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赤ちゃん編

お勉強します

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「あ~」

 翌日の日中、俺は兄さん達の授業に出ていた。
 俺は言葉を理解し、そして普通の子よりも泣かないので参加を認められた。俺はやるって言った覚えはないんだけどね。

 けどまあいい。俺は既にこの国の言葉をマスターした。この三か月間、俺は基本的な会話ならば理解出来るようになっている。
 まだ言葉をしゃべったことはないがその気になればお披露目出来ると思う。……したら面倒になるからしないけど。

 さて、話が出来るなら次は文字だ。故にここで勉強するのは俺にとって大変意味あることなのだ。

「だ、旦那さま?この子は……?」

 家庭教師の男性が凄く気まずそうな目で俺を見る。
 当然だろう、俺はまだ赤子。通常ならば授業など理解できるはずがない。
 加えて突然泣いたりオムツ替えなどで授業妨害するのだ。教師にとってはむしろ邪魔になるであろう。
 だがそれは通常の赤ん坊だ。俺は普通とは程遠い赤ん坊でな、そんな心配はないのだよ。

「大丈夫ですよ先生。だってライトは賢いもん」
「そうそう。ずっと泣かないしおトレイも時間通りだし。本当にお利口さんね」
「全くだ。未だにネションベンの直らないどこかのじゃじゃ馬よりもずっと立派だ」
「「それどういう意味!?」」

 双子のお怒りを無視してステイン兄さんは勉強に戻る。
 本当にクールな人だ。7歳児とは思えないような落着きと冷静さ。もしかし俺と同じ転生者ってオチじゃないよな?

「いいでしょう。ですがもし授業を妨害するようなことがありましたら部屋に戻ってもらいますからね」
「あう」

 返事すると教師は少し驚いた顔をしながらもすぐに平常心に戻って授業を開始した。

 授業の内容は読み書きだ。それぞれに教科書が渡されて文字について先生が説明して書き取りをした。
 ステイル兄さんはある程度習得しているので文法などを覚え、アウラ姉さんとステラ姉さんは単語を書き取りしていた。もちろん俺は書くことなど出来ないのでただ文字に目をやることだけだ。
 だがそれで充分。前世で英語が得意とはいかなくてお大学受験出来る程度の知識と経験はあるのだ。おかげでこの世界の文字について大分わかった。

「(……なるほど)」

 文字はアルファベットに似ているが若干違う。どちらかというとギリシャ語のα(アルファ)とかΔ(デルタ)とかφ(ファイ)とか。そういったものが多い。
 文法も発音も違いがあり、正直英語の知識は参考程度にしかならない。むしろ混合しそうでかえって邪魔になることもある。

 そして英語最も違う点。それはその文字の1つ1つを縦横様々に組み合わせ意味を作り上げて言葉にするという、漢字に似た特性だ。
 だがこれを使うのは学のある一部の貴族や王族だけで俺たちは別に学ぶ必要はない。だが使うことで知的に見せることが出来るので覚えるのに損はないらしい。
 ちなみにアルファベットに似た字を素字(そじ)、漢字に似た字を組字(くみじ)と呼ぶらしい。

 とりあえず今は文字を覚えることだな。俺は脳内で何度も書き取りして文字を覚えようとした。

「では次に本を持ってきましたのでこれを参考にしたいと思います。ステイン様は剣術の本、アウラ様とステラ様は絵本、ライト様は……赤ちゃんだから絵本でいいのよね?」

 教師は戸惑いながらアウラ姉さんたちと同じ絵本を渡した。
 内容は人魚姫。内容はディッカに読んでもらった胸糞悪いものではなく、ちゃんとしたハッピーエンドだ。……やっぱディッカの奴、本の内容ゆがめて教えやがったな。

 なんてことをしてくれたんだ。もし友達ができたりして話す時、間違ったことを覚えて恥をかくところだってはないか。

 本当にディッカは恐ろしい。これからも注意しなくては。

「……本当に泣かないわね、むしろ授業に集中しているみたい。……少し気味悪いわね」

 小声だが聞こえているぞ。しかし普通の人から見たらそうか。……気を付けねえとな。
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