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冒頭試し読み
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○ 創世の別邸・玄関
創世:「こんな時にそんな本を届けにこんなところまで来るなんて、きみは一体何を考えて生きているんだい?」
壱人:「こんな時にこんな本を置いて行方をくらますなんて、あなたが一体何を考えているのか知りたかったんですよ」
創世:「(笑って)言うようになったな。少し前までは、兄と同じように俺の顔色ばかり伺っていたのに」
壱人:「これは、兄さんが書いたものじゃない。……ならば恐らく、あなた自身が書いたのでしょう?」
創世:「なぜそう思う?」
壱人:「そうじゃなければ、こんな意味ありげに僕に押し付けていく理由がない」
創世:「俺が書いたとしたら、その理由があると?」
壱人:「わからない。けど、それを確かめる意味でもあなたに会いに来るしかなかった」
創世:「あんなつまらない町で最期を迎える気にはならなかったから出て行った。その本は要らないから置いて行った。それだけだったらどうするんだい?」
壱人:「そんなはずはないです」
創世:「なぜそう言い切れるの?」
壱人:「なぜ自分の家にではなくわざわざ僕の家に置きに来たんですか。意味がわからないじゃないですか」
創世:「それはあれじゃないか? 最後くらいきみに、本当の俺の作品を読んでもらおうと思ったからとか」
壱人:「それで僕にどうして欲しいって言うんです」
創世:「さあ? 今思いついただけだからね」
壱人:「…………」
暫しの沈黙。
壱人:「………………帰ります」
創世:「全く、何しに来たんだか」
壱人:「…………(腑に落ちない気持ちで睨む)」
創世:「じゃあね」
壱人、ドアに手をかけ出ようとする。
壱人:「失礼しまし――!?」
創世、突然壱人を後ろから羽交い締めにする。
壱人:「え!? ちょ、ちょっと、なん……(口を塞がれる)」
創世:「なーんてね。帰ってどうすんの? ……帰ったって、何もないでしょ」
壱人が眠ったのを確認してずるずると奥の部屋へ引きずって行く。
○ 同・奥の一室
壱人:(N)……ここは…………どこだ…………?
…………僕は、……あの人に………………本当は……
創世:『壱人くん』
壱人:(N)……創世さん…………?
創世:『大丈夫。きみと零介(れいすけ)に何かあったら、俺が二人を助けてあげるから』
壱人:(N)……そっか……安心だ…………あなたがいてくれて、よかった。
○ 少年創世記・1
創世:(N)少年創世記。
これは、「アダム」と「イブ」という二人の少年から人類が始まった世界の話。
アダム:「イブ、神の使いの言葉を聞いたかい?」
イブ:「神の使いって、あのヘンテコな岩みたいな奴でしょう? あんなものの喋る言葉なんて、聞く気にならないよ」
アダム:「あれは本体じゃないよ。神の使いは、神様の傍にいるんだ。本体は僕らには手の届かない、空の上の、ずっと上の方にいるんだって」
イブ:「へぇ~。そんなことまで知っているなんて、ずいぶんたくさんお喋りしてきたんだね」
アダム:「神の使いの話を聞くのと、きみとこうして会話をするのとは、全然違うよ。あれは必要な情報の伝達だ。それ以上の何でもない」
イブ:「そう。ごめん脱線させちゃって。何? あの岩が何を言っていたって?」
アダム:「あのね、僕たちは今、この世界に二人きりで、これからもずっとそうなんだと思っていただろう?」
イブ:「え……思っていた、って、なぜ過去形なの?」
アダム:「それがね、どうやらこの世界には、僕たちのような『人間』という生き物が、これからどんどん増えていくらしいんだ。僕たちはその最初の二人なんだってさ」
イブ:「え……」
アダム:「驚くよね。でも本当のことなんだよ。神の使いは嘘を言わないから」
イブ:「でも、ぼくはアダムだけがいればいいのに……。他の『人間』なんて、どんな気持ちで迎えればいいっていうの?」
