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新団体設立
失神KO敗け
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多分、カーウィンもタイ人のコーチも分かっていたはずだ。
【オレに勝ち目は無い】と。
だがこうしてリングに上がった以上は目の前にいる長身のキックボクサーと闘わなければならない。
【本日のメインイベント、3分5ラウンド、スタンディングバウトを行います】
向こうのコーナーでは、セコンドがしきりにグーリットに何かアドバイスしている。
グーリットは頷き、軽くシャドーをして、身体をほぐしている。
【青コーナー、TMNオランダ、キックボクシングヘビー級チャンピオン、194㌢98㌔、ヨハン・グーリット~っ!】
グーリットは両手を上げ、威風堂々としたオーラを放っていた。
【赤コーナー、TMNジャパン、186㌢105㌔、神宮寺直人~っ!】
オレはコールをされても後ろを向き、コーナーで深呼吸をした。
会場からは神宮寺コールが起こる。
今さらジタバタしても仕方ない、この圧倒的な不利なルールでオレはどう闘うのか、そればかり考えていた。
レフェリーに促され、共に中央で対峙した。
オレよりも背が高く、手足が長い。
身体の線は細いが、しなやかな肉体で、どの体勢からでも必殺の右ハイを繰り出せる柔軟性がある。
グーリットはオレを射るような目付きで既にスイッチが入った状態だ。
オレもグーリットの目をジッと見ていた。
レフェリーがルール説明をし、一旦コーナーへ戻った。
「ナオト、いいか、とにかくインファイトだ。相手の懐に潜り込むんだ」
カーウィンは何度も同じアドバイスをした。
ふと右側のリングサイドに目をやると、最前列に名誉会長のカイザー大和を筆頭に佐藤さんや山田さんが座り、この試合を観戦している。
何でこんなルールに変えやがったんだ、カイザー大和!
あの顔を見ると、怒りが込み上げて、冷静に試合が出来ない。
今は試合に集中しよう、じゃないとオレはグーリットの猛攻の前に撃沈してしまう。
レフェリー、早くゴングを鳴らせ!オレは最前列で観戦している会長の顔を睨み付けた。
会長も現役の頃を彷彿とさせるような鋭い目でオレを見ている。
一体何を企んでいるのか…
【ラウンドワン!カァーン!】
第1ラウンドのゴングが鳴った。
とにかく集中だ。オレはグーリットの出方を伺った。
グーリットはリング中央でドッシリと構えている。
オレはグーリットの周りを円を書くようにして回った。
ロングレンジだと、グーリットの長い手足が有利だ。
どうやって接近戦に持ち込むか…
静かな立ち上がりで、グーリットが軽く左のジャブを放った。
「…っ!」
咄嗟にブロックしたが、届くはずの無い距離から、ジャブとは思えない程のスピードと威力のあるパンチだ。
まるで硬い石のような拳だ。
オレはグーリットに近づき、右のローを繰り出した。
だが、グーリットは難なくかわし、左ジャブでオレを接近戦に持ち込まないようにした。
「休むな、どんどん攻めろ!」
「ナオト、組むんだ!組んだら投げろ!」
二人のセコンドがしきりにインファイトをするよう、アドバイスするが、そう簡単に懐に潜り込む事なんて出来ない。
その後も互いにローとジャブで牽制して、これと言ったダメージも無いまま1ラウンドのゴングが鳴った。
インターバルでは各コーナーへ戻り、水を含んで、ペッと吐き出した。
「次のラウンドから仕掛けてくるだろう。いいか、とにかくガードを固めて接近戦に持ち込め」
タイ人のコーチがアドバイスするが、どうやって接近戦に持ち込むか。
【セコンドアウト、セコンドアウト】
