サモンサポーター ~魔族との契約お手伝いします~

八三

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3 アレクとルディアス Ⅱ

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光の奔流を、アレクは今でも鮮明に思い出せる。



***



サモンサポーターにとって、力のある魔族契約出来るかどうかは、そのまま店を上手く続けていけるかどうかという事に繋がっていた。
親身になりよく相談に乗ってくれる先輩サポーターは何人かいるが、そのほとんどが魔族の中でも力のある方だといわれる種との契約を成功させている。常人よりは魔力を持ち、共感力が高い人間が自分で召喚を行うのだ。それも当然と言ってしまえばその通りだが、その枠に入れなかったサポーターも中には当然存在する。

「…………」

頼む。と、普段なら胡散臭がって頼らない神に頼み込むくらいに真剣に、魔術陣に魔力を込めていく。
お前なら大丈夫、という先輩の言葉が蘇った。
この道1本しかない、という訳ではなかったが、それでもせっかくの才能を活かせ、且つ成功出来れば確実に食べていくのには困らない生活が約束されている職だ。成功させたいに決まっている。
周囲の魔術陣に光が灯っていく。気合を込めてあちら側の次元に向けて発動させ、待つ。ひたすらに、待った。捕まるまで止めない、と決めていた。

「―――!」

反応があったのは、それから少し経ってからの事だ。思っていたよりもずっと早い反応に、心臓が高鳴る。思考がこの後の対価の事へと飛躍しそうになって、すぐに頭を切り替えた。今は目の前の事に集中しなければ。
がっちりと繋がっている別の次元のそれを、こちらの次元のものへと合わせてやる。姿が現れる、と思った瞬間、淡かった魔術陣の光が突然弾けた。

「っ、なんだ!?」

バチ、と音を立てて、まるで稲妻が走るような光の奔流。さすがに慌てて周囲を見渡した。まさか失敗したのか、と冷たい汗が流れる。
光はある箇所を中心に激しくうねっているように見えた。自分のいる場所より、数歩先へ行った場所。そこに何が、と目をこらし、アレクは瞠目した。
ゆっくりと光が収まる。明かりを絶たれた部屋の暗闇が戻ってくる。だというのに、彼は輝いて見えた。
血のように鮮やかな紅い髪が魔力の流れに舞い、その色彩にも負けないほど鮮やかな金の瞳がこちらをじっと見つめている。その視線をぽかんとしながら受け止め、思わず自分の口が開きっぱなしになっていなかった事を褒めたくなった。開いていたのなら、きっと『綺麗だ』なんて間抜けな感想が飛び出していた事だろう。

「……天属、ルディアス。魔力と引き換えに協力しよう」

天属。天属と言ったか、とアレクは耳を疑った。それと同時に納得した。なるほど、それならばこの魔力、そして容姿も道理だ、と。

「……ああ、助かる。俺の魔力で良いのなら食ってくれ。その代わり、サモンサポーターとして店を成功させる。それが条件だ」
「……了解した」

予め提示した条件だ。問題ないだろうと思っていたが、そうなって良かった。まだ対価を支払った訳ではないが、向こうが了承した以上この契約は成功だ。店を成功させる事が出来たその時には、こちらも対価を約束しよう。

「……しかし、天属か……。A級で済むのか……?」
「……えーきゅう?」

独り言に思わぬ反応があって、アレクは顔をあげた。ぴくりとも変わらない表情のまま、天属―――ルディアスが微かに首を傾げている。

「……ああ、ランクだな。サモンサポーター達の中で、契約の内容や契約した魔族の種類なんかでランクを分けているんだ」
「そうか……。えーきゅう、とは?」
「ちょっとした手伝いだとかそういうものは低ランクのEやD級。それとは反対に、企業を立ちあげるだとか、冒険のパートナーになるだとか……そういった、必然的に日数がかかるようなものは高ランクのA級に分類されるんだ。……加えて、お前は天属だろう」
「ランクが高いと良くはないのか」

いや、とアレクは首を捻る。

「悪いという訳じゃない。成功させる事が出来れば店やサポーターの評判は上がるし、入る報酬だって良くなるからな。……ただ、その分契約者が支払う対価が大きい、という話だ」

そしてこの場合、アレクは自身で自身の契約相手を召喚した訳であり、評判や報酬は関係ない。対価が大きくなるのは仕方が無いが、自分で決めた事だ。何をどう支払うのかをきちんと理解した上で、自分は店を成功させるために魔族を召喚したのだから。
そう言うと、ちっとも変わらなかったルディアスの表情が初めて変わった。と言っても、ほんの少し目が細まる程度ではあったが。それが良い感情からか悪い感情からか、さっぱり分からない。
 
「お前は、どう思っている?」

どう、と、尋ねられると。アレクは素直に答えた。

「正直なところ……助かった、と思っている。俺はこの店しかないというほど切羽詰まっている訳では無いが、店を成功させたいと願っているのは本当だ。だから、高ランクになろうとも、力のある魔族と契約を結べるのは嬉しい」
「…………。俺が何を要求してもか」

