19才の夏 From1989

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会話も出来ず

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くそ忙しい残業の日々から開放され、ようやく夏休みに突入した。
休み初日は中野と藤田の3人でボーリングを3ゲームほどやってからファミレスで飯を食うという、いつものパターンで二人と別れた。

僕は1人で駐車場に向かい、マークIIにエンジンをかけた。

そして隣街まで車を走らせ、ビルの一角にテレクラと書かれてある看板を見つけ、マークIIをコインパーキングに停めてビルの中へ入った。

前回入ったテレクラと違う店だが、システムや料金にそれほどの違いはない。

そしてパーテーションで分かれている個室に入り、電話が鳴るのを待っていた。

僕の他にもう1人客がいたが、楽しげに会話をしているらしく、次に電話がかかってきても、悠々と受話器を取れる状態だ。

テレビを観ながら横になっていると電話が鳴った。

僕はゆっくりと受話器を取った。

「あ、もしもし。」

【もしもーし。】

「あ、こんばんは。」

【こんばんはでーす。】

何かノリがいいのか、軽いのかわからんな。

「えーっと、今何才ですか?」

【え?ハタチだよ。】

「あー、オレ19だから、もしかしたら同学年かもね。」

【えーっそうなの?】

「うん、オレ早生まれだから。」

【えーっ、そうなんだ。】

「んと、こういうとこに電話ってよくするの?」

【たまーにするかなぁ。】

「あ、そうなんだ。オレ今回が2回目でまだよくわかんないんだよね、テレクラってのが。」

【…】

「もしもし?」

【ガチャッ、プーップーップーッ…】

くそ!切りやがったな、あの女!

何がいけなかったのか?

さっぱりわかんねえぞ!

よし、こうなったら長く居座ってやる!

僕は個室を出てフロントに向かった。

「すいません、さっき一時間って言ったけど、延長できますか?」

「延長だと更に一時間分の料金をいただきますが。」

僕はフロントに延長料金を払った。

よし、次は上手く会話してやる!

それから30分ほど経過した。

電話が全く鳴らない。

こりゃ延長して損したかなぁと思った時に電話が鳴った。

素早く受話器を取った。

「も、もしもし。」

【…もしもし…】

何だか暗い感じの話し方だな。

「あ、こんばんは。」

【…こんばんは…】

「えーっと、どうかしましたか?」

【…どうして?】

「んー、何かこう、ちょっと話し方が暗いかなぁって思ったから。」

【夜中だから大きい声だせないのよ!】

【ガチャッ、プーップーップーッ…】

はぁ?何だコノヤロー!だったらこんなとこにかけてくんな、バカヤロー!

結局、ロクな会話も出来ずに店を出た。


はぁ、何やってんだろ、オレは?
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