1分間のインターバルが終了し、セコンドのカーウィン達はリングへ下りた。
【ラウンドツー!カァーン!】
ゴングと同時に互いに中央で向かい合い、オレは左のフックをボディに放った。
だが、動きが読まれ、ブロックされてしまう。
すかさずグーリットが右のローを出す。
オレは左足を上げ、ブロックした。
ここからグーリットの猛攻が始まる。
左のジャブ、右のボディブロー、左ロー、右フック、左ハイと対角線の攻撃を繰り出す。
全てガードを固めてブロックしたが、オレは防戦一方だ。
しかも1発1発がとてつもなく威力がある。
腕や足は痛みを通り越して痺れ、ガードが下がっていく。
マズイ、このままじゃ滅多打ちになるのは時間の問題だ。
オレは重くなった両腕を顔の辺りまで上げ、素早くクリンチするように懐に潜り込んだ。
グーリットは落ち着いてオレの首を掴み、首相撲の体勢でボディに膝蹴りを叩き込む。
オレはこの瞬間を待ってた。
左の膝を外側から右腕でキャッチし、左腕でグーリットを首を抱えるようにして身体を持ち上げた。
変形のフィッシャーマンズスープレックスのような体勢で投げようとしたが、グーリットは瞬時に空中で体勢を横向きに変え、オレはボディプレスを食らったかのようにグーリットに潰された。
しかも膝が胸板に当たり、バキッと音がした…
「ぐぁっ!」
カーウィンが慌てて指示を出す。
「ナオト、スープレックスは読まれてる!接近戦で首を極めろ!」
キックボクサーが瞬時にスープレックスを潰すなんて芸当が出来るのか、オレは焦った。
「ブレイク!神宮寺、立て!立たなきゃダウンを取るぞ!」
今のボディプレスで胸骨を痛めた。
もしかしたら、折れたか、ヒビが入ってるかもしれない。
グーリットは既に立ち上がり、オレを見下ろすようにして、立ってこい、とばかりに挑発する。
オレは何とか立ち上がり、スタンドの状態から試合を再開した。
玉砕覚悟で突っ込むしか無いが、その一歩が踏み出せずに躊躇する。
「ラスト10秒!」
カチカチッと拍子木の音が鳴った。
攻めあぐんでいるまま、第2ラウンド終了のゴングが鳴った。
オレはコーナーへ戻り、椅子に座り、胸を押さえた。
「どうしたナオト?さっきバランスを崩した時に痛めたのか?」
カーウィンが心配そうに胸の辺りを見た。
「ヤツは完全にスープレックスを読んでいた…プロレスラーならまだしも、キックボクサーがあんな切り返し出来るなんて」
不思議だ…まるでスープレックスの対策を練ってきたかのようだ。
たかが1週間の短い期間で、スープレックスの防御をマスター出来るのだろうか?
「ジングウジ、頭だ。パンチもキックもダメ。投げ技も通用しない。こうなったら頭突きしかないネ」
タイ人のコーチがアドバイスした。
そうか、頭突きが使えるんだ…
それに懸けるしかない。
【セコンドアウト、セコンドアウト】
「ナオト、とにかく冷静に闘うんだ」
カーウィンはそう言ってリングへ下りた。
【ラウンドスリー!カァーン!】
第3ラウンドのゴングが鳴った。
頭突きをどうやって使うか…
オレは中央で打ってこい!と挑発するグーリットの周りをフットワークで回っていた。
どうする、どのタイミングで頭突きを出す?
そればかり考えていた。
「カマーン!」
来い!とグーリットは叫ぶ。
何か打開策を考えねば…
迂闊にグーリットの懐に入り込むのは危険だ。
オレの消極的ファイトに場内からブーイングが容赦なく飛んでくる。
【何グルグル回ってんだよ!】
【行けよ、神宮寺!】
【ビビってんじゃねぇ!】
そんな罵声すら飛んで来た。
ふざけんな!こっちだって必死だ!
だがその一歩が踏み出せずにいる自分にも腹が立っていた。
まともには打ち合えない…
ん?まともには?