アダム:「僕も初めはそう思った。でもね、話を聞いてみると、そんなに悪いことでもなさそうなんだよ」
イブ:「どういうこと……?」
アダム:「あのね、これから増えていく新しい『人間』っていうのは、僕たち二人が作っていくんだって」
イブ:「???」
アダム:「僕とイブが、このままもっと愛し合って、一番深く愛し合った時に、その証として、新しい命が誕生するんだって」
イブ:「(あまりピンとこない感じで)ん~……? ん~……それって、どういうことなんだろう?」
アダム:「僕も詳しいことはよくわからないけれど、でも、それはきっと、とても素敵なことだよ。新しい命が生まれたら、今度はそこからまた、次の命が生まれる。ね? これから『人間』というものは、僕たちが愛し合った証だけで増えていくんだ。それがこの世界なら、ここはとても幸せな世界になると思わないかい?」
イブ:「へぇ~……そっか。うん。悪くないね。なんだかぼくたちに都合が良すぎるような気もするけれど、ぼくたちにとっては、こんなに幸せなことはないだろうね……」
創世:(N)生まれ落ちた瞬間から愛し合っていた二人にとって、彼らの愛だけで命が繋がっていくというその世界は、これ以上ないほどに幸せな世界になる。
創世:(N)この時の二人は、何の疑いも持たず、そう信じていたのでした。
○ 創世の別邸・奥の一室
壱人:「……(ぼんやりと目覚める)。……?」
創世:「おはよう」
壱人:「!? な、なに!? なんで!? どこだよここ!!」
創世:「どこって、俺の別邸だけど。きみが勝手に来たんじゃないか。呼んでもいないのに」
壱人:「え……(思い出そうとする)あぁ、そうだけど……いや、僕は帰ろうとしていたはずです! なのになんでまだここに? この部屋は何なんですか!」
創世:「想定より早く起きてしまったね。まだ準備ができていないんだけどなぁ」
壱人:「準備って……だから、――だからこの部屋、何なんですか!」
創世:「何って、見ての通りだけど? お気に召さない?」
【続きは完成版で】
創世:「こんな時にそんな本を届けにこんなところまで来るなんて、きみは一体何を考えて生きているんだい?」
壱人:「こんな時にこんな本を置いて行方をくらますなんて、あなたが一体何を考えているのか知りたかったんですよ」
創世:「(笑って)言うようになったな。少し前までは、兄と同じように俺の顔色ばかり伺っていたのに」
壱人:「これは、兄さんが書いたものじゃない。……ならば恐らく、あなた自身が書いたのでしょう?」
創世:「なぜそう思う?」
壱人:「そうじゃなければ、こんな意味ありげに僕に押し付けていく理由がない」
創世:「俺が書いたとしたら、その理由があると?」
壱人:「わからない。けど、それを確かめる意味でもあなたに会いに来るしかなかった」
創世:「あんなつまらない町で最期を迎える気にはならなかったから出て行った。その本は要らないから置いて行った。それだけだったらどうするんだい?」
壱人:「そんなはずはないです」
創世:「なぜそう言い切れるの?」
壱人:「なぜ自分の家にではなくわざわざ僕の家に置きに来たんですか。意味がわからないじゃないですか」
創世:「それはあれじゃないか? 最後くらいきみに、本当の俺の作品を読んでもらおうと思ったからとか」
壱人:「それで僕にどうして欲しいって言うんです」
創世:「さあ? 今思いついただけだからね」
壱人:「…………」
暫しの沈黙。
壱人:「………………帰ります」
創世:「全く、何しに来たんだか」
壱人:「…………(腑に落ちない気持ちで睨む)」
創世:「じゃあね」
壱人、ドアに手をかけ出ようとする。
壱人:「失礼しまし――!?」
創世、突然壱人を後ろから羽交い締めにする。
壱人:「え!? ちょ、ちょっと、なん……(口を塞がれる)」
創世:「なーんてね。帰ってどうすんの? ……帰ったって、何もないでしょ」
壱人が眠ったのを確認してずるずると奥の部屋へ引きずって行く。
○ 同・奥の一室
壱人:(N)……ここは…………どこだ…………?
