの弁護士はただ者じゃない。後ろにはヤクザがいっぱいいる。
だが、弁護士を消す事も容易い。何せ、周りはヤクザだらけの場所に住んでるせいか、隙だらけだ」

「ホントに殺すの…?」

達也は頷いた。

「ナツ…これを殺ったら、オレたちは何処か遠い場所で暮らそう」

「…分かったわ…」

こうして二人は、弁護士の住む澱んだ地域へ向かった。
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