そうか、まともに行かなきゃいいのか、オレは閃いた。
フットワークを止め、ノーガードでグーリットに近づいた。
グーリットも何かを感じたのか、打ってこない。
よし、今だ!
オレは素早く間を縮め、屈むようにしてグーリットのがら空きのボディに頭突きをかました。
土手っ腹にオレの頭がヒットし、グーリットは虚を突かれ、ボディを押さえた。
今だ!オレは右のロシアンフックを繰り出した。目線が下に向いてるせいか、勘で放った為、どこにヒットしたか見えないが、右の拳は確実にグーリットの顔面にヒットした。
【ダウン!】
よし、決まった!
ワァーっ!という大歓声の中、グーリットはマットに横たわっていた。
【ワン、ツー、スリー、フォー…】
オレはコーナーで頼む、立ち上がってくるな!と祈るようにダウンしたグーリットを見ていた。
向こうのセコンド陣がマットをバンバン叩きながら慌てている。
【セブン、エイト…】
グーリットは立ち上がった…
踏み込みが甘かったのか、それとも的確に顔面を捕らえる事が出来なかったのか、グーリットは立ち上がり、試合は再開した。
【ファイッ!】
だが攻めるなら今しか無い、オレはローキックとストレートでグーリットにラッシュをかけた。
「いいぞ、その調子だ!」
「相手はダメージがある!そのまま倒せ!」
カーウィンとコーチは興奮気味に叫んだ。
一気に場内は神宮寺コールに包まれた。
いける、これなら勝てるぞ!
そして、左のローでバランスを崩したグーリットに再びロシアンフックを放った…
「…っ、しまった!」
バランスを崩したのはフェイクで、ロシアンフックをダッキング(屈んで)でかわしながら、オレの死角から必殺の右ハイが飛んで来た…
ここでオレの記憶が途絶えた…
目を覚ますと、天井が低く感じる…
どこだ、ここは?
その瞬間、胸骨と左側頭部に激痛が走った。
「痛っ!」
目の前にカーウィンとコーチがいる。
「大丈夫か?」
「まだ少し横になれ!」
控え室でオレは横になっていた。
3ラウンド2分46秒、グーリットの右ハイキックでKO敗けを喫した…
カーウィンの話しだと、ハイキックをモロに食らい、ダウンしたと同時にレフェリーがゴングを要請した。
大の字に倒れ、しばらくは立ち上がれなかったが、何とか立ち上がり、グーリットと健闘を称え合え、リングへ下りて花道を歩いて控え室へ入った途端、崩れ落ちるような形で倒れたと言う事らしい。
全く覚えてない…記憶が吹っ飛ぶ程の凄まじい必殺の右ハイキックだった。
…敗けたか。
TMNの旗揚げ戦は失神KOという、無惨な敗け方をしてしまった。
ダメージはあるが、今はハッキリしている。
立ち技のルールでキックボクサーのチャンピオンを一度はダウンさせたんだから、これがもっと前に対戦カードが決まっていたらどうなっていたのだろうか?