それは少し困るな、というのが本音ではあった。体を繋げるという事なら、まあ、覚悟しての事だ。不満はない。ただ、先輩から聞いた話では、契約の内容によっては―――初めからこれを目的という事はあまりないらしいが―――後々に魔族の子を産む事も、ままあるのだと言う。
子供。自分と魔族の。さすがにそこまではまだ考えられない。

「……子供を」
「子?」
「産め、と言われると、少し、困る」

だから、正直にアレクは答えた。そこまでは考えられない、と。

「…………。……いや、俺も、そこまでは要求しない」

さすがに、とルディアスすら首を振った。天属は繁殖力が秀でて高い種ではあるが、だからと言って繁殖をする事しか考えている訳ではない、と。

「そ、そうか。……あ、気を悪くさせたのならすまない」

内心ホッとしながらもアレクが謝罪すると、ルディアスは特に気にした様子もなく軽い様子で首を振った。

「……それで、お前の店というのは? ここか?」
「いや、ここは先輩の店だ。俺の持つ店はまだ内装が完成していないから、今だけ貸してもらっている」
「そうか。ここに住んでいるのか?」
「居住スペースは完成してるから自分の店に住んでるよ。店、というよりは半分家だからな。……来るか?」
「ああ。俺もそこで生活をするのだろう?」
「それは……そうだけど」
「何か問題があるか」

問題、とかいうのじゃなく。と、アレクはさっと目を逸らした。自分から言い出すのは気まずいような気がするが、後で貰っていないと文句を言われても困る。

「さ……先に、少し、支払わなくてもいいのか」
「……? 何を」
「何って……対価だろう」

間違いなくA級にはなるだろうから、と先輩はこの部屋を貸してくれた。魔術陣に適切な暗さだけではなく、しっかりと防音機能もあるからだ。防音がついている理由は、対価を考えると当然とも言えた。
EやDであれば防音が必要な事態にはならないが、BやAともなれば、対価とは別にその場で内金として体を1度味わうくらいの事はよくある。ここの主人であり、当然この場所でかつて契約を済ませた先輩も、契約成功してその場で1度致したのだと言う。無論、契約の対価と言える極上の濃度の魔力は、快楽に何度も何度も慣らして繰り返させる事で魔族自身の魔力をも滑らかに受け入れるようになってから、のものであるが。

「この場で……か?」
「…………」

アレクが頷く。それを見て、ふむ、とルディアスは呟いた。

「俺が対価としたのは、快楽に慣らし、出来うる限り濃度を高め尽くした魔力だが……そうだな」

じり、と金の目に熱が宿る。

「……少し、様子を見るのも悪くは無いか」

距離を詰められた。そこで初めて、相手が思っていたよりも背丈がある事に気づく。アレクとて背が低い方ではない。むしろどちらかと言えば高い方だ。見下ろされる事に慣れておらず、自分をどうとでも出来る力のある相手に上からじっと見つめられ、居心地の悪さに無意識に肩を竦めた。

「……人間はどこで快楽を得る? 今後のためにも知っておきたい」
「…………妙なところで真面目だな、お前……」

不真面目よりはずっと良いか、とアレクは部屋の隅に移動した。誰も見ていないとは言え、部屋のど真ん中で堂々と行為に及ぶのは何となく気まずい。しかもここは他人の店だ。

「……お前達は? どうするんだ? ……見たところ、人間と変わらない体をしてそうだが」
「他の種は知らんが……俺達は、ここを使う」

ここ、とルディアスが示したのは彼自身の股座。衣服があるためその下がどうなっているかまでは分からないが、大体の位置は変わらなさそうだ。
魔族の種は多種多様。同じように見えても性交の仕方が全く違う、なんて事もザラにある。

「人間も一緒だ。……その、天属の……性器というのは、どうなってる?」
「普段は隠してあるが、使う時にはここから出す」
「服を脱ぐ、という事か?」
「違う。これは人間界に来る時に馴染むよう最適化しているだけだ。魔界では俺達はこんな布は纏わない」

驚きだ。まさか天属が裸族だったとは。

「じゃあ、隠す……というのは」
「体の内側にという事だ。……見るか?」
「い、いいのか?」
「いずれはこれを使うんだ。何も問題はないだろう」

その通りだ。頷いて、ルディアスが衣服を脱ぎ去るのを見守る。隠されていたそこは、人間とほとんど同じように見えるが、本来ならば性器が生えているはずのそこには何もなく、代わりに薄らと縦に線がはしっていた。

「……ここに?」
「しまってある。急所だからな。……人間は常に出しているのか?」
「ああ。……というか、しまえるような構造をしてないんだ」
「……難儀だな」

子供の頃は不注意でぶつけて悶絶したものだ。ボール遊びで間違ってぶつけられた時など、もう、言葉に出来ない。

「……人間のそこも、見てみたい」
「……ん」

人に出させておいて自分は嫌だ、というのは筋が通らないだろう。どうせいつかは見せる事になるんだ、とアレクは震えそうになる手で前をそっと寛げた。太ももまで服を下げると、当然だが何の反応もしていないそこが空気に触れる。

