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2巻
2-1
第一章 新しい日々
僕――ロイは迷宮都市ラブリュスで暮らす青銅級冒険者だ。
孤児だった僕は、魔法薬師を目指し『バスチア魔法薬店』に見習いとして入り、住み込みで働いていた。
十三歳になったある日、僕はおつかい依頼で『西の崖のハズレ』――通称ハズレという迷宮に向かった。ここは子供でも入れる危険度の低い迷宮だ。
しかし素材採取の最中、僕は足を滑らせ崖下に落ちてしまう。
そして、ここで出会った薄紫色のスライム――後に従魔となるプラムに導かれ、迷い込んだ先で見たのは――
何度も夢に出てきた不思議な塔。さらには茂る薬草とたくさんのスライム……の幻。
その光景を見て、僕は前世を思い出す。
『ぼくはここにいた』と。
僕の前世はスライムだった。かつて錬金術で栄えた古王国の錬金王によって作られた、製薬スライムだったのだ。
前世を思い出したことで、スキル【製薬】が覚醒し、さらにはハズレの塔の地下に錬金術師の工房を見つけ、古王国時代の研究ノートまで発見した。
ノートには様々なレシピが載っていて、僕はスキルと古王国の知識のおかげで、これまで作ったことのない薬も作れるようになった。
一方で、バスチア魔法薬店の旦那様や若旦那さんたちは、悪事がバレて捕縛され、住み込み先は調査のために封鎖された。
住む場所を失ってしまったものの、悲しんでいる暇はない!
僕は【製薬】スキルで作ったポーションを売り、独立することを決意した。
ところで僕のポーション……なぜかキラキラしてるんだよね? レシピは通常の初級ポーションなのに、効果はそれ以上。
これって、やっぱり前世が製薬スライムだったせいかな?
しかも【製薬】スキルでポーションを作ると、『薬玉』っていう、特有の形状で出来上がるし……?
薬玉は、生成された薬が薄い膜で包まれたものだ。回復ポーションも、毒薬も、全てこの丸い形で出来上がる。売る時はポーション瓶に薬玉の中身を詰め替えているんだ。
でも、お値段も効果も冒険者たちに人気なのでいいだろう!
◆ ◆ ◆
パンッ! と洗い立てのシャツを広げたら、僕の顔に水しぶきが飛んだ。
「わっ、冷た!」
ここは冒険者ギルドの裏庭。適当に張られたロープには、簡易宿泊所に泊まる冒険者たちの洗濯物が、これまた適当に干されている。
住み込みで働いていたバスチア魔法薬店が封鎖されたので、今、僕はギルドの簡易宿泊所で寝泊りをしている。
「あ~、ビッシャビシャだ」
絞りが甘すぎたシャツから、水が滴り落ちる。固く絞ったつもりだったのに、僕の手絞りじゃこうなってしまう。
ろくでもない奉公先だけど、バスチア魔法薬店には脱水機があった。あれがあればキッチリ水を切れるのに……!
『プルプルルッ』
足下のプラムが小さな体を揺らし、面白そうに笑っている。
『つめたいよ~』という心の声が聞こえたので、プラムにまで水滴が跳んだみたい。
僕らはスキル効果《以心伝心》のおかげで、お互いの言いたいことがなんとなく分かる。
《以心伝心》は、【友誼】という魔物をテイムできるスキルの効果で、このスキルも前世を思い出したことで得たものだ。
「ごめん、ごめん!」
『プルプル』
『いいよ』と言って、プラムは薄紫色で半透明の体を揺らす。
その体内には、銅色のプレート――『従魔の印』がきらめいている。それは僕の左腕につけられた、青銅級冒険者の腕輪と同じ色だ。
僕は冒険者登録をしたばかりの新人冒険者で、駆け出し薬師。
冒険者には青銅級、白銅級、銀級、黄金級、白金級と級位があって、青銅級が一番下だ。
『プルッ!』
プラムがにゅっと手(?)を伸ばし、びしょびしょの洗濯物を引っ張った。
「え? 欲しいの?」
『プルン!』
「いいけど……汚しちゃ嫌だよ?」
僕が持ってる普段着は、洗濯したシャツと、今着てるシャツの二枚。ズボンは履いてるやつだけ。
泥で汚れたら困ったことになってしまう。
『プルプル』
『だいじょうぶだよ~!』と言うプラムを信じてシャツを手渡すと、プラムは『とぷん!』と体内にシャツを取り込んだ。
「えっ!? プラム!?」
驚きのあまり思わず声を上げた。
『ポヨンッ!』
すると、一瞬プラムの体の色が濃くなり、サッとシャツが体内から出てきた。
呆気に取られている僕に、プラムがシャツを差し出す。
え……今、シャツを食べた……? 僕のシャツ……無事?
