フリー声劇台本〜1万文字以内短編〜

摩訶子

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1万文字以内短編

僕のためのVenus(約15分 男2)

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ジャンル【美少年ホラー】

配役 2名
ローラン:男性(少年)
フランソワ:男性(少年)



〇森の奥

フランソワ:「ずいぶんと機嫌が良いようだね、ローラン」
ローラン:「そりゃそうさ。今日も僕たちのヴィーナスは美しい。それだけで僕は幸せだ」
フランソワ:「君は本当に美しいものが好きだね」
ローラン:「君だってそうだろう? …それに、それだけじゃないし?」
フランソワ:「勿論さ。僕たちは同じ星のもとに生まれたもの同士。…同じものを愛するもの同士。だからこうして一緒にいるんだ」
ローラン:「……フランソワ。君がいてくれて良かったよ。君となら、このよろこびを分かち合える。君以外の誰にも………『こんなもの』は理解できない」
フランソワ:「できることなら、理解できない側に生まれたかったものだけれどね」
ローラン:「あ。また異常だ正常だっていう話? もう。そんなことどうでもいいじゃないか」
フランソワ:「安心しろ。僕はもう諦めているから。生まれる前からやり直せるなら少し考えるけれど、こちら側に生まれて、このよろこびを知ってしまった以上は…もう普通でなんていられないよ」
ローラン:「それならいいけどね。間違っても裏切ったりなんかしないでよ? 僕を独りにするのは、僕たちの世界の中で、唯一『罪』に値することだから」
フランソワ:「わかっているよ。君を独りにすることは有り得ない。これは本当のことだから、最後まで覚えておいて」
ローラン:「最後って?」
フランソワ:「………」
ローラン:「?」
フランソワ:「(切り替えるように)…ローラン、彼女は一体、どこの誰なんだろうね?」
ローラン:「えー? なに急に。そんなの今更じゃないか」
フランソワ:「僕たちよりも年上のようにも見えるし、見方を変えれば幼い少女のようにも見える。彼女は何歳なのだろうか?」
ローラン:「フランソワ……その思考は危険だな。君は今、ヴィーナスを人間として見ようとしているよ? わかっているの?」
フランソワ:「名前は何というんだろう? 見た目の通り、美しい、女性らしい名前なのだろうか?」
ローラン:「何も知らなくていいんだよ。知る必要がないのだから。ヴィーナスはヴィーナスでしかない。『これ』は今、僕たちのためだけに存在しているんだ」
フランソワ:「これは……彼女は、生きているのだろうか?」
ローラン:「………」
フランソワ:「それとも、死んでいるのだろうか?」
ローラン:「フランソワ、怒るよ?」
フランソワ:「……なんて。いや、普段考えないことだから、時折ふと考えてしまうことがあるだけだよ。世界の終わりとか、宇宙の果てとか、そんなものと同じさ」
ローラン:「………へぇ~…?」
フランソワ:「答えを知ったところで、別にどっちでもいいんだからさ」
ローラン:「………。生きているのか死んでいるのかもよくわからない、どこの誰なのかもわからない、………そんなの、僕たちだって同じじゃないか」
フランソワ:「………」
ローラン:「………」
フランソワ:「まあ、そうなんだけどね」


(回想・N=ナレーション)

フランソワ:(N)ヴィーナスは、更新される。
 最初はただ、美しいものを求めて、毎日探し続けているだけだった。
 僕もローランも、ただ純粋に美しいものを見ることが好きで、幼い頃はそこら辺の綺麗な石を拾って、石よりも花の方が綺麗だと思えば、石を捨てて花を摘んでくる。花よりも蝶が綺麗だと思ってしまえば、花を捨てて蝶を捕らえてくる。そんなことを繰り返して、満足している日々だった。
 やがて、石よりも、花よりも、蝶よりも美しいものを見つけた。
 それは、人だった。
 美しい人というのは、無機物よりも、植物よりも、動物よりも……何よりも美しいのだと知った。
 僕たちは蝶を捨てて、美しい人を拾ってきた。
 そこで、僕たちの世界に一つ、革命が起きたのだ。
 
 
ローラン:『ねえフランソワ。蝶や花を拾ってきても、誰にも取られやしないけれど、人間はそうはいかないみたいだね。彼女は自分の意思でここから逃げようとする。逃げれば僕たちのもとを離れ、他の誰かのものになってしまう。それは困る。とても困るよね。ねえ、どうしたらいいと思う?』

フランソワ:(N)ローランの相談を受けて、僕は思いついたことを提案した。


(戻る)

