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Trust rose (約30分 男3女1(男3は少年で男女不問))

前半パート

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○星空の下

デミアン:「ねえ、マーティン。こうしてぼくがきみの隣に寄り添っていたら、きっと誰もが似合いの恋人たちだと思うことだろうね?」
マーティン:「君は『女優』だ。何にだってなれる。だけど、君が僕のガールフレンドになったところで、そんなの僕達にとって何の意味があるというんだい?」
デミアン:「僕達にとっては意味がなくても、世間的にはその関係が一番しっくりくるものなんじゃないの? 世の中の奴らなんて、複雑なものはわかろうともしないし、したところでどうせわかりやしないんだからさ」
マーティン:「…僕達の本当の関係は、僕達以外の誰にも理解されることはない。本当の『運命共同体』は、愛し合えばいいだけの単純な恋人同士とは全然違う」
デミアン:「ふふ。それならやっぱり、少しは意味があるのかもしれないな。世間の奴らにはただの幸せな恋人同士だと思わせておいて、ぼくは腹の底でこう思うんだ。『難しいことが理解できるのはぼく達だけ。ぼく達以外の奴らはみんな頭からっぽのバカ』ってね」
マーティン:「(軽く笑いながら)そうだな。それも楽しいかもしれないな。今夜は楽しいことだけを考えるのがいい。好きなことを考えて、好きなものを見て……そして、明日のためにちゃんと眠る」
デミアン:「……眠る時間が、勿体ないけどね」
マーティン:「仕方ないよ。ほら、デミアン。見てごらんよ、この宝石みたいな星空を」
デミアン:「…マーティン、ぼく達はこれからも、この星空みたいな美しいものを、見られるのかな?」
マーティン:「……さぁ、どうだろうね。そうだと信じるしかないんじゃないかい?」
デミアン:「……うん、そうだね。どんな未来だったとしても、ひとりぼっちになることはない。きみとは一蓮托生なんだからね」
マーティン:「そういうことだ」


○学校・美術室(夕)

キャロル:(N)私は、この寄宿制の男子高校で新任の美術教師をしているキャロル・ベネット。
 数日前までは、夏休み中とはいえクラブ活動の生徒達で賑わっていた校舎も、本校独自の変わった校則により、今は生徒の姿がすっかりなくなっている期間なので、静かな美術室で、溜まった仕事をのんびり片付けているところだった。
 ………だったのだけれど。

ジェイク:「キャロル先生!! 居る!?」
キャロル:「ジェイクくん? え? なぜ学校に居るんですか?」
ジェイク:「先生! 俺と一緒にモーリスハウスに来て! 急いで!!」
キャロル:「えぇ? モーリスハウスって……今は『休館日』なんだから、全部の寮が閉鎖されているはずでしょう?」

キャロル:(N)そう。この寄宿学校には、お盆の時期の一週間だけ、全生徒が必ず実家に帰省して家族と過ごさなくてはいけないという珍しい校則があり、その期間は全ての寮が閉鎖されるので、彼……今美術室に駆け込んできた『ジェイク』という少年の所属する寮『モーリスハウス』も、今は立ち入り禁止になっているはずだ。

ジェイク:「詳しい話は後で! とにかくすぐに来て!」
キャロル:「いや、でも…何か緊急なら他の先生方も呼んできた方が」
ジェイク:「他の先生は要らない! キャロル先生だけでいいんだ! ほら早く!!」
キャロル:「わっ、ちょ、ちょっとそんなに強く腕を引っ張らないでください…わかった、行きますから!」
ジェイク:「早く、早く!」


○モーリスハウス・裏口(夕)

キャロル:「まったく……裏口の扉なんて、どうやってあけたんですか」
ジェイク:「……誰も、ついてきてない?」
キャロル:「…? 来てないと思うけど……ねえキミ、ほんとにどうしたっていうんです? なぜ他の先生方が居てはいけないんですか?」
ジェイク:「先生…俺のこと少しでも大事な生徒だと思ってるなら、何も聞かずについてきて」
キャロル:「ジェイクくん……?」


○同・ライブラリー(夕)

