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8.馬鹿と幸せ
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慣れた屋敷の慣れた部屋。
慣れた手つきで持ち上げているのは、大好きな蓮の息子であり可愛い可愛い弟分の銀花だ。
「せーの!! ほーら、高いだろう!? この屋敷だと今は僕が一番背が高いからね」
「きゃー!!」
嬉しそうにはしゃぐ銀花に頬を寄せ、その温もりを噛み締める。柔らかく温かい肌は、もっちりとして本当に餅のようだ。
「銀花のほっぺは食べたら甘そうだね!」
「らめー!」
「ははは! 食べないよ。それくらい可愛いってこと」
今度は銀花を抱えながらゴロゴロと部屋を転がる。そんな遊びをしていると何かに当たってしまい見上げると、洗濯物を山ほど持った風花が部屋に入ってきたところだった。
足元に転がる大きな男とそれに抱えられた赤子を無言で見下ろしたあと、部屋の中心で洗濯を畳み始めた。
「手伝おうか?」
「……必要ない。っていうかいつまでいるの?」
「うーん、あと……三日、いや、一週間?」
既に蓮の屋敷に里帰りをして二週間が経っている。集落の人には遠縁に不幸があったから、しばらく戻れないと伝えてあるので問題ないが、さすがに風花は黙っていられなくなったようだ。
「別にいつまでいても良いんだけどさ」
「……ごめん」
「謝って欲しいんじゃないから。はぁー……」
そう言うと、風花は洗濯物を畳む手を止めた。そしてこちらを見て、冷めた瞳で軽く睨む。
「六花さぁ、なんで人間になったの? あいつと一緒にいるためじゃないの?」
風花の歯に衣着せぬ物言いは昔からだが、やはり胸に刺さるものがある。しかし里帰りして今まで二週間、誰も何も言わなかったのが逆に不自然なくらいだ。
やっと言い出したかという思いと、言わなければという思いで頭がグラグラしそうだ。
「……そうなんだけど……さ。好きだから、好きって言ったら終わっちゃいそうで」
「馬鹿だね。で、人間とは身体は交わったのに契りは交わせなかったと」
「――、なんで……いや、そりゃ分かるよね」
屋敷に来た時、きっと僕からは人間であるハルトの気配や匂いがこびり付いていたに違いない。それほど……ハルトが日本を去る直前まで交わった。
あの日、酒を飲みながらもう一回、その翌日は昼に居間で、夜に布団の上で、さらに翌日は朝から求めたし、昼間にもこっそりと外出中にイタズラをしてその勢いのまま帰ってから激しく交わった。
その翌日、日本を発つ前日から当日の朝までは布を纏っていた時間の方が少ないほど、ハルトを求めた続けた。
ハルトの至る所に跡を残し、全身を、特に可愛い乳首を愛撫し続けた。
触れてないところは無いのではというくらい、あらゆる場所を撫でた。
しかし、たった一言「愛してる」とは言えなかった。ハルトもそれを言わなかった。
「蓮様もだし、天花もだけどさ、抱かれたらその人と添い遂げるもんじゃないの?」
「性的な欲求を満たすだけってのもあるんだよ」
「……よくわかんないな。愛する人以外に触れられるのなんて最悪だと思うけど」
「ははっ、僕もそう思う」
自虐的なため息を吐くと、風花は小さく「本当に馬鹿だな」と呟いた。
きっと、その言葉に対して返事を求めてはいなかったと思う。しかし、銀花を抱いたまま起き上がり、胡座をかいて膝に乗せ、真っ直ぐ風花を見つめた。
「馬鹿だよ。……きっと僕達兄弟はみんな馬鹿だ。じゃなかったら、天花が天狗の嫁になるなんて言い出さないだろ? そして、僕は人間になった。風花は何になるかなー? そうだな。外国の神に嫁いだり?」
「馬鹿じゃない? 俺はずっと、蓮様のそばだよ。それしかない」
それは諦めとかそういう類ではなく、決意に似た言葉だ。三人で神使になったのに、一人は常に神の傍に居られず、一人は神使の役割を放棄した。ならば自分は絶対離れないという決意……。
実は三人のうち誰よりも真面目な風花だからこそ、無意識のうちにそう決意をしてるのだろう。
「それしかない……か。でも、きっと蓮様は風花も風花の幸せを見つけて欲しい、と思ってるよ??」
そう言うと風花は、今度はあんぐりと口を開き目を瞬かせた。そして、大きくため息を吐いて、なぜか諦めたように笑みを浮かべた。
「はぁーぁ。六花。それ六花もだからな? 幸せになれるならって人間になるの許可したんだから」
「ははっ、ごもっとも」
膝の上から降りた銀花は、てちてちと歩いて風花に抱きついた。
「ふー、た。ふー、た」
「どうした? 銀花」
「あ」
「あぁ、おしめか。よく伝えてくれたな」
「風花、僕、明日の朝戻るよ」