【たられば】は勝負の世界では全く無意味だ。
結果が全て、そしてオレは敗けた。
だが、これで良かったんだ。
ダメージはかなりあるが、自分の足でリングへ下りる事が出来て、ホッとした。
大晦日も残り僅かで、後数分で新年を迎える。
オレは敗けた事より、TMNの旗揚げ戦が無事に成功した事に一安心した。
リングドクターに診てもらい、頭部にダメージがあるものの、大した事が無かったが、胸骨にヒビが入り、完治するまで1ヶ月以上かかるらしい。
旗揚げ戦を終え、報道陣は名誉会長、カイザー大和にメインの試合の変更の事を聞いた。
「プロレスラーが普通にレスリングしても面白くない。
ならば皆がアッと驚くような対戦カードにしようと思い、急遽カードを変更した。
神宮寺はそこそこ頑張ったが、まだまだだ。
これからどうなるか楽しみだけどね、フッフッフ」
そうコメントを残した。
だが年が明けて数日が経った頃、オレは親しいプロレス記者から、本当の理由を聞いて激怒した。
【オレに勝ち目は無い】と。
だがこうしてリングに上がった以上は目の前にいる長身のキックボクサーと闘わなければならない。
【本日のメインイベント、3分5ラウンド、スタンディングバウトを行います】
向こうのコーナーでは、セコンドがしきりにグーリットに何かアドバイスしている。
グーリットは頷き、軽くシャドーをして、身体をほぐしている。
【青コーナー、TMNオランダ、キックボクシングヘビー級チャンピオン、194㌢98㌔、ヨハン・グーリット~っ!】
グーリットは両手を上げ、威風堂々としたオーラを放っていた。
【赤コーナー、TMNジャパン、186㌢105㌔、神宮寺直人~っ!】
オレはコールをされても後ろを向き、コーナーで深呼吸をした。
会場からは神宮寺コールが起こる。
今さらジタバタしても仕方ない、この圧倒的な不利なルールでオレはどう闘うのか、そればかり考えていた。
レフェリーに促され、共に中央で対峙した。
オレよりも背が高く、手足が長い。
身体の線は細いが、しなやかな肉体で、どの体勢からでも必殺の右ハイを繰り出せる柔軟性がある。
グーリットはオレを射るような目付きで既にスイッチが入った状態だ。
オレもグーリットの目をジッと見ていた。
レフェリーがルール説明をし、一旦コーナーへ戻った。
「ナオト、いいか、とにかくインファイトだ。相手の懐に潜り込むんだ」
カーウィンは何度も同じアドバイスをした。
ふと右側のリングサイドに目をやると、最前列に名誉会長のカイザー大和を筆頭に佐藤さんや山田さんが座り、この試合を観戦している。
何でこんなルールに変えやがったんだ、カイザー大和!
あの顔を見ると、怒りが込み上げて、冷静に試合が出来ない。
今は試合に集中しよう、じゃないとオレはグーリットの猛攻の前に撃沈してしまう。
レフェリー、早くゴングを鳴らせ!オレは最前列で観戦している会長の顔を睨み付けた。
会長も現役の頃を彷彿とさせるような鋭い目でオレを見ている。
一体何を企んでいるのか…
【ラウンドワン!カァーン!】
第1ラウンドのゴングが鳴った。
とにかく集中だ。オレはグーリットの出方を伺った。
グーリットはリング中央でドッシリと構えている。
オレはグーリットの周りを円を書くようにして回った。
ロングレンジだと、グーリットの長い手足が有利だ。
どうやって接近戦に持ち込むか…
静かな立ち上がりで、グーリットが軽く左のジャブを放った。
「…っ!」
咄嗟にブロックしたが、届くはずの無い距離から、ジャブとは思えない程のスピードと威力のあるパンチだ。
まるで硬い石のような拳だ。
オレはグーリットに近づき、右のローを繰り出した。
だが、グーリットは難なくかわし、左ジャブでオレを接近戦に持ち込まないようにした。
「休むな、どんどん攻めろ!」
「ナオト、組むんだ!組んだら投げろ!」
二人のセコンドがしきりにインファイトをするよう、アドバイスするが、そう簡単に懐に潜り込む事なんて出来ない。
その後も互いにローとジャブで牽制して、これと言ったダメージも無いまま1ラウンドのゴングが鳴った。
