ゆうれいコンビニ

MariO

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第1部~それぞれの日常編~

コンビニの店長はそれほど偉くない

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「ふ~ん……まあ、いいや。仕事なんて働いてるうちに何とかなるって、明日からよろしく」

 俺がバイトの面接に来たその日、履歴書に目を通した後、店長が発した一言がこれだった。色々と訳あって仕事らしい仕事をしたことがなかった俺は仕事ってこんなあっさりとやらせてもらえるのかと拍子抜けしたのを覚えている。

 しかし、実際働いてみると――

「いらっしゃいませー」
「ありがとうございます!」
「すみません! ただいま在庫を切らしておりまして……」
「申し訳ございません!」
「失礼しました。こちらでよろしいでしょうか?」

 とにかく忙しかった。コンビニ店員なんて、レジにただぼんやりと立ってバーコードスキャンしてるだけで楽してやがるとかほざいてるニート連中は今すぐ働きに来い。この嵐のような忙しさの中でどれだけ的確にかつ同時進行で店員としての仕事(前陳・FF作成・ゴミ処理・洗い物等)と接客をしなくてはならないのかという事実を理解してくれるのであれば、誰でも働けるから。

 俺の場合は先輩の教え方が上手かったのが功を奏した。その先輩店員である彼女の働きっぷりは非常に見てて参考になるもので、言葉遣いや行動を目で見て盗んで、マネをし、自分なりに理解して行動に移してみた事によって何とか一人前になれたようなものだ。

 ちなみにその先輩は俺が入って一年後に寿退社した。

 ――と、まあ、そんなわけで。あの時店長がバイト経験もなければ社会人経験すら無かった俺をあんな簡単に採用したのかがよく分かる。コンビニ業界が人手不足と嘆いているようだが、そもそもやる事多すぎるし、店によっては無理難題と言わざるを得ないノルマを勝手に課してくる本部が諸悪の根源だと思うが。ちなみに俺の店ではノルマはない。その理由をこないだ裏で雑談していた時に訊ねてみたところ。

「すぐ近くにあるお得意様やじいさんばあさんたちが近いからって理由で正月とかクリスマスみたいなイベントが近くなると色々頼んでくれるのは当然として。特にここ最近、都会から引っ越してきたセレブっぽい連中がドヤ顔で無駄に高い商品予約してくれるおかげでほぼノルマ達成してたりする訳よ」

 らしい。つか、都会から引っ越してきたセレブっぽい連中――ああ、そういえば、やたらと『私はセレブよ。平伏しなさい愚民が』なオーラを出しては色々買っていくセレブぶってるおばさんが週1・2の頻度で来てたような気がする。

 他にも、煙草や奥様から頼まれた商品を購入する時はやたらと震えているが車運転する時はシャキーンとなる奇妙な二面性を持ったじいさんや見た目は確実に堅気じゃなさそうな高校教師や必ず決まった煙草しか買わない無愛想なじいさん、足が悪いけど、スイーツの新商品を購入しにやってくるばあさん等、それぞれがそれぞれクセのある個性豊かなお客さんを相手に接客しているうちにいつの間にかコンビニ店員三年目となってしまった。

 とはいえ、基本真面目に店員をやってきたせいか店長からはそれなりに信頼され、今や俺も店長や副店長がやっている発注作業を少しだけ任せてもらえるようになった。

「……後輩。ちょっと俺、発注してくるから」

「いいですよ。任せておいて下さい」

「ヤバかったら容赦なく呼び出せよ」

「はい。容赦しませんよ、先輩」

 と、レジと前陳作業を後輩一人に任せ、俺はバックルームに入る。昼のピーク時を過ぎ、それなりに手が空くと、俺は店長から任せられたお菓子やお弁当、サンドイッチ等の発注作業をするのだが――

「……何してんすか、店長」

「おーう。お疲れ。何って、発注作業」

「今日は婚活パーティだって言ってましたよね」

「ああ。どいつもこいつもクソすぎて全員断った」

 バックルームに設置されているPCを操作しながら、煙草を吸っている店長は心底疲れた顔をしていた。
 それもそうだろう。
 この店長、年齢は四十歳でありながらも、見た目は完全に元ヤンな感じはするものの二十歳前半にしか見えない茶髪が良く似合う巨乳美人で性格もさっぱりしており、近所に住んでいるじいさんよりかはばあさんやおばちゃん、すぐ近くの保育園のお母様方から大人気のイケてるお姉さまなのだが、何故か男運に恵まれてないという。

