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レスリングマスター、そしてコマンドサンボ
MMA?やってみなけりゃわからない
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オレはどうやらキャッチレスリングというスタイルを勘違いしていたみたいだ。
練習が終わり、カーウィンの部屋でキャッチレスリングの歴史や現役だった頃の話をワインを飲み、葉巻を吹かしながらカーウィンは語った。
アンティークの骨董品やシャンデリア、現役時代のカーウィンの写真、トロフィーやヨーロッパチャンピオンだった頃のベルトがリビングの木目調の棚の上に飾ってあった。
ヨーロピアン調のブラウンのダイニングテーブルに猫脚の椅子に腰掛け、
窓からは古き良き時代を彷彿させるような街灯が灯され、日本に比べるとやや薄暗く、
住宅街のせいか、閑静な場所で月の明かりがハッキリと見える。
カーウィンの言うキャッチレスリングとは、フリースタイルのレスリングにサブミッション(関節技や締め技)が加わったスタイルだ。
その歴史は長く、ランカシャー地方で行われていた為、ランカシャーレスリングとも言われている。
オレが勘違いをしていたのはサブミッションの事だ。
サブミッションとは日本では関節技の事を意味するが、元々は相手を降伏させる、押さえつけるという意味らしい。
構えもオレのようなグレコローマンスタイルで腰を落とし前傾にするクラウチングスタイルではなく、あくまでも自然体な構えだ。
そしてレスリングの内容は関節技や締め技は勿論の事で、肝心のサブミッションでギブアップまたはピンフォールを奪う事に特化したスタイルらしい。
何がなんでも関節技でギブアップを奪うスタイルでは無いみたいだ。
カーウィンいわく、【フィジカルチェス】と言い、相手の何手先まで読んで相手の動きを封じ込める、それがキャッチレスリングの極意らしい。
オレはカーウィンとのスパーリングで、腕ひしぎ十字固めやアキレス腱固め等、ギブアップを奪う関節技に固執しすぎてカーウィンに動きを読まれ、フルネルソンやバックを取られ、動きを封じ込まれていた。
「ナオト、キャッチレスリングはチェスプレイヤーのように相手の先の先まで動きを読んでレスリングをしなきゃならない。
レスリングとはそれほど奥深い格闘術だ。だが今はそんなレスラーは誰一人いない。
見せかけだけの飛んだり跳ねたりする技や、ハードヒットな打撃に垂直に落とす技のオンパレードだ…いくらレスラーがタフとはいえ、あんな我慢比べのような大技だらけのレスリングはいただけない。
ナオト、お前は自分のフェイバリットホールドの重要さを理解するんだ」
カーウィンはレスリングの組み立て、間の取り方、そしてフェイバリットホールド、つまり必殺技をここぞという時に出すものだと説いた。
チェスのように相手の先の先まで読んで動く…
言うのは簡単だが、これはかなり難しい。
さすがキャッチレスリングのマスターと呼ばれるだけあってカーウィンの言葉には説得力がある。
ワインを飲みながらカーウィンは日本で試合をしていた頃を思いだし、目を閉じながら話を続けた。
「私は日本に何度も来日して色んなレスラーと闘った。
私が今まで一番だと思ったレスラーはヤマトだ」
カーウィンとカイザー大和の試合は今でも語り継がれる名勝負だった。
カーウィンは葉巻を吹かし、天井のシャンデリアを見ながらこんな事を言ってきた。
「実はあの試合、ヤマトがどれ程の実力があるか、私は(シュート)を仕掛けてみたんだよ。
だがヤマトはそれに動じず上手く切り返してきた。
あぁ、ヤマトはリアルプロレスラーなんだな、と思い、改めてヤマトの素晴らしさを実感したよ」
もう何十年前もの話だが、カーウィンがカイザー大和にシュートを仕掛けたとは知らなかった。
オレはその試合のビデオを何度も観たが、どの辺りでカーウィンが仕掛けてきたのかなんて見分けが出来なかった。
「あの試合は何度も観ました。
でもどの場面でシュートを仕掛けたのですか?」
カーウィンはニヤっと笑みを浮かべまたワインを口にした。
「ゴングが鳴ってどのくらい経過したのかは覚えてないが、私がフロントフェイスロックを仕掛けた時、彼は瞬時に切り返して私の腕を極めにきた。
あぁ成る程、彼の実力は本物だ、そう思い、後はお互いクリーンファイトに徹したよ…
私からシュートを仕掛けたのは後にも先にもヤマトだけだ」
オレはその試合を頭の中で思い出してみた。
そんな場面があっただろうか?
