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07・とりあえず、掃除魔法を使ってみた②
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キッチンがピカピカになったのはすごい。
すごいんだけど――塵と埃が、とにかく飛ぶ。
おかげで、気づいたときにはリュカの姿が消えていた。
「わんこなら外にいるよ」
「そうですか……」
「誰のせいだと思う?」喉まで出かかったけど、あえて言わないことにした。
言ったところで、このエルフは理解しないだろう。
なにせ、どこが汚いのか本気で分かっていない様子だ。
いろんな意味で、先が思いやられる。
「それでは、セスさん。掃除の続きがありますので、一旦外に出てもらえますか?」
「お? ああ、わかった。魔法コンロは消しておくよ」
「ありがとうございます」
セスが外に出たのを確認すると、すぐに呪文を唱えた。
「ダスト・バイバイ!」
唱えるたびに、白い煙と一緒に塵と埃が舞い上がる。
結果――おれ自身が、塵埃まみれになった。
「セスさん、リュカ、もう大丈夫……って、なにそれ?」
外に出ると、セスさんとリュカは並んでクッキーを食べていた。
「食べる? アキ?」
あまりにも呑気なセスさん。
リュカはリュカで、完全にクッキーに夢中だ。
「あ、はい……いただきます」
「アキ、ちょっと待ってて」
そう言うと、セスがなにやら呪文を唱えた。
次の瞬間――
おれは思いきり渦潮に巻き込まれた。
「っ!?」
殺されると思った。
……けど、それは一瞬だった。
あまりにも呆気なくて、茫然と立ち尽くしていると、セスが得意げな顔をする。
「埃まみれだったから、清潔魔法をかけたんだ」
「へぇ……そんな魔法があるんですね」
「そうだね。人間だと、使えるのは貴族くらいかな」
もくもくとクッキーを食べるセスを横目に、おれもとりあえずクッキーを口にした。
一口かじる。
ほんのり甘くて――
なぜか、すごく懐かしい味がした。
「アキ?」
不思議そうな顔をしたリュカが、なにを思ったのか、おれの頬をぺろっと舐めた。
思考が止まった。
「涙が出るほどまずかったか!?」
「え? 涙??」
気づけば、目からぽろぽろと涙がこぼれていた。
「うん……クッキー、おいしいよ。なんか……懐かしくて……」
「……大変だったね、アキ」
セスさんに頭を撫でられた途端、堰を切ったように涙が溢れ出した。
死ぬか、生きるか。
そんな生活が、あまりにも長すぎた。
すごく、しんどかった。
だから、なんだろう。
涙が止まらなかった。
この手で何度も人を殺めてきたのに、
たった一枚のクッキーで、こんなにも安堵するなんて。
その後は、リュカとセスさんにぎゅっと抱きしめられて――
いつの間にか、意識が遠のいていた。
次に目を覚ましたのは、ふかふかのベッドの上。
隣には、リュカがいた。
リュカがいるだけで、こんなにも安心できる。
あの時、リュカを見捨てなくて本当によかった。
「ありがとう……リュカ」
そう呟いて、リュカの手をそっと握る。
そして、おれは再び眠りに落ちた。
すごいんだけど――塵と埃が、とにかく飛ぶ。
おかげで、気づいたときにはリュカの姿が消えていた。
「わんこなら外にいるよ」
「そうですか……」
「誰のせいだと思う?」喉まで出かかったけど、あえて言わないことにした。
言ったところで、このエルフは理解しないだろう。
なにせ、どこが汚いのか本気で分かっていない様子だ。
いろんな意味で、先が思いやられる。
「それでは、セスさん。掃除の続きがありますので、一旦外に出てもらえますか?」
「お? ああ、わかった。魔法コンロは消しておくよ」
「ありがとうございます」
セスが外に出たのを確認すると、すぐに呪文を唱えた。
「ダスト・バイバイ!」
唱えるたびに、白い煙と一緒に塵と埃が舞い上がる。
結果――おれ自身が、塵埃まみれになった。
「セスさん、リュカ、もう大丈夫……って、なにそれ?」
外に出ると、セスさんとリュカは並んでクッキーを食べていた。
「食べる? アキ?」
あまりにも呑気なセスさん。
リュカはリュカで、完全にクッキーに夢中だ。
「あ、はい……いただきます」
「アキ、ちょっと待ってて」
そう言うと、セスがなにやら呪文を唱えた。
次の瞬間――
おれは思いきり渦潮に巻き込まれた。
「っ!?」
殺されると思った。
……けど、それは一瞬だった。
あまりにも呆気なくて、茫然と立ち尽くしていると、セスが得意げな顔をする。
「埃まみれだったから、清潔魔法をかけたんだ」
「へぇ……そんな魔法があるんですね」
「そうだね。人間だと、使えるのは貴族くらいかな」
もくもくとクッキーを食べるセスを横目に、おれもとりあえずクッキーを口にした。
一口かじる。
ほんのり甘くて――
なぜか、すごく懐かしい味がした。
「アキ?」
不思議そうな顔をしたリュカが、なにを思ったのか、おれの頬をぺろっと舐めた。
思考が止まった。
「涙が出るほどまずかったか!?」
「え? 涙??」
気づけば、目からぽろぽろと涙がこぼれていた。
「うん……クッキー、おいしいよ。なんか……懐かしくて……」
「……大変だったね、アキ」
セスさんに頭を撫でられた途端、堰を切ったように涙が溢れ出した。
死ぬか、生きるか。
そんな生活が、あまりにも長すぎた。
すごく、しんどかった。
だから、なんだろう。
涙が止まらなかった。
この手で何度も人を殺めてきたのに、
たった一枚のクッキーで、こんなにも安堵するなんて。
その後は、リュカとセスさんにぎゅっと抱きしめられて――
いつの間にか、意識が遠のいていた。
次に目を覚ましたのは、ふかふかのベッドの上。
隣には、リュカがいた。
リュカがいるだけで、こんなにも安心できる。
あの時、リュカを見捨てなくて本当によかった。
「ありがとう……リュカ」
そう呟いて、リュカの手をそっと握る。
そして、おれは再び眠りに落ちた。
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