ジェイク:「ここ、入って」
キャロル:「ここって……ライブラリー? こんな所に何の用があるって……え? 何してるんですか……?」
ジェイク:「……クラブの備品だけど、本物ほどの強度はなくても一応使えるんだ」
キャロル:「何……え、…て、手錠…?!」
ジェイク:「先生、ごめんなさい!! 許して!! 俺だって本当は、こんなことしたくないんだ!!」
キャロル:「ジェイクくん、一体何があったんですか! なぜこんなことを!? ちゃんと説明してください…」
ジェイク:「…お、俺……死にたくない……死にたくないから……」
キャロル:「………………え?」

 少し間

キャロル:「それ、どういう………死にたくないって、どういうことですか……?」
ジェイク:「………先生、俺…」
デミアン:『ジェイク~? 出ておいで~!』
ジェイク:「!?」
キャロル:「…? 今の声は……?」
ジェイク:「は、ははははい! 今行きます!!」
キャロル:「? ちょっと、ジェイクくん!? どこへ!?」


○同・ドアの外(夕)

デミアン:「うん。ちゃんと連れてきたみたいだね。偉い偉い」
ジェイク:「………」
マーティン:「そんな怯えるなよ。……なんて、それは無理な話か。ははは」
デミアン:「あー、マーティンってば笑ったりして酷い~。後輩が怯えてるのに可哀想じゃない。ねえ?」
ジェイク:「………」
マーティン:「大丈夫だよ。ちゃんと言うことを聞いて良い子にしていれば、僕達は『お前のことは』殺さない」
ジェイク:「……(震える)」
デミアン:「ほんとはちょっと見てみたいけどね、ジェイクの死に顔も…」
ジェイク:「ひっ!?」
デミアン:「きっと綺麗なんだろうなぁ…。なにせぼく達が選んだ唯一の後輩なんだから、ね」
ジェイク:「………」
マーティン:「(笑いながら)酷いのはどっちだよ。…じゃあ、さっきも言った通り、僕達はこれからメイクと衣装合わせをするから、しばらくの間、キャロル先生をしっかり見張っているんだよ? いいね?」
ジェイク:「はい」
マーティン:「先生に、僕達がよろしく言ってたって、ちゃんと挨拶しておいてね?」
ジェイク:「はい。わかりました」
デミアン:「えー? ここに居るんだから、挨拶なんて自分ですればいいじゃない。ドアあけまーす! せんせー、やっほー」


○ライブラリー内に戻る(夕)

キャロル:「え!? き、君は……」
マーティン:「! …おいおい、うちの女優は大胆なことをするなぁ」
デミアン:「嬉しいなぁ。新任の先生でも、やっぱりぼく達のことは知っててくれるんだね。ちゃんとした自己紹介をしていってもいいんだけど、これからメイクして、もっと綺麗になってくるから、それからの方がいいよね」
キャロル:「メイク……? いや、それよりこの手錠を…」
マーティン:「先生、うちのが失礼しました。それではまた後でお迎えに来ます」
キャロル:「ちょっと、待ってください! 手錠を…説明を…」
デミアン:「じゃあね~」

 ドア閉まる

キャロル:「………」
ジェイク:「……あの、大丈夫。俺はここに残るから」
キャロル:「ジェイクくん、説明してください。なぜ……」
ジェイク:「………」
キャロル:「………」
キャロル:「…なぜ、そんなに怯えているのですか?」
ジェイク:「……なんで自分にこんなことするのか、じゃないんだ」
キャロル:「……君、ここに来る時、言っていたでしょう? 『俺のことを少しでも大事な生徒だと思うならついてきて』って。…何か、危険な目にあっているのですね?」
ジェイク:「……先生…」
キャロル:「話してください。彼らに何かされているのなら、すぐにやめさせます」
ジェイク:「………先生、助けて……このままじゃ俺…あいつらに……」
キャロル:「………」
ジェイク:「あいつらに……『俺も』殺されるかも………っ」
キャロル:「!? 殺される……? いや、まさか……いくら彼らだって、さすがにそんなことは……」
ジェイク:「………」
キャロル:「………え…? ねえ、今…『俺も』って、言いました……?」
ジェイク:「…(嗚咽)」