銀花を抱いて立ち上がった風花は「わかった」とだけ答えて部屋から去っていった。
慣れた手つきで持ち上げているのは、大好きな蓮の息子であり可愛い可愛い弟分の銀花だ。
「せーの!! ほーら、高いだろう!? この屋敷だと今は僕が一番背が高いからね」
「きゃー!!」
嬉しそうにはしゃぐ銀花に頬を寄せ、その温もりを噛み締める。柔らかく温かい肌は、もっちりとして本当に餅のようだ。
「銀花のほっぺは食べたら甘そうだね!」
「らめー!」
「ははは! 食べないよ。それくらい可愛いってこと」
今度は銀花を抱えながらゴロゴロと部屋を転がる。そんな遊びをしていると何かに当たってしまい見上げると、洗濯物を山ほど持った風花が部屋に入ってきたところだった。
足元に転がる大きな男とそれに抱えられた赤子を無言で見下ろしたあと、部屋の中心で洗濯を畳み始めた。
「手伝おうか?」
「……必要ない。っていうかいつまでいるの?」
「うーん、あと……三日、いや、一週間?」
既に蓮の屋敷に里帰りをして二週間が経っている。集落の人には遠縁に不幸があったから、しばらく戻れないと伝えてあるので問題ないが、さすがに風花は黙っていられなくなったようだ。
「別にいつまでいても良いんだけどさ」
「……ごめん」
「謝って欲しいんじゃないから。はぁー……」
そう言うと、風花は洗濯物を畳む手を止めた。そしてこちらを見て、冷めた瞳で軽く睨む。
「六花さぁ、なんで人間になったの? あいつと一緒にいるためじゃないの?」
風花の歯に衣着せぬ物言いは昔からだが、やはり胸に刺さるものがある。しかし里帰りして今まで二週間、誰も何も言わなかったのが逆に不自然なくらいだ。
やっと言い出したかという思いと、言わなければという思いで頭がグラグラしそうだ。
「……そうなんだけど……さ。好きだから、好きって言ったら終わっちゃいそうで」
「馬鹿だね。で、人間とは身体は交わったのに契りは交わせなかったと」
「――、なんで……いや、そりゃ分かるよね」
屋敷に来た時、きっと僕からは人間であるハルトの気配や匂いがこびり付いていたに違いない。それほど……ハルトが日本を去る直前まで交わった。
あの日、酒を飲みながらもう一回、その翌日は昼に居間で、夜に布団の上で、さらに翌日は朝から求めたし、昼間にもこっそりと外出中にイタズラをしてその勢いのまま帰ってから激しく交わった。
その翌日、日本を発つ前日から当日の朝までは布を纏っていた時間の方が少ないほど、ハルトを求めた続けた。
ハルトの至る所に跡を残し、全身を、特に可愛い乳首を愛撫し続けた。
触れてないところは無いのではというくらい、あらゆる場所を撫でた。
しかし、たった一言「愛してる」とは言えなかった。ハルトもそれを言わなかった。
「蓮様もだし、天花もだけどさ、抱かれたらその人と添い遂げるもんじゃないの?」
「性的な欲求を満たすだけってのもあるんだよ」
「……よくわかんないな。愛する人以外に触れられるのなんて最悪だと思うけど」
「ははっ、僕もそう思う」
自虐的なため息を吐くと、風花は小さく「本当に馬鹿だな」と呟いた。
きっと、その言葉に対して返事を求めてはいなかったと思う。しかし、銀花を抱いたまま起き上がり、胡座をかいて膝に乗せ、真っ直ぐ風花を見つめた。
「馬鹿だよ。……きっと僕達兄弟はみんな馬鹿だ。じゃなかったら、天花が天狗の嫁になるなんて言い出さないだろ? そして、僕は人間になった。風花は何になるかなー? そうだな。外国の神に嫁いだり?」
「馬鹿じゃない? 俺はずっと、蓮様のそばだよ。それしかない」
それは諦めとかそういう類ではなく、決意に似た言葉だ。三人で神使になったのに、一人は常に神の傍に居られず、一人は神使の役割を放棄した。ならば自分は絶対離れないという決意……。
実は三人のうち誰よりも真面目な風花だからこそ、無意識のうちにそう決意をしてるのだろう。
「それしかない……か。でも、きっと蓮様は風花も風花の幸せを見つけて欲しい、と思ってるよ??」
そう言うと風花は、今度はあんぐりと口を開き目を瞬かせた。そして、大きくため息を吐いて、なぜか諦めたように笑みを浮かべた。
「はぁーぁ。六花。それ六花もだからな? 幸せになれるならって人間になるの許可したんだから」
「ははっ、ごもっとも」
膝の上から降りた銀花は、てちてちと歩いて風花に抱きついた。
「ふー、た。ふー、た」
「どうした? 銀花」
「あ」
「あぁ、おしめか。よく伝えてくれたな」
「風花、僕、明日の朝戻るよ」
銀花を抱いて立ち上がった風花は「わかった」とだけ答えて部屋から去っていった。
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