Intense Preference《インテンス・プレファレンス》

DHM(ダフマ)

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1.性愛の種

時喰い

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96番は探し回った。襲ってくる敵をシトが倒して、大きなこの施設を歩き回る。だがどこにも奴の姿は見当たらなかった。もしかして、ここには居ないのだろうか。

『どうやら、この施設にいなさそうだぜ?どうするよ主人』

「‥‥とりあえず外に出てみる」

そう言うと96番は壁を数秒見てから、何かを訴える様にシトを見た。その何かを察したのか、シトはため息をついて口を開いた。

『あのなぁ、なんでも食えるとは言ったがこんな雑用までさせると体が持たねぇぞ?一応、俺達は共有関係なんだぜ?』

何を言っているのか分からなそうにしている96番は首を傾げた。

『俺達、性愛魔フィリアイズは主人の体から産み出された悪魔さ。一心同体、つまり俺が死ねば主人も死ぬ。俺が疲れれば主人も疲れるんだよ』

「それは逆の事も同じってこと‥‥?」

『当たり前だ。主人が死ねば俺も死ぬ、だから無駄に力を使いすぎるなと言ってるんだ。さっきの資料に書いてあっただろ?』

そう言われればそんな事が書いてあった気がする。‥‥ん?そう言えばなんでそんな事が書いてあるって言うことを知っているの‥‥?

「あのファイルはひとつしかなかったはず。私が見てたはずなのに何故中の内容が性愛魔について書いてあるって知ってるの?」

そう言われると、シトは口を閉じた。静寂した空気は96番に嫌な汗をかかせる。出会って間もないが、初めて見る反応だった。

『…適合者リストって自分で言ってたじゃねぇか。それに話聞いてたか?主人が知った事は俺にも共有されんだよ』

なんか腑に落ちないが、そういうものなのだろう。隠し事は出来ないってことみたい。

「でも私は分からないよ‥‥?」

『まだ完全に共鳴してないからだろうな。でも俺は主人の子供みたいなものなんだ、すぐ共鳴するさ』

そう、この性愛の種フィリアシードは女性の子宮に埋め込まれ、卵子に過剰反応し融合する。そこで上手く適合すれば目覚める。適合しなければ「適否化物クリーチャー」になってしまうらしい。適否化物になってしまうと、人間の原型は留めず、怪物と成り果てる。あのファイルに全て書いてあったことだ。

「わかってる、シトは私の子供。それも醜い最悪のね」

『怒らせたなら謝るぜぇ?でもまぁ、適合しなかったら死んでたんだ、有難いと思いな』

「動くなぁ!!!」

そんな無駄口を叩いていると、後ろから怒鳴る声が聞こえた。振り向くとそこには男性がいた、施設の関係者じゃないみたいで普段着の服装に似合わない物を構えている。

「この施設の奴か‥‥!?シューティを‥‥。シューティを返せぇ!!」

『おいおい、あいつどうやら勘違いしてるみたいだぜ?服装が警備隊の物だからだな‥‥』

震えた手に構えていたのはロケットランチャーだ。ここの施設の物だろうが、このままだとぶっぱなされてしまうだろう。96番は歩きながら口を開いた。

「私は被害者です、ここの実験に使われた者なの」

「近づくな!信じられるか、そんな事!」

当然の事だろう。服装もそうだが、1番の理由はシトの存在だ。こんなバケモノと一緒にいる時点で怪しまれるに決まってる。言われた通り、96番は止まった。今にも男性はロケットランチャーを撃とうとしている。

『やめとけそこの男。俺達にはそんなもの効かねぇよ』

その言葉が男性の引き金を引くきっかけになってしまった。男性は叫びながらロケットランチャーをぶっぱなした。その距離、20メートル。シトは大きく口を開けた。だがシトより前に96番がいる中で何をするつもりなのだろうか。

『《時喰いタイムイーター》』

そう言うとシトは口を閉じた。すると何が起きたのだろうか。96番の目の前で衝突しようとしていたロケットランチャーの弾が消えたのだ。流石の96番も、冷や汗をかいていた。

「な、なんで‥‥!?」

反動によって倒れていた男性が今の瞬間を見ていたらしく、驚いていた。それは96番も同じだった。

『悪ぃな主人、少し力使っちまったぜ。今のは時喰い。ロケットランチャーの弾が発射された時から主人が弾に当たる前の時までの時間を食べたのさ。すると食べた時間の部分は現実では実現しない、つまり食べた時間内の事実は全て消える。これが俺の必殺技さ、俺に食えねぇ物はねぇからな』

「私もこの子達みたいに水槽の中にいた身なんです。警備隊を殺してここまで来て、服もその死体から奪ったもの。だから私はあなたに危害を加える気はないの」

その言葉を聞いて、一瞬だけ反応が遅れた男性はその後ハッと鼻を鳴らした。

「ロケランで死なない相手に、これ以上攻撃するわけないだろ。‥‥お前もシューティと同じ立場だったって事なんだな」

「シューティって、あなたの大切な人‥‥?」

「あぁ、俺の大切な妹だ。1週間程前、知らない奴らに捕まって‥‥。やっとここまで辿り着いたんだ」

男性は立ち上がりながらそういった。ここの実験に使われている人達は別に選ばれているわけではないらしい。

『正直言うとその妹さん、適合しないと適否化物クリーチャーになってるかもな』

「やめて、怒るよシト」

96番はシトを睨みつけながら言った。シトは舌打ちしながら『合点承知』と口を閉じた。男性は不安そうな顔になっていた。それと同時に握りこぶしを作っていた。

「まだ助かるかもしれない。シト、その時喰いタイムイーターは過去の時間には使えないの?」

『無理だな、流石の俺でも過去の時間を食うことは出来ねぇ。起きちまった時間は食えないんだよ』

「そう‥‥。ごめんなさい、あなたの助けにはならないかもしれない‥‥」

「なんであんたが謝るんだよ、俺こそ悪かったよ。てっきり関係者だと思っちまって」

そう言うと男性は来た道を戻って行く。その時だった、男性の隣の水槽がいきなり破裂した。その中にいた人が液体と共に流れてきて、男性の前で止まった。その人を見た男性は目を見開いた。
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