いくら思い出してもそんな場面は無かったような気がしたんだが…
「これは私とヤマトの二人にしか分からない事だよ。何せ一瞬の攻防だったからね。
他のレスラーだったらそのまま動けずにギブアップしてただろう」
カーウィンはアメリカを主戦上にしていた頃、何度もシュートを仕掛けてきたレスラーがいたが、全て返り討ちにしてやった程の実力者だ。
「見せかけの筋肉だけで相手にしたら全く相手にならない連中ばかりだった。
実は非公式で何人もの腕っぷしに自信があった連中がわたしに挑んできたが全てシュートで切り返して相手は大ケガをしたよ」
非公式とは日本で言う道場破りのような事だろう。
カーウィンの話を聞いてオレはキャッチレスリングにますますのめり込んでいった。
いつしか話は総合格闘技の事になり、オレはカーウィンに聞いてみた。
「もしカーウィンさんが現役の時に総合格闘技の大会があったら勝つ自信はありますか?」
ちょっと失礼な質問だが、カーウィンはしばらく考え込み、こう答えた。
「シュートには自信があるが、MMA(総合格闘技)とはスタイルが異なる。もし大会に出るとなったらそれなりの準備期間が必要になるだろう。
もちろんMMAスタイルに対応する為の期間だ。
ナオトは勝てるか?と聞いたがそれなりの準備期間でレスラーからMMAファイターになる為の特訓をすれば何とか勝てそうかもな」
オレはてっきり【プロレスラーは最強だ】と言うのかと思ったが、カーウィンはルールもスタイルも異なる闘い方故に練習方法も違ってくる、だからこそMMAファイターとして特訓をしなければプロレスラーとて勝てるワケがない、という事らしい。
さすがヨーロッパ最強と謳われた男だ。
ただカーウィンはこう付け加えた。
「勿論やるからにはベストを尽くして勝つよ」
総合格闘技の話をあまりしたがらないオールドレスラーが多い中、カーウィンは実に的を得た事を言う。
ここに来て良かった。
何事も準備期間が必要か…
練習が終わり、カーウィンの部屋でキャッチレスリングの歴史や現役だった頃の話をワインを飲み、葉巻を吹かしながらカーウィンは語った。
アンティークの骨董品やシャンデリア、現役時代のカーウィンの写真、トロフィーやヨーロッパチャンピオンだった頃のベルトがリビングの木目調の棚の上に飾ってあった。
ヨーロピアン調のブラウンのダイニングテーブルに猫脚の椅子に腰掛け、
窓からは古き良き時代を彷彿させるような街灯が灯され、日本に比べるとやや薄暗く、
住宅街のせいか、閑静な場所で月の明かりがハッキリと見える。
カーウィンの言うキャッチレスリングとは、フリースタイルのレスリングにサブミッション(関節技や締め技)が加わったスタイルだ。
その歴史は長く、ランカシャー地方で行われていた為、ランカシャーレスリングとも言われている。
オレが勘違いをしていたのはサブミッションの事だ。
サブミッションとは日本では関節技の事を意味するが、元々は相手を降伏させる、押さえつけるという意味らしい。
構えもオレのようなグレコローマンスタイルで腰を落とし前傾にするクラウチングスタイルではなく、あくまでも自然体な構えだ。
そしてレスリングの内容は関節技や締め技は勿論の事で、肝心のサブミッションでギブアップまたはピンフォールを奪う事に特化したスタイルらしい。
何がなんでも関節技でギブアップを奪うスタイルでは無いみたいだ。
カーウィンいわく、【フィジカルチェス】と言い、相手の何手先まで読んで相手の動きを封じ込める、それがキャッチレスリングの極意らしい。
オレはカーウィンとのスパーリングで、腕ひしぎ十字固めやアキレス腱固め等、ギブアップを奪う関節技に固執しすぎてカーウィンに動きを読まれ、フルネルソンやバックを取られ、動きを封じ込まれていた。
「ナオト、キャッチレスリングはチェスプレイヤーのように相手の先の先まで動きを読んでレスリングをしなきゃならない。
レスリングとはそれほど奥深い格闘術だ。だが今はそんなレスラーは誰一人いない。