キャロル:(N)この子達が閉鎖中の寮に忍び込んでいるのは、演劇部の『自主合宿』のつもりだったらしい。
 一年生のジェイクくんは本来とても真面目で、本当はこんな犯罪まがいの合宿なんて来たくなかったそうだけど、…ある人も一緒に来るからと言われて、思わず参加してしまったのだという。
 演劇部は4人。まず、部長のマーティンくんは、他校の女子生徒などからは王子と呼ばれている、とても格好良い、二年生の憧れの的のような人。共学だったらどんなにモテていたことだろうと、みんな噂している。
 そして、男子のみの演劇部で『女優』と呼ばれているのが、同じく二年生のデミアンくん。彼は制服こそちゃんと指定通りに着ているものの、一歩外へ出れば…もちろん寮でも、いつも女の子の格好をしている、美少女のような愛らしい少年だ。
 ……そして、二年生がもう一人。彼自身は在籍しているつもりはなかったそうだけれど、二人に勝手に名前を書かれて、部員扱いにされていたらしい。名前は、確か……

ジェイク:「……アシュリー先輩」
キャロル:「え? あぁ、そうだ。アシュリーくんだったわね。彼も目立つから、新任の私もすぐに顔を覚えてしまったわ」
ジェイク:「……あの人は、見た目だけで騒がれて、だんだん人前に出ることを嫌がるようになって、…やがて表舞台に出ることをやめてしまったけど………俺はあの人の芝居が好きで、それで演劇部に入ったんだ。…こんなやばい場所だとも知らずにさ」
キャロル:「……そうだったんですか」
ジェイク:「…4人だけの演劇部……入部希望者が沢山いても、みんな門前払いで、誰も入れなかった。けどなぜか、俺は入部を認められたんだ。だからてっきり、アシュリー先輩が俺の芝居を買ってくれたんだと思って舞い上がってたんだけど、……結局それは違って、あの二人が謎に俺のことを気に入ったっていうだけだったんだとさ」
キャロル:「………。…ねえ、演劇部って言うけれど、4人だけでは正式な部とは認められていないはずですよね?」
ジェイク:「うん。あいつらカッコばっかりつけたがるから、絶対に同好会なんて呼ばなくて、俺も演劇部って呼ぶように強要されてたけどね。……あ。でも確か、本当は演劇部でも同好会でもなくて、何か別の、『本当の名前』があるって言ってたっけ」
キャロル:「本当の名前?」
ジェイク:「あるらしいよ。興味なくてすぐ忘れたけど」
キャロル:「そうですか……」
ジェイク:「………」
キャロル:「……話を進めても、大丈夫?」
ジェイク:「………先生。これから俺が何を話しても、本当のことだって、信じてくれる…?」
キャロル:「? えぇ、勿論信じますよ」
ジェイク:「本当に? 本当に何を聞いても信じてくれる?」
キャロル:「そんなに嘘みたいな話をするの?」
ジェイク:「………嘘であってくれたら、………どんなによかったか」
キャロル:「………」


○同・マーティンとデミアンの寮室

デミアン:「どう? このドレス、似合う?」
マーティン:「ああ、勿論さ。とてもよく似合っている。綺麗だよ、僕のデミアン」
デミアン:「ふふ、ありがとう。……でも、ぼくも彼には勝てない。そうでしょ?」
マーティン:「君がレディなら、僕がここで『そうだね』と言えば恥をかかせることになる。でも君はそうは思っていない」
デミアン:「ぼくは美少女のように愛らしいけれど、別に女になりたいわけではないよ。きみの思っている通り、ぼくは『そうだね』という返答を期待してる。それでこそ、きみとぼくが運命共同体だって確認し合えるんだから」
マーティン:「嫉妬のひとつも覚えてくれたら、もっと可愛いお姫様になれるのにね」
デミアン:「そんなの求めてないくせに」
マーティン:「……(笑う)」
デミアン:「(笑う)」
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