魔界の覇王が勇者をやるそうです

バナナの人

文字の大きさ
6 / 8
エルフの里編

第6話

しおりを挟む
 ざっと周囲を見渡す。未成熟なエルフのメスに人間の成熟した雄が三匹。状況を見るに、このエルフが三人に追われていたと見るべきか。目的はさっきのを見るに交尾、前世で言う強姦か。

「ひとつ確認したい。さっきのはお前たちなりの交尾の試練か?」

 俺たちの一族では交尾相手を選ぶ基準として飛行能力が挙げられる。飛んでいく女王蜂と共に新天地へ行ける者のみが交尾の権利を握れるのだ。ついていけなかった雄は死んで土や他の生物の養分となる。
 他にもメスと戦って勝利したり他の雄と取り合うことで強さを示したり、メスを糸で捕縛することで頑丈な糸を作れることをアピールしたりなど。様々な場面で雄たちは篩にかけられる。
 それが自然なのだ。遺伝子を残すことが出来るのはその競争に生き残った雄のみ。その種族の求める強さを持つ個体のみが子孫を残せるのだ。
 その強さの基準は生物によって異なる。さて、この世界の人間やエルフはどうなのか……。

「は?いきなり何言ってやがるヘンテコ格好野郎」
「女なんて浚ってヤッちまえばいいだろうが。強い男が女を犯すなんて当たり前だろうが」

 なるほど、この世界ではそういうルールらしい。
 たしか魔獣族にそんな個体がいたな。オスがメスを追いかけて脚力を試し、直接戦って戦闘力を試す鹿が。名前は確か……ピティフルフールだったか?

「そうか。ならば仕方ない。交尾の邪魔をして済まないな」

 俺は踵を翻して去ろうとする。すると突然背中に何か飛んできた。

「なわけねえだろうがァァァァァァァ!!!」
「あべしッ!!」

 少女は俺の顔面を殴ってきた。解せぬ。

「何をする?」
「ナニ冷静に返してんのさっき吹っ飛ばされるモヒカンみたいな顔してたくせに!」
「貴様が殴ったからだろ」
「うるさい!」

 何をそんなに怒鳴っている? やはり発情期のメスは前世でも魔界でもここでも適わんな。

「どこの世界に犯されて喜ぶ淫乱がいるのよ!? バカじゃないの!?」
「いるぞ。ピティフルフールという凶悪な魔物でな、牡牝揃って凶暴な鹿だ。繁殖期では雌を屈服させて交尾しようとし、雌は弱い雄を嬲ってからその巨大な角で串刺しにしていった。ちなみに勝率としては雌が8で雄が2だ」
「怖すぎでしょその自然界!という女の方が強いの!?」

 俺が説明するとエルフの女は驚いた。

「見て分からないの!? 強姦よ強姦! 私はこのケダモノたちに犯されかけてるのよ!」
「ん?交尾の儀式ではないのか?」
「違うわよ!!」

 どうやらさっきのは後尾の儀式ではなくただの強姦だったらしい。
 そうだ、忘れてた。人間は俺たちとは違い個としての我が強く、余計なことを考える非合理かつ面倒な生物だ。
 ……俺も昔は人間だからよくわかっているはずだ。どれだけ人間が面倒で分かりづらく、そして生きにくい動物なのか。

「そうか。ならこのメスは回収する」
「え? あ……ちょっと!?」

 少女を担いで回収する。エルフとはいえ扱うのは脆い人体だ。あまり乱暴に扱うわけにはいかない。

「おい待ちやがれ!そのどこの誰かは知らねえがソイツは俺の物だ!置いていきやがれ!」
「断る。彼女は群れの子供だ。断じてお前らの物ではない」
「おい、何かっこつけてんだ?こっちは三人いるんだぞ」
「関係ない、俺の役目は群れを守ること。なら襲われている里の仲間を助けるのは当然だろ?」

 つい前までは蜂だったが今の俺はダークエルフ、彼女たちの同胞だ。そして里での役目を与えられた以上それを果たすのは生物として当然のこと。この世界では知らんが俺はそうやって生きてきた。

「ふーん。じゃあさ……死ねや!」

 男はいきなり剣を振り下ろす。まるで止まっているかのような動きだ。隙だらけで無駄も多い。この程度で兵士として使い物になるのか?