「…………」

しげしげと観察される、というのも妙な感覚だった。いたたまれず、視線を明後日の方へと投げる。

「んっ」

突如刺激を与えられて、アレクは思わず肩を跳ねさせた。見下ろせば、ルディアスが指先で性器をつついている。反応を見ているのだろうか。

「このままで使えるのか? 頼りなくはないか」
「……いや。勃たせてから使うんだ。射精の準備に入ると自然と勃つが」
「ふむ。……俺達で言う、性器を出した状態という事か。己の意思で勃たせるのか?」
「……まあ、大体は興奮して自然と勃つか、触れて勃たせるな……」
「触れるのか。……こうか?」

ぎゅ、と存外強い力で握られて、アレクは痛いと声をあげた。パッと手が離れ、今度はそっと触れてくる。

「すまない、力加減が分からなかった……。これは?」
「……っ」

親指の腹で撫でるようにされ、うずくような刺激がはしる。ほんの少し熱を持ったそこが頭をもたげた。

「反応があったな。……気持ちが良いのか」
「…………、悪く、は、ない」
「…………」

気を良くしたのか、手のひらで包まれてやわやわと揉まれる。先ほどよりも直接的な刺激に、今度こそ腰がぐんと重たくなった。

「ぁ、うっ……、んっ」
「……なるほど。1箇所を刺激するよりも、全体の方が反応が良いな」
「は……、全体も、だが……っ。特定の箇所を刺激すると、より反応が大きくなる場合っ、も、ある」
「特定の? 例えば」

自ら弱点を晒すのは少々気が引けるが、今後のためにも人間の快楽のツボを知っていて損は無い。むしろ知っておいた方が良いに決まっている。
ここ、とアレクは自らの鈴口を指先で示した。

「デリケートな、場所だから……そっと、」
「ここか」
「ぁ、ああっ!」

言い終わらない内に、ルディアスが指先でそこをぐり、と押した。痛みと快感が混じり、腰が痺れる。
壁に背を預けて立っていたのが膝に力が入らなくなり、ずるずると床に尻をつける事になった。

「すまない、痛かったか?」
「……っ、……! すこ、し……。もう少し、優しく、触れられるか……?」

呼吸を荒らげながらもそう助言すると、ごくりと微かな音が聞こえた。ルディアスの喉が動く。生唾を飲み込んだ音だったようだ。見下ろせば、ただの線だった下腹から、人間のそれとほとんど同じ性器が外へと出て上を向いている。そうしているのを見ると、本当に人間の男と変わりないように見えた。

「興奮すると、出てくるんだな」
「そうだ。だから、外へ出す時は使う時と決まっている」
「ん、……ふぅ、……は」

触れるのに慣れてきたルディアスの手付きが、確実に快楽を与え始めて来ているのに気が付き、アレクは大きく息をした。そんなアレクの様子をつぶさに観察しているおかげか、どのように触れれば気持ちが良いのか、という事をルディアスは徐々に学習してきている。

「ん、んー…っ! はっ、おまえ、本当に、人間は初めてっ、か……!?」
「そうだが。……おかしいか」
「ひ、……ぅう、んっ! ちが、……そ、じゃなくて、……はあっ。……逆だ。ずいぶんと……ぅ、あうぅ……っ!」

他人にそこを触られる、という経験がほとんどないアレクはルディアスの手に過剰に反応してしまい、今にも限界を迎えそうになって半ば慌てて腰に力を入れた。そうでもしなければ、すぐにでも達してしまいそうだったからだ。

「ふ、っ、ぁ……ふぅう……! も、……ちょっと、まっ……ぁ……!!」
「何故。こんなに脈打って苦しそうだ。我慢せずに出せ」

確かにアレクが我慢している意味は、言ってしまえば全くない。プライドというか、意地というか、そういう事だった。
ふる、と首を振って拒否の意を示す。内金を渋ってどうするのだ、と冷静だったらちゃんとそう思えただろう。だが、快楽と羞恥に呑まれ、こう見えて冷静さなどとっくに失ったアレクはびくびくと腰を跳ねさせながら、感情のままに振る舞う事しか出来なかった。

「……ぅ、っ……! ふ、く……ぁあっ、も……ぅ、出……っ!」

ぐうっと体を縮こまらせ限界を迎えようとするアレクを、ルディアスは興奮を覚えながらもまだ半分は冷静な頭のまま、高みへと追いやっていく。水っぽい音を立てて擦ってやると手の平の中のモノは熱く震え、ますます固くなっていった。人間が射精する様子を間近で観察しようと顔を近付けようとした、その時。

「ぁ、あ……っ、んゃ、あああっ……!」

今までよりも一際高い声を出しアレクがとうとう限界を迎えて大きく腰を震わせた。びくびくと揺れるそこから、白くどろりとした精が勢いをもって吐き出される。自分でする時と全く違う、人から与えられる快楽の大きさ。白く弾けた頭では何も考えられず、アレクはただ翻弄されるばかりだった。
そして、その余裕のない甘い声、快楽に蕩けた表情、目。そういったものを間近で見てしまったルディアスの下半身に、急激に熱が集まる。

―――もっと見たい。

何を考える暇もなく、そう思った。
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