「えっ……? ビシャビシャじゃなくなってる!」
『プルン!』
プラムが小さな体で胸(?)を張った。
「すごい! 【分解】スキルで水を分解して飛ばしてくれたんだ?」
『プルルン!』
プラムが『そうだよ!』と再度胸を張る。
スライムが持つスキルは、主に【浄化】と【分解】。そのスキルを活かし、街の下水処理などにも利用されているらしい。
スライムには酸や毒を吐く種類もいるけど、基本的に大人しくて弱い魔物だから、そんなふうに利用できるんだろうね。
「プラムに脱水してもらえば、生地も傷まないで済むね!」
『ポヨ?』
プラムは『せんたくもできるよ?』と言い、落ちていた石を拾って体内に入れ……
『ホラ』と石を取り出して、見せた。泥だらけだった石がピカピカだ。
「あっ、そっか! 【分解】で汚れを落としたんだね!」
いつもポーションの調合前に薬草の泥を落としてもらっていたのに、【分解】が洗濯に結びついてなかった……!
早起きして盥と洗濯板を借りて一生懸命洗ったのになぁ。
プラムにお願いすれば、手で洗うこともなく、あっという間に綺麗にできたのか……
うっかりが過ぎるよ、僕!
「プラム……とりあえずこっちのも脱水してくれるかな?」
僕は脱力しつつ、籠に入っている洗濯済みの下着や靴下を指さした。
「あれ? 水を【分解】しちゃうんだから、もしかして干さなくてもいい……?」
僕はシャツを洗濯ばさみで留めつつ、首を傾げる。
すでに乾いてるような気もするけど、まあ、今日は干すか。
よく晴れてるし、お日様に当てたほうがなんかいい匂いになるしね。
全て干し終えて井戸端に行くと、プラムが若干湿った盥の中で青空を見上げていた。
わ、僕が洗濯物を干している間に、使った盥や水の片付けまでしてくれたんだ。助かる!
洗濯石けんが溶けた水は、排水溝に捨てなければいけない。さらに使った盥や洗濯板は、綺麗に乾かして返却するのがルールだ。
「プラム! ありがとう」
『プルン!』
『どういたしまして!』と言っているみたいだ。
盥から飛び出てポヨポヨ揺れる薄紫色の体には、青空が映っている。
いい天気だし、今日は外に朝ごはんを食べに行ってみようかな?
「プラム、出掛けるよ!」
『ポヨン』
僕は一旦、借りている部屋へ戻りお財布を掴むと、プラムと裏庭を抜け、通用口から早朝の街へ出た。
朝早いこの時間、ギルドはまだ開いていない。なので併設の食堂も閉まっている。
ギルドの近くには、朝から開いてる宿屋の食堂や、パン屋さんもあるんだけど、今日はギルド職員さんに聞いた、『美味しい朝食が食べられる場所』に行ってみようと思うんだ!
「安くて美味しいのがあればいいなぁ。ね、プラム」
『ポヨン、ポヨン』
ちゃんと朝ごはんを食べられる。しかも何を食べるか自分で選べる。
そんな小さな自由が嬉しくて、僕はちょっぴり多めに入れてきたお財布を握りしめ、跳ねるプラムに合わせてスキップで石畳を進んだ。
「わ! すごい、お店がたくさん出てる!」
大通りを少し行くと、お目当ての場所が見えてきた。迷宮城前広場の朝食屋台市だ!
