19才の夏 From1989

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夜が待ち遠しい

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美樹と電話番号を交換した。

先に電話をしてきたのは美樹だった。

「貴久、堀内さんて女の人から電話よ。」

母親からそう言われたが、最初誰だか解らなかった。

堀内?そんな女は知らないな。

誰だろうと思い電話に出た。

「はい、モシモシ。」

【あ、モシモシ。こんばんは。覚えてる?アタシの事?】

あっ、この声は美樹だ。

「あぁー、モシモシ。うんもちろん。」

【良かったぁ、この番号デタラメなんじゃないかと思って、試しにかけてみたんだけど、ウソじゃなかったんだね?】

「そりゃそうだよ。うん。」

【今何してるの?】

「いや、特に何もしてないけど。」

僕の家の電話は居間にあり、すぐ側で父親と母親がテレビを観ていた。

母親が父親に小指を立てていた。
【彼女なんじゃない?】
って仕草で。

僕は会話を聞かれるのが恥ずかしかった。

【今ね、友達と会っててその帰りなの。】

公衆電話からかけてるのか。
随分と騒がしい所からかけてるんだな。

「そうなんだ。何してたの?」

正直僕はこの会話を切り上げたかった。

これ以上親に聞かれたくなかったからだ。

【ご飯食べに行って、ちょっと飲んできたの。】

「あ、飲むんだ?」

【うん、それほどじゃないけど。】

あぁ、早く終わらせたい。

「そっか、じゃオレ風呂に入るからまた電話するよ。」

【うん、わかった。待ってるね。】

「うん、バイバイ。」

電話を切ってすぐに部屋に入った。

あれこれ聞かれるのがイヤだったから。

でも僕は部屋で美樹から電話がかかってきたのを喜んだ。

どんな娘なんだろ、声は可愛かったなぁ。

携帯が無い時代だから、顔は解らない。
おまけに電話は固定電話だから最初に親が電話に出る。

これがネックだった。
でもこの時代はこれしか連絡出来る手段が無かった。

翌日は僕から電話した。
家から離れた電話ボックスに入り、中にあるテレカ(テレフォンカード)の自販機に千円を入れ、美樹と話した。

どのくらい話したか解らないが、結構長い時間話した。

美樹と僕の共通点はBUCK-TICKを聴いていた事だった。

この年の初めに、当時付き合っていた彼女と武道館のライブを観に行った。

BUCK-TICKは前年の1988年にシングル【JUST ONE MORE KISS】がヒット、そしてこの年の初めに出したアルバム【TABOO】がオリコンチャート一位を獲得し、ビジュアル面でも人気を集めていたバンドだった。

【いいなぁ、アタシもライブ観に行きたいなぁ。】

「じゃあ、都合が合えば行こうよ。」

【うん、そうだね。】

僕は美樹と意気投合した。

「じゃあ、遅くなったからまた明日ね。」

【うん、待ってるね。】

「じゃあ、おやすみ。」

【おやすみなさい。】

僕は電話を切った。

家に帰ってきたときは時計が午前0時を過ぎていた。

早く次の夜にならないかな、なんて事を思い、僕はベッドに入った。

美樹と話すのが楽しくて仕方がない。

ドキドキワクワクする日が続いた。
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