ローラン:「本当に、あの時の君の提案は最高だったよね」
フランソワ:「お気に召したようで何よりだよ」
ローラン:「僕たちはそれまで、なぜ見ているだけで満足なんてしていたのだろう。今となってはとても理解できないよ。欲がなさすぎてさ」
フランソワ:「…僕たちの『よろこび』は、この世界で見つけた最も美しいものを、壊して所有すること」
ローラン:「この世にこんな悦びがあるなんて……(うっとりと)知らなかったな」
フランソワ:「……君はこの遊びをするとき、本当にうっとりととろけるような顔をするよね」
ローラン:「そうなの? まあ、そりゃそうだよね。……こんな至上の快感を味わっていて、普通の顔をしていられる君の方がどうかしていると思うよ」
フランソワ:「………僕は」
ローラン:「…ん?」
フランソワ:「………僕は時々思う。ローラン、君は…歪んでいる」
ローラン:「え~? 何それ」
フランソワ:「…! あ、いや……その…」
ローラン:「フランソワ…もしかして、君は今、僕と違うことを考えているの?」
フランソワ:「いや、……」
ローラン:「だめだよ。僕たちは同じ趣向じゃなきゃ…! 今の僕たちには、同じ悦びを分かち合える運命共同体は、お互いしかいないんだから。失うわけにいかないんだよ」
フランソワ:「……いや、大丈夫だ。僕もそれは変わらない。歪んでいるところも君の魅力だって言いたかっただけだよ」
ローラン:「本当かな? なんだか無理があるような気がするけれど」
フランソワ:「(小声で)本当なんだよ」
ローラン:「…? まあいいや。とにかく、絶対に変な気を起こして僕を裏切ったりしないで。最近の君は、なんだか危ないことばかり言うから、心配だ」
フランソワ:「………ねえ、危ないのはどっちなのかな」
ローラン:「!? またそんなことを言うの?」
フランソワ:「君は今、どんな気持ちでいるんだい? この、一番美しい…もっと美しい人を見つけたらそっちに交換して、常にその時その時の一番を保って更新されていく、どこの誰かもわからないヴィーナスを壊して所有することをどう思う!? それで快感を得て恍惚を浮かべている自分を、どう思っているんだい…!?」
ローラン:「フランソワ、きみ…」
フランソワ:「僕は……僕は、歪んでいると思う…。恐ろしいんだ。やっぱりもう、彼女を所有するのはやめたい。ごめんローラン! やっぱりもう我慢できない!!」
ローラン:「!? なんでだよ!? 君はたった今、その口で言ったばかりじゃないか! 君も僕と変わらないって! 歪んでいるところも僕の魅力だって! なのに……」
フランソワ:「あぁ、そうだよ! それは本当のことだ、嘘なんかじゃない!」
ローラン:「ならどうして……! …ねえ、君もわかるんだろう? ほら、見てごらんよ。このヴィーナスの美しさ、突然わからなくなるはずがないだろう? この白い肌、絹のような柔らかい髪、長い睫毛、…かつては赤かった唇…!」
フランソワ:「…あぁ、わかるよ。わかるけれど、でも……」
ローラン:「そして、それを壊して所有する悦び…! 君が僕に教えてくれたんだ。なのにわからなくなったなんて、有り得ないだろう? ねえ、フランソワ、君もわかるんだよね、この至上の悦びが……!」
フランソワ:「わかるに決まっているだろう」
ローラン:「……? なんだよ、急に、偉くきっぱり言っちゃって」
フランソワ:「僕にはそれがわかる。だから言っているんだ、歪んでいるって」
ローラン:「……フランソワ…お願いだよ、不安にさせないで。僕には君しかいないのに。君と二人でいられれば…君と二人でヴィーナスを共有していられれば、僕はそれだけでいいんだ」
フランソワ:「………」
ローラン:「………君は、僕たちの美学を捨てて、ヒトになるつもりなのかい?」
フランソワ:「………」
ローラン:「答えなよ」
フランソワ:「………………」

  少し間

フランソワ:「…ふふ、ふふふふふふふふ」
ローラン:「……? え…?」

  フランソワ、隠していたナイフでローランを刺す

ローラン:「…!? ………なん、……で………っ…………」
フランソワ:「(うっとりと)…君は美しい」
ローラン:「………………ぇ……」
フランソワ:「ヴィーナスを所有して、頬を蒸気させて恍惚とする君の表情は、……この世の何よりも美しい」
ローラン:「………………」
フランソワ:「君も知っているだろう? 君と同じように…いや、君以上に僕は、美しいものを……そしてそれを壊して所有することを、至上の悦びとしているということを」
ローラン:「…フラン、ソ………」
フランソワ:「この趣向を分かち合える運命共同体は、僕にとっても君しかいないから、君をなくすのは惜しくて、もう少し、もう少しと、手に入れるのを我慢して過ごしてきたけれど……」
ローラン:「………………」
フランソワ:「……でも、ごめんローラン。もう我慢できない。……ヴィーナスは、更新されていくんだ。その時その時の、一番美しいものに。……いま僕の目の前に一番美しいものがあるのに、古いもので我慢し続けることなんて、やっぱりできないよ」
ローラン:「………………」
フランソワ:「……そろそろ、君は僕のヴィーナスになってしまうね。喋れなくなる前に、…何か言いたいことはあるかい?」
ローラン:「………っふ、…ふふふ………」
フランソワ:「………………」
ローラン:「………あぁ、………………歪んでいるなぁ」


END
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