世界には特に大きな迷宮が七つあって、ここラブリュスには、そのうちの一つ『地下迷宮城ラブリュス』がある。この広場を抜けた丘の先が入り口だ。
中央の時計台を囲むように、色とりどりのテントを広げた屋台が並んでいる。
朝食屋台市は毎朝開かれてるそうで、ギルドの職員さんは、早起きできた時だけ立ち寄ってるって言っていた。
広場は迷宮城に行く前の冒険者でいっぱいだけど、ちらほら冒険者ギルドや魔法薬師ギルドの制服を着た人も交じっている。
あとは職人風の人とか、旅の途中らしき人、乗り合い馬車の御者も多い。
みんな仕事の前に、思い思いに朝食を楽しんでいるようだ。
「うわぁ~、いい匂い!」
『ポヨン、ポヨン!』
僕はプラムを抱き上げて、キョロキョロ周囲を見回しながら歩く。
どの屋台にも人だかりがしている。みんな立ったまま、いくつかの屋台をはしごして食べているようだ。
「あれ? ククルルくん?」
人混みの中に見覚えのある灰色の縞模様が見え、僕は足を止めた。
様々な人が集まる迷宮都市ラブリュスでも、ケットシーは珍しい。
その縞模様の子は、大きな鞄を肩から提げ、尻尾をフリフリ、背伸びで屋台を覗き込んでいる。
それに「おにーさん、二つ買ったらちょっとオマケしてくれにゃい?」なんて、ちゃっかりしたことを言っている。
うん。あれは間違いなくククルルくんだ。
ククルルくんは、大好きな古文書を集めながら旅する、子供のケットシー。
長命なケットシーにおいてはまだ子猫だけど、ククルルくんは僕より一つ上の十四歳なんだって。
ククルルくんとは、バスチア魔法薬店が『粗悪品の古文書レシピ』でポーションを作り、僕も嫌疑をかけられて連行された時に出会った。
収集した古文書を持っていたことから、ククルルくんも関与を疑われたんだよね……
「ククルルくん! おはよう」
「にゃっ? あにゃ、ロイ! プラムも!」
ククルルくんは買ったばかりの揚げたてねじりドーナッツを手に、なんだか眠たそうな顔で振り向いた。
身につけたベストのフードや耳には、葉っぱがついている。どこを通ってきたんだろう?
するとプラムも葉っぱに気が付いたようで、にゅっと手(?)を伸ばしてパパッと葉っぱをはらう。
「にゃ、汚れてたにゃ? いけにゃい、いけにゃい」
ククルルくんはくるりと回り、自分の体を見て、耳をピピッ、尻尾もピピピと動かし葉っぱを落とす。
「ククルルくん、どこか寄ってきたの?」
「にゃ~、迷宮城に行ってたのにゃ! 夜通し探索してたから眠いにゃよ」
「えっ、昨日からずっと潜ってたの!?」
「そうにゃ! ベアトおねーさんのお使い採取にゃ! おねーさんが『働かざる者食うべからずよぉ』って言うから……ククルルは古文字も教えてもらってるし、お返しが大変にゃ」
ベアトおねーさんことベアトリスさんは国一番の錬金術師で、白夜の錬金術師という二つ名を持っているすごい人だ。
錬金術は様々な素材を調合・配合し、物質や属性を変化させ、あらゆる道具や薬を錬成する古の術。今では錬金術を使える人は世界で数人しかいない。
それにしても、さすがベアトリスさん。可愛いケットシーの子猫でも容赦がないようだ。
まあでも、そうだよね。彼女は僕のことだって、半人前扱いも、子供扱いもしなかったもん。僕はそれが嬉しかったけど。
「ふふふ! 大変だね。でも夜通し採取なんて、そんなにたくさん採ってくるように言われたの?」
「ううん、おねーさんのお使いはすぐに終わったにゃよ。でも迷宮城で会った冒険者に、最近『古王国のよく分からにゃい古文書』が浅層部でも見つかるって聞いたにゃ。だからついでに、にゃいかにゃ~って探索して、気が付いたら朝ににゃってたにゃ。にゃっにゃっにゃっ」