「うざい」
「はぐしッ!!」

 軽く裏拳を当てる。速さを重視した突き出しただけの拳だ。俺としては攻撃のうちにならないのだが、相手は派手に吹っ飛んでいった。

「て…テメエ!」
「よくもやりやがったな!?」
 
 先にやったのはお前たちだ。俺は別にお前と戦う気はないし、そんなことしても俺には何の利益もない。むしろ時間を無為にするだけだ。
 けどそっちがその気なら仕方ない、実験も兼ねて早く片付けるか。

 触角に集中して脳にダメージを与える電波を出す。これは向こうの世界では当たり前のように出来たし大抵の相手には防がれたが……。

「「ぎゃああああああ!!?」」

 どうやらコイツらはあっさり倒れた。
 弱い、弱すぎる。この技は簡単に防ぐことが出来るし、さっきの拳だってハエを追い払う程度の威力だ。それで倒れるなんて、同じ種の勇者も高が知れる。

「もう脅威はなくなった。これで自力で歩いても問題ないはずだ」
「………‥はッ! は……はい!」

 呆然としていた少女は意識を取り戻して立ち上がってその場を去った。

「……え? あ、ありがとうございました~~~!」

 少女はこちらを振り変えることなく、脱兎のごとく去った。いや、あれは逃げたというべきか。
 脅威がなくなったというのにあれほど恐るなんて妙だとは思うが、哺乳類は恐怖に過剰反応する生物だったな。
 前世では人間は身体も精神も痛がりだったが、この世界でもそうらしい。

 人間の精神の脆さはよく知っている。引きこもっていた俺が言うんだから間違いない。……そんな俺が強い精神を持つ魔蜂に生まれたのは正解だな。

「……そんなこと考える暇などないか」

 その場を軽く右に跳ぶ。すると俺のいた場所に突然風の塊がぶち当たった。
 風の刃によって道が削られて石の破片が飛び散る。風によって巻き上げられた土が視界を遮った。
 人間程度なら即死だが今の俺はどうだろうか。身体能力自体はそれほど大きな変化はないが、身体(ベース)はダークエルフだからな。…‥いや、危険な冒険は避けようか。

 土埃が止んで視界が戻った。俺のいた場所には緑色の髪をオールバックにした高校生ぐらいの少年がいた。
 鎧や武器は中世ヨーロッパの騎士らしいが、下に来ている服は学生服に近い。しかも所々チャラチャラした感じであり、剣の柄にはデカいストラップが付いている。……コイツ戦う気あるのか?

「……不意打ちは失敗かよ。大分離れてたのによく気づいたな」
「エルフの耳はめちゃくちゃ良いんだよ。空から狙ってるの丸分かりだったぜ」

 これは半分嘘だ。聞こえた感じは虫だった頃と同じだったが、まだ少し違和感がある。おそらく聴力は前と同じだが、器官が違うせいでまだ脳が追いついてないようだ。

「しかし俺の攻撃を避けるとはテメエただのエルフじゃねえな。もしかしてお前がエルフの里の『魔王』か?」
「魔王? 俺は勇者と呼ばれたが……」
「あん? そりゃ敵国の勇者は魔王みてえなもんだろ。戦争で自国の英雄は敵国では犯罪者ってよく言うじゃねえか。……って、お前ら未開地人に言っても分かんねえか」
「なるほど理解した」

 たしかにそうだ。前世でも戦争では相手国を徹底的に悪者に仕立て上げようとしてたからな。その象徴を特に悪く言うのは当然のことだ。
 しかし敵が悪者でないと攻撃できないなんて人間は不便だな。敵対する理由なんて自身の利のためで十分じゃないか。……って、俺も自身を守るために相手を悪人にしていたな。

「理解しちまうのかよ。……まあいい。とりあえず俺とお前は敵ってことだ。だからどうするかはわかってるよな?」
「……無論だ」

 相手の魔力の高まりを見て俺は構える。
 ほう…‥。それなりに高い魔力だな。全盛期の俺の力と比べるとカスだが、今の慣れないこの体ならいい勝負になりそうだ。

「エルフの里の勇者、バトラ。さあ、俺に生きる実感を与えてくれ!」
「仕事はスマートにやるもんだぜ。……ウィンディール共和国の勇者、風早北斗! 魔王を討伐するぜ!!」

 この世界に来て初めての戦闘だ。退屈させるなよ、もしつまらない戦いならば貴様の祖国ごと塵に還してやるからな!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...