見せかけだけの飛んだり跳ねたりする技や、ハードヒットな打撃に垂直に落とす技のオンパレードだ…いくらレスラーがタフとはいえ、あんな我慢比べのような大技だらけのレスリングはいただけない。
ナオト、お前は自分のフェイバリットホールドの重要さを理解するんだ」
カーウィンはレスリングの組み立て、間の取り方、そしてフェイバリットホールド、つまり必殺技をここぞという時に出すものだと説いた。
チェスのように相手の先の先まで読んで動く…
言うのは簡単だが、これはかなり難しい。
さすがキャッチレスリングのマスターと呼ばれるだけあってカーウィンの言葉には説得力がある。
ワインを飲みながらカーウィンは日本で試合をしていた頃を思いだし、目を閉じながら話を続けた。
「私は日本に何度も来日して色んなレスラーと闘った。
私が今まで一番だと思ったレスラーはヤマトだ」
カーウィンとカイザー大和の試合は今でも語り継がれる名勝負だった。
カーウィンは葉巻を吹かし、天井のシャンデリアを見ながらこんな事を言ってきた。
「実はあの試合、ヤマトがどれ程の実力があるか、私は(シュート)を仕掛けてみたんだよ。
だがヤマトはそれに動じず上手く切り返してきた。
あぁ、ヤマトはリアルプロレスラーなんだな、と思い、改めてヤマトの素晴らしさを実感したよ」
もう何十年前もの話だが、カーウィンがカイザー大和にシュートを仕掛けたとは知らなかった。
オレはその試合のビデオを何度も観たが、どの辺りでカーウィンが仕掛けてきたのかなんて見分けが出来なかった。
「あの試合は何度も観ました。
でもどの場面でシュートを仕掛けたのですか?」
カーウィンはニヤっと笑みを浮かべまたワインを口にした。
「ゴングが鳴ってどのくらい経過したのかは覚えてないが、私がフロントフェイスロックを仕掛けた時、彼は瞬時に切り返して私の腕を極めにきた。
あぁ成る程、彼の実力は本物だ、そう思い、後はお互いクリーンファイトに徹したよ…
私からシュートを仕掛けたのは後にも先にもヤマトだけだ」
オレはその試合を頭の中で思い出してみた。
そんな場面があっただろうか?
いくら思い出してもそんな場面は無かったような気がしたんだが…
「これは私とヤマトの二人にしか分からない事だよ。何せ一瞬の攻防だったからね。
他のレスラーだったらそのまま動けずにギブアップしてただろう」
カーウィンはアメリカを主戦上にしていた頃、何度もシュートを仕掛けてきたレスラーがいたが、全て返り討ちにしてやった程の実力者だ。
「見せかけの筋肉だけで相手にしたら全く相手にならない連中ばかりだった。
実は非公式で何人もの腕っぷしに自信があった連中がわたしに挑んできたが全てシュートで切り返して相手は大ケガをしたよ」
非公式とは日本で言う道場破りのような事だろう。
カーウィンの話を聞いてオレはキャッチレスリングにますますのめり込んでいった。
いつしか話は総合格闘技の事になり、オレはカーウィンに聞いてみた。
「もしカーウィンさんが現役の時に総合格闘技の大会があったら勝つ自信はありますか?」
ちょっと失礼な質問だが、カーウィンはしばらく考え込み、こう答えた。
「シュートには自信があるが、MMA(総合格闘技)とはスタイルが異なる。もし大会に出るとなったらそれなりの準備期間が必要になるだろう。
もちろんMMAスタイルに対応する為の期間だ。
ナオトは勝てるか?と聞いたがそれなりの準備期間でレスラーからMMAファイターになる為の特訓をすれば何とか勝てそうかもな」
オレはてっきり【プロレスラーは最強だ】と言うのかと思ったが、カーウィンはルールもスタイルも異なる闘い方故に練習方法も違ってくる、だからこそMMAファイターとして特訓をしなければプロレスラーとて勝てるワケがない、という事らしい。
さすがヨーロッパ最強と謳われた男だ。
ただカーウィンはこう付け加えた。
「勿論やるからにはベストを尽くして勝つよ」
総合格闘技の話をあまりしたがらないオールドレスラーが多い中、カーウィンは実に的を得た事を言う。
ここに来て良かった。
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