「わぁ……ククルルくんらしい」
『ポヨ……』
僕とプラムはちょっと遠い目をしてしまう。
古文書を探して迷宮で夜を明かしてしまうなんて、本当にククルルくんらしい。マイペースでちょっぴりちゃっかりしている、可愛い子猫がククルルくんだ。
「でもにゃあ。無断外泊はきっとベアトおねーさんに怒られるにゃ。怒られるの嫌にゃな~って思ってたんにゃけど、やっぱり朝まで潜っててラッキーにゃったにゃ! くたくたのお腹ぺこぺこで迷宮から出たら、いい匂いがしてて、くんくんしにゃがら歩いてきたら美味しい朝ごはんに出会えちゃったにゃ~!」
ククルルくんは、とんたた! と地面を踏み鳴らし、上機嫌でくるくる回って言う。
「ほんとは早く帰ったほうがいいんにゃけどにゃ。美味しそうなごはんには敵わないにゃ」
そりゃ夜通し探索して迷宮を出た途端、食べ物屋さんの屋台が並んでいたら、つい匂いにつられるのも分かる。
「ロイも朝ごはん食べにきたにゃ? あにょね、それにゃら早くしにゃいと売り切れちゃうんにゃって!」
「えっ」
ククルルくんの言葉で僕は慌てて周囲を見回した。
「そうだよ。アンタら朝食屋台市は初めてだね?」
ククルルくんがドーナッツを買った店のおばさんが声を掛けてきた。
「はい。美味しいって聞いて来てみたんです!」
「そりゃありがたいね。お目当ての店はあるのかい? どこも売り切れ御免だから、さっさと買いに行ったほうがいいよ?」
「えっ、そんなにすぐ売れちゃうんですか?」
「そりゃそうだ。朝食屋台は仕事前に食べてく場所だからね。あと一時間もせずに売り切れで店仕舞いだよ」
あ、そっか! 街が動く時間になったら、ここに来ているお客さんも仕事が始まる。屋台だってお昼時に向けて仕込みが始まるんだろう。
こんなふうに僕らと話している間にも、揚げたてねじりドーナッツは売れていく。
朝から甘いもの? って思ったけど、これなら片手で食べられるし、持ち帰りもできるから、朝食用だけでなく職場でのオヤツにって買っていく人も多いんだって。
「ほら、うちも今日はいつもより売れるペースが速い。早くしないと食いっぱぐれるよ! 近頃、冒険者が増えてるからさぁ」
確かに話している最中にもお客さんは途切れていない。これは本当に急いだほうがよさそうだ。
「教えてくれてありがとう! えっと、じゃあドーナッツ一つください」
「あら、いい子! いい子にはオマケをあげようね」
ドーナッツは一つ銅貨三枚。
僕はかつてなく重いお財布から白銅貨を一枚差し出した。
ふふ。僕が作ったキラキラポーションがたくさん売れたから、お金には余裕があるんだもんね!
今日はちょっと豪勢な朝ごはんを食べちゃうんだ!
おばさんはお釣りの銅貨と、ドーナッツを二つ僕に手渡す。オマケの一個は、形が崩れて売り物にはできないやつだって言うけど味は変わらない。嬉しいなー!
「あっ、おいひぃ!」
熱々のドーナッツは、ふんわりもっちりジュワッ、だ。揚げたてのドーナッツにまぶされた粉砂糖が、油と一緒に舌の上で溶けていく。甘くて美味しい!
『プルルッ』
オマケのドーナッツを頬張るプラムも、少し前を歩くククルルくんも、『おいしい~』「おいしいにゃ!」と上機嫌だ。朝から甘い物もいいね!
三人で食べながら屋台を見て回っていると、気になる香りに気が付いた。
「ここはなんだろう? 魚介のスープ屋さんかな?」
「にゃっ、お魚と貝の匂いがするにゃ! かぐわしいにゃ!」
耳と尻尾をピーンと立てたククルルくんが、いい匂いのする屋台を背伸びで覗き込む。
僕も一緒に覗き込むと、ぐつぐつ音を立てる大きな鍋には魚に貝、イカやエビ、ハーブや野菜も入っているようだ。それにしたって……この匂い、たまらない!