…………僕は、……あの人に………………本当は……
創世:『壱人くん』
壱人:(N)……創世さん…………?
創世:『大丈夫。きみと零介(れいすけ)に何かあったら、俺が二人を助けてあげるから』
壱人:(N)……そっか……安心だ…………あなたがいてくれて、よかった。
○ 少年創世記・1
創世:(N)少年創世記。
これは、「アダム」と「イブ」という二人の少年から人類が始まった世界の話。
アダム:「イブ、神の使いの言葉を聞いたかい?」
イブ:「神の使いって、あのヘンテコな岩みたいな奴でしょう? あんなものの喋る言葉なんて、聞く気にならないよ」
アダム:「あれは本体じゃないよ。神の使いは、神様の傍にいるんだ。本体は僕らには手の届かない、空の上の、ずっと上の方にいるんだって」
イブ:「へぇ~。そんなことまで知っているなんて、ずいぶんたくさんお喋りしてきたんだね」
アダム:「神の使いの話を聞くのと、きみとこうして会話をするのとは、全然違うよ。あれは必要な情報の伝達だ。それ以上の何でもない」
イブ:「そう。ごめん脱線させちゃって。何? あの岩が何を言っていたって?」
アダム:「あのね、僕たちは今、この世界に二人きりで、これからもずっとそうなんだと思っていただろう?」
イブ:「え……思っていた、って、なぜ過去形なの?」
アダム:「それがね、どうやらこの世界には、僕たちのような『人間』という生き物が、これからどんどん増えていくらしいんだ。僕たちはその最初の二人なんだってさ」
イブ:「え……」
アダム:「驚くよね。でも本当のことなんだよ。神の使いは嘘を言わないから」
イブ:「でも、ぼくはアダムだけがいればいいのに……。他の『人間』なんて、どんな気持ちで迎えればいいっていうの?」
アダム:「僕も初めはそう思った。でもね、話を聞いてみると、そんなに悪いことでもなさそうなんだよ」
イブ:「どういうこと……?」
アダム:「あのね、これから増えていく新しい『人間』っていうのは、僕たち二人が作っていくんだって」
イブ:「???」
アダム:「僕とイブが、このままもっと愛し合って、一番深く愛し合った時に、その証として、新しい命が誕生するんだって」
イブ:「(あまりピンとこない感じで)ん~……? ん~……それって、どういうことなんだろう?」
アダム:「僕も詳しいことはよくわからないけれど、でも、それはきっと、とても素敵なことだよ。新しい命が生まれたら、今度はそこからまた、次の命が生まれる。ね? これから『人間』というものは、僕たちが愛し合った証だけで増えていくんだ。それがこの世界なら、ここはとても幸せな世界になると思わないかい?」
イブ:「へぇ~……そっか。うん。悪くないね。なんだかぼくたちに都合が良すぎるような気もするけれど、ぼくたちにとっては、こんなに幸せなことはないだろうね……」
創世:(N)生まれ落ちた瞬間から愛し合っていた二人にとって、彼らの愛だけで命が繋がっていくというその世界は、これ以上ないほどに幸せな世界になる。
創世:(N)この時の二人は、何の疑いも持たず、そう信じていたのでした。
○ 創世の別邸・奥の一室
壱人:「……(ぼんやりと目覚める)。……?」
創世:「おはよう」
壱人:「!? な、なに!? なんで!? どこだよここ!!」
創世:「どこって、俺の別邸だけど。きみが勝手に来たんじゃないか。呼んでもいないのに」
壱人:「え……(思い出そうとする)あぁ、そうだけど……いや、僕は帰ろうとしていたはずです! なのになんでまだここに? この部屋は何なんですか!」
創世:「想定より早く起きてしまったね。まだ準備ができていないんだけどなぁ」
壱人:「準備って……だから、――だからこの部屋、何なんですか!」
創世:「何って、見ての通りだけど? お気に召さない?」
【続きは完成版で】
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