インターバルでは各コーナーへ戻り、水を含んで、ペッと吐き出した。
「次のラウンドから仕掛けてくるだろう。いいか、とにかくガードを固めて接近戦に持ち込め」
タイ人のコーチがアドバイスするが、どうやって接近戦に持ち込むか。
【セコンドアウト、セコンドアウト】
1分間のインターバルが終了し、セコンドのカーウィン達はリングへ下りた。
【ラウンドツー!カァーン!】
ゴングと同時に互いに中央で向かい合い、オレは左のフックをボディに放った。
だが、動きが読まれ、ブロックされてしまう。
すかさずグーリットが右のローを出す。
オレは左足を上げ、ブロックした。
ここからグーリットの猛攻が始まる。
左のジャブ、右のボディブロー、左ロー、右フック、左ハイと対角線の攻撃を繰り出す。
全てガードを固めてブロックしたが、オレは防戦一方だ。
しかも1発1発がとてつもなく威力がある。
腕や足は痛みを通り越して痺れ、ガードが下がっていく。
マズイ、このままじゃ滅多打ちになるのは時間の問題だ。
オレは重くなった両腕を顔の辺りまで上げ、素早くクリンチするように懐に潜り込んだ。
グーリットは落ち着いてオレの首を掴み、首相撲の体勢でボディに膝蹴りを叩き込む。
オレはこの瞬間を待ってた。
左の膝を外側から右腕でキャッチし、左腕でグーリットを首を抱えるようにして身体を持ち上げた。
変形のフィッシャーマンズスープレックスのような体勢で投げようとしたが、グーリットは瞬時に空中で体勢を横向きに変え、オレはボディプレスを食らったかのようにグーリットに潰された。
しかも膝が胸板に当たり、バキッと音がした…
「ぐぁっ!」
カーウィンが慌てて指示を出す。
「ナオト、スープレックスは読まれてる!接近戦で首を極めろ!」
キックボクサーが瞬時にスープレックスを潰すなんて芸当が出来るのか、オレは焦った。
「ブレイク!神宮寺、立て!立たなきゃダウンを取るぞ!」
今のボディプレスで胸骨を痛めた。
もしかしたら、折れたか、ヒビが入ってるかもしれない。
グーリットは既に立ち上がり、オレを見下ろすようにして、立ってこい、とばかりに挑発する。
オレは何とか立ち上がり、スタンドの状態から試合を再開した。
玉砕覚悟で突っ込むしか無いが、その一歩が踏み出せずに躊躇する。
「ラスト10秒!」
カチカチッと拍子木の音が鳴った。
攻めあぐんでいるまま、第2ラウンド終了のゴングが鳴った。
オレはコーナーへ戻り、椅子に座り、胸を押さえた。
「どうしたナオト?さっきバランスを崩した時に痛めたのか?」
カーウィンが心配そうに胸の辺りを見た。
「ヤツは完全にスープレックスを読んでいた…プロレスラーならまだしも、キックボクサーがあんな切り返し出来るなんて」
不思議だ…まるでスープレックスの対策を練ってきたかのようだ。
たかが1週間の短い期間で、スープレックスの防御をマスター出来るのだろうか?
「ジングウジ、頭だ。パンチもキックもダメ。投げ技も通用しない。こうなったら頭突きしかないネ」
タイ人のコーチがアドバイスした。
そうか、頭突きが使えるんだ…
それに懸けるしかない。
【セコンドアウト、セコンドアウト】
「ナオト、とにかく冷静に闘うんだ」
カーウィンはそう言ってリングへ下りた。
【ラウンドスリー!カァーン!】
第3ラウンドのゴングが鳴った。
頭突きをどうやって使うか…
オレは中央で打ってこい!と挑発するグーリットの周りをフットワークで回っていた。
どうする、どのタイミングで頭突きを出す?
そればかり考えていた。
「カマーン!」
来い!とグーリットは叫ぶ。
何か打開策を考えねば…
迂闊にグーリットの懐に入り込むのは危険だ。
オレの消極的ファイトに場内からブーイングが容赦なく飛んでくる。
【何グルグル回ってんだよ!】
【行けよ、神宮寺!】
【ビビってんじゃねぇ!】
そんな罵声すら飛んで来た。
ふざけんな!こっちだって必死だ!
だがその一歩が踏み出せずにいる自分にも腹が立っていた。
まともには打ち合えない…
ん?まともには?