濃厚な魚介の香りがする湯気だけでヨダレが出ちゃう。
「美味しそう~!」
『プルルン!』
「おう。買うか? 坊主」
プラムと一緒に鍋を覗き込んでいたら、太い腕の日焼けした店主に声を掛けられた。
「今日のは特に美味いぜ? ぷりぷりの貝がたっぷりだ」
ごくり。僕は思わず唾を呑み込んで一瞬迷う。このスープ、絶対に美味しい。でもこの広場いっぱいの屋台、どれも気になる。
スープを食べてる間に、他の料理が売り切れちゃうかもだし、だからって持ちながら歩くとこぼしそうだし……
「おじさん、僕、大急ぎで一回りしてくるから、一人分取っておいてくれないかな?」
「ククルルもお願いしたいにゃ! 美味しそうにゃ」
「はっはは! いいぜ、早く行ってきな!」
よかった! これでスープは確保だ!
代金を先払いしようとしたら、「後でいいって、つーか先払いして金だけ取られたらどうするんだ? 危なっかしい子供と子猫だなあ」って言われてしまった。
……そうだよねぇ。僕ちょっと浮かれてるのかも。
『ポヨン! プルプル!』
僕の肩に乗ったプラムがぺちぺち頬を叩き、『みてみて!』と一つの屋台を指(?)さした。
『おいしそうだよ!』とプラムから伝わってくる。
「にゃ、行列にゃね」
プラムが見つけたのは、色とりどりの野菜を載せたピザ!
トマト、ズッキーニ、『彩野カブ』の上で、チーズがトロットロにとろけている。
「ふわっ、いい匂い!」
『ポヨン! ポヨヨ!』
またペチペチ! とプラムに頬を叩かれた。
プラムがにゅうっと指(?)さす先では、厚めのハムが鉄板で、じゅうじゅう音を立てながら焼かれていた。ああ、こんがり焼けてて美味しそう……!
僕たちの視線に気付いた店主が、粒マスタードを塗ってからパンで挟んで食べるのが定番だって、やって見せてくれた。
何それ、美味しいに決まってるよ……!
その隣の屋台はふかし芋にバターを載せたものを売っていた。
とろけたバターが反則すぎる……!
「あれも美味しそうにゃ」
ククルルくんがヒゲを向け、クンクン鼻を鳴らした。視線の先にあったのは、串に刺した白い腸詰め。焦げ目のついたパリパリの皮も、ハーブの緑も美味しそうだ。
あ、あそこにはコーヒー屋さんがある!
飲みたいなぁ。僕はちょっと甘いやつがいいんだけど……
「うううん、いろいろ見ててもキリがない! プラムは何食べたい? 僕はね……」
そうして僕たちは、それぞれが食べたいものを選び、屋台を回っていった。
「んにゃーん! おっいしいにゃあ!」
『プルルルル! プルルン!』
「ハフッ……! あー、美味しいよー!」
取り置きをお願いしたスープ屋さんの前。
そこに置かれたテーブル代わりの箱の上に、僕らは戦利品を並べ、思い思い好きなものから食べていく。
ククルルくんはハーブ入りの腸詰め。ケットシーは香りの強いハーブが苦手かと思ったんだけど、ククルルくんは「強い香りがクセになるんにゃ」って言ってかぶり付いている。面白い子。
プラムはとろとろチーズの野菜ピザが気に入ったみたい。伸びるチーズが美味しくて楽しいんだって。
そして僕は、薄い木製カップに入った魚介のスープを食べていた。
このスープ、飲むっていうより食べるって言ったほうが正しい! そのくらい具だくさん。
「なあ、坊主。これオマケな」
ひょいっと、スープ屋さんがバゲットを切って僕にくれた。
「えっ? いいの?」
「たくさん食べろよ。なんかお前、大変だったんだってなあ。住むとこあんのか?」
「えっ、おじさん、僕のこと知ってるの?」
僕は見覚えないんだけど……と思い首を傾げたら、どうやら僕たちが屋台を覗きウロウロしている間に、屋台市中に噂が広まっていたらしい。
『あの子は、先日、騒動を起こしたバスチア魔法薬店に奉公していた子で、そこの若旦那に罪を着せられ衛兵に連れて行かれ、解放されて戻ってきたら店は封鎖。部屋も追い出されたんだって』
スープ屋のおじさんが言うには、大体こんな内容だそう。
大人ばかりの広場で、僕とククルルくんが連れ立ち、プラムまで肩に乗せていたら目立つし、僕のことを知っている人もいたのだろう。かなり正確な噂だ。
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