「もしかして全員、店長のおっぱい目当てで寄ってきたんですか」

「ああ。全員、そうじゃないよ、みたいな風を装っていたが、明らかに私の胸ばかり見ていた――のは、まあ、どうでもいいのだが」

「……じゃあ、変な男に遭遇エンカウントしたとか?」

「その通りだ。実に不愉快極まりないクズだったな、アレは」

 それから店長は発注作業を進めながら、俺に話してくれた。

 店長が参加した婚活パーティーは立食形式のもので、店長がそれに参加した理由は実に単純なもので。

『飯が美味そうな上に婚活もできるとは面白い』

 本気で婚活してる人間からしてみれば店長の参加理由は実に不愉快極まりないものかもしれないが、店長自身が本気で食欲も満たしたいし結婚もしたい、そして何よりも面白い事が大好きだったりする。なので、店長は忙しい時期以外は暇があれば婚活に勤しんでいる。そういう人なのだ。

 で、立食形式の婚活パーティにおいて重要なのは『コミュニケーション力』だ。それに加えて高収入でオシャレな奴ほどモテる。店長もそういう人間を狙ってはみるものの――

『俺より年上とかマジないわー』
『その年齢だと子供は無理そうですね』
『すっげえ若作りっすね』

 どういうわけかチャラかったりクズ臭のする野郎に出会ってしまい。しかも店長はそういう連中に、

『そこにいる若い連中も年取ったらババアだし、お前だって年取ったらジジイだろ』
『確かに、年齢的に妊娠率は低いが、現代医療の力借りれば妊娠なんて容易いもんだろ。そうやって年齢のせいにして、女にばっか責任押し付けてお前は何様だよ。お前自身がまず不妊治療してくるか検査でもしてから言えっつーの』
『若作りとか言う前にお前のクソダセえ見た目どうにかしてこいよ』

 と反論し、特に二番目の奴はそれなりに高収入で顔もイケメンだったらしいが、上から目線で語ってきたので近くにあったケーキを顔面にぶつけた上で言ったらしい。

 そして今回、店長が出会った男は――

「顔は良かったし、背も高くて、おしゃれで話上手だったんだけど……」

 他にもいた若い女の取り巻きらと共に最近公開されたばかりの恋愛映画について盛り上がっていた所、その男が一言。

『女子ってそういうの、本当に好きだよな~。つか、リアルに何でもやってくれる王子様とかありえないし。夢見すぎじゃない? ていうか映画ならロックシリーズだよね。Ⅰは当然として最新作のⅥも中々見応えがあって~……』

 自分たちの話を全否定された上に急に違う映画の話をしてくるという暴挙。それに当然の事ながら店長含む女子たち全員が静かにブチ切れた。しかも、その中の一人は本当にその主演俳優のファンだったらしく顔を赤くして目に涙を浮かべていたのを店長が見逃すはずもなく――

『そうだね。確かに夢見すぎてるよね』

『ですよね~、さすが年長者分かってる~』

『けど、夢は誰でも見ます。映画に出てくるような完璧超人で綺麗な顔した王子様と恋愛したいと女性なら誰でも夢見ますよ。男性だって女性に夢を見ますよね? おしとやかで自分に尽くしてくれて、優しくて、毎日食事も洗濯も掃除も性欲処理もしてくれる上に将来的には自分の親の世話までやってくれるような都合のいい女と結婚して楽したいんですよね?』

『え……いや、その……』

『そういえば、ロックシリーズのヒロインがそういう女性でしたね~。けど、最新作でついにヒロインが主人公の身勝手さにキレて離婚したのは衝撃でした~』

『あ、うん。そうだね……』

『じゃあ、小野村さんって将来的に結婚して離婚したいんですね。すっごーい!』

 と、笑顔で怒涛の超反論をかました店長はそのまま婚活パーティーから帰ってきたとの事。

「さすが店長。相変わらず、キレッキレですね」

「そんなつもりはないが、つい……カッとなってしまうんだ……」

 またやってしまった、と落ち込む店長。しかし、元レディース総長で曲がった事が大嫌いな真っ直ぐな彼女は誰よりも美しい。だからこそ、俺も他のスタッフもこの仕事を続けていられるのだ。