そうか、まともに行かなきゃいいのか、オレは閃いた。
フットワークを止め、ノーガードでグーリットに近づいた。
グーリットも何かを感じたのか、打ってこない。
よし、今だ!
オレは素早く間を縮め、屈むようにしてグーリットのがら空きのボディに頭突きをかました。
土手っ腹にオレの頭がヒットし、グーリットは虚を突かれ、ボディを押さえた。
今だ!オレは右のロシアンフックを繰り出した。目線が下に向いてるせいか、勘で放った為、どこにヒットしたか見えないが、右の拳は確実にグーリットの顔面にヒットした。
【ダウン!】
よし、決まった!
ワァーっ!という大歓声の中、グーリットはマットに横たわっていた。
【ワン、ツー、スリー、フォー…】
オレはコーナーで頼む、立ち上がってくるな!と祈るようにダウンしたグーリットを見ていた。
向こうのセコンド陣がマットをバンバン叩きながら慌てている。
【セブン、エイト…】
グーリットは立ち上がった…
踏み込みが甘かったのか、それとも的確に顔面を捕らえる事が出来なかったのか、グーリットは立ち上がり、試合は再開した。
【ファイッ!】
だが攻めるなら今しか無い、オレはローキックとストレートでグーリットにラッシュをかけた。
「いいぞ、その調子だ!」
「相手はダメージがある!そのまま倒せ!」
カーウィンとコーチは興奮気味に叫んだ。
一気に場内は神宮寺コールに包まれた。
いける、これなら勝てるぞ!
そして、左のローでバランスを崩したグーリットに再びロシアンフックを放った…
「…っ、しまった!」
バランスを崩したのはフェイクで、ロシアンフックをダッキング(屈んで)でかわしながら、オレの死角から必殺の右ハイが飛んで来た…
ここでオレの記憶が途絶えた…
目を覚ますと、天井が低く感じる…
どこだ、ここは?
その瞬間、胸骨と左側頭部に激痛が走った。
「痛っ!」
目の前にカーウィンとコーチがいる。
「大丈夫か?」
「まだ少し横になれ!」
控え室でオレは横になっていた。
3ラウンド2分46秒、グーリットの右ハイキックでKO敗けを喫した…
カーウィンの話しだと、ハイキックをモロに食らい、ダウンしたと同時にレフェリーがゴングを要請した。
大の字に倒れ、しばらくは立ち上がれなかったが、何とか立ち上がり、グーリットと健闘を称え合え、リングへ下りて花道を歩いて控え室へ入った途端、崩れ落ちるような形で倒れたと言う事らしい。
全く覚えてない…記憶が吹っ飛ぶ程の凄まじい必殺の右ハイキックだった。
…敗けたか。
TMNの旗揚げ戦は失神KOという、無惨な敗け方をしてしまった。
ダメージはあるが、今はハッキリしている。
立ち技のルールでキックボクサーのチャンピオンを一度はダウンさせたんだから、これがもっと前に対戦カードが決まっていたらどうなっていたのだろうか?
【たられば】は勝負の世界では全く無意味だ。
結果が全て、そしてオレは敗けた。
だが、これで良かったんだ。
ダメージはかなりあるが、自分の足でリングへ下りる事が出来て、ホッとした。
大晦日も残り僅かで、後数分で新年を迎える。
オレは敗けた事より、TMNの旗揚げ戦が無事に成功した事に一安心した。
リングドクターに診てもらい、頭部にダメージがあるものの、大した事が無かったが、胸骨にヒビが入り、完治するまで1ヶ月以上かかるらしい。
旗揚げ戦を終え、報道陣は名誉会長、カイザー大和にメインの試合の変更の事を聞いた。
「プロレスラーが普通にレスリングしても面白くない。
ならば皆がアッと驚くような対戦カードにしようと思い、急遽カードを変更した。
神宮寺はそこそこ頑張ったが、まだまだだ。
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