「……おっと、こんな昼間に団体様が!」

「ん。ああ、本当だ。ふむ、私も着替えて少し手伝うか」

「婚活パーティー終わりで申し訳ないですが、頼みます」

「ああ。先に行け」

「はい! じゃあお先に!」

 本日もコンビニは忙しいのであった。






【おまけ】
 団体客が去った後、棚の陳列作業を分担して行い、それからレジに入っているお金の確認作業や売れたFFの作成と補充。前陳など色々とやるべき事をやっていると、時間などあっという間に過ぎてしまう。これがコンビニ店員。

 そんな怒涛のシフトが終了後、店長と俺と後輩の三人で何となく雑談。以下、その内容。


後輩「店長は婚活パーティーを抜け出してきてたようですが」

先輩「勝手に霊視してんじゃねーよ」

後輩「店長、大人気ですね」

店長「……どういう事だ?」

後輩「私が霊視した所、店長がパーティー抜け出した後、参加してた女性全員が店長に心を奪われてしまったようで」

先輩「何それ」

店長「それは私のセリフだ。何だそれ」

後輩「言葉の通りです。店長、あの外面だけのクソイケメン狙いでしたよね」

店長「まあな。顔は好みだったからな」

後輩「で、同じく彼を狙っていた彼女らともコミュニケーションを取り、意気投合と」

店長「……こいつから話は聞いていたが、ゾッとするぐらいに正確だな」

後輩「ええ。我ながら凄いですよね」

店長・先輩『自慢かよ!』

後輩「実を言いますと、あのクソイケメン略してクソイケですが、店長が来る前から自分に寄って来た女の子に『俺凄いぜ』アピールがクソウザだったんですよ。それでも年収は二千万らしいから全員我慢してたようですが」

先輩「お金のパウァ凄いな」

後輩「ですね。パウァって頭悪そうな表現ですね、マジウケル~(棒読み)」

先輩「お前もお前で無表情でマジウケルって言われると地味に怖いんだけど」

後輩「で、そんなクソイケがクソウザぶちかましてる時に店長がやってきて、いい感じに場をまとめてくれたんですよね」

店長「まあな。何となくで最近観た映画の話してみたら、思いのほか盛り上がってな」

後輩「それが功を奏したんですよ。そしたら、クソイケがクソ本性を出してきやがったようで」

店長「ああ。顔が良くてもアレはさすがに無いわー」

後輩「店長。確かに顔はいいようですが、あのクソイケ年収二千万は嘘ですよ」

店長「……は?」

先輩「うわぁ……それ、マジ?」

後輩「マジです。クソイケは親の稼ぎで暮しているクソニートです」

店長「……」

先輩「店長。ショックかもしれませんが、こいつの霊視はかなり正確です」

(主人公から店長へ「分かってますよね」的なアイコンタクト)

後輩「両親も両親でかなり手を焼いているようで、何でもいいから誰か好きな人ができれば変わってくれるんじゃないかという思いで婚活パーティーに参加させたようですが」

店長「結果はまあ、私のせいで台無しになったという訳か……」

後輩「いいえ。むしろ、店長のおかげでクソイケに目がくらんでいた女性らは一気に目を覚まし、他の良縁に巡り合えたようですね。特に泣きそうになっていた大人しい感じの女性は素晴らしい良縁に巡り合ってます」

店長「……そうか。それはよかった」

後輩「店長もそのうち良縁に恵まれるんじゃないですか――と、私は未来予知はできませんので単なるその場しのぎのなぐさめにすぎませんが」

店長「……ありがとう。なるほどな、私としたことが、とんでもない悪縁を結ぼうとしていたようだな。ま、今回は、それを回避できただけでもよしとするか!」

後輩「その意気です。店長カッコイイー」

店長「感情がイマイチ込められてないようだが、面白いから、まあいいか」

先輩「あ、そうだ。店長。ここで深夜勤務のみでバイトしたいっていう男性から連絡ありましたよ」

店長「……ほう。それはありがたい。どんな奴だ?」

先輩「外国人です。カタカナ混じりでしたけど、日本語は大丈夫なようです。あ、これ連絡先のメモです」

店長「……ふーん……じゃあ、こいつには私から連絡しておこう。じゃあ、お疲れさん」

先輩「お疲れさまです」

後輩「お疲れです」

 